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クラス転移と異世界セルベリーク 後編

後編です

 俺達は皆、唖然としていた。


 それだけ、彼女――――クラウネの一言がインパクトのあるものだったから。


「まき、こまれた・・・?」

「ええ、巻き込まれたのですわ。3人の”勇者様”に」


 巻き込まれた

 それはつまり、その3人以外は本来ここに来るハズでは無かったということ。

 思い返してみれば、クラウネはジョージに対しては”勇者”と付けていたが、俺はただ名前だけだった。


 現状をやっとこ理解し、頭を抱える。

 ああ、俺達はなんて・・・


「・・・ツイてねぇ」

「で、でも、召喚されるくらいなら送還だってできるんじゃ――――」

「いえ、残念ながら今はできませんの」


 いいんちょの言葉をさえぎってクラウネは言う。


「召喚魔法を使用するには莫大な『魔力』を必要としますの。この遺跡には魔力を蓄積させる器である『大魔晶石』が存在しますが、送還魔法を使用するだけとなると、召喚魔法とほぼ同等――――つまり50年間ほど魔力を貯める必要がありますわ」

「50、ねん・・・」


 いいんちょの顔が絶望の色に染まる。

 他のクラスメイト達もクラウネの言葉を聴いてざわつく声が大きくなった。

 それもそうだ。クラウネの話が本当であれば、俺達はたとえあちらの世界に帰ることができたとしても、その時の周囲は大きく様変わりしているはずだ。自分達の親も運がよければ生きて会えるだろうが、それでも年は90歳は越えているだろう。

 帰れなくはない。だが、その期間が長すぎる。

 ――――これでは、2度と戻れないと宣告されたも同然であった。






「では、そろそろ本題に戻ってもよろしくて?」

「あ、ああ、そうだな。召喚理由の話をしてたんだった」


 巻き込まれウンヌンがインパクト強すぎて忘れてた。

 余談だが、いいんちょや他のクラスメイトは殆どあきらめに近い様子でクラウネの話を聞いている。

 泣いている者は、少なからず居る。気落ちした様子を見せるものは、大勢いる。ただそれでも、自棄になるような者はただの一人も居ない。

 この3年間を一緒に過ごした仲間達の鋼のメンタルは伊達ではない。

 中には今までにあいつ(・・・)の起こした事件で死に掛けた者もいる。まぁ俺のことだが。

 ここにいるのはそんな連中だ。

 もうしばらくすれば、落ち着きを取り戻した者から順に周囲を励ましあっていつも通り――――とは行かずとも、少なくとも泣いている者はいなくなるだろう。そう、確信めいたものがあった。

 ・・・・今だけは、この鋼のメンタルを鍛えてくれたあいつ(・・・)に感謝したいと思った。


 そうしていると、クラウネが話し出す。


「勇者が召喚される最後の条件、それは――――」


 緊張から、ごくりと喉が鳴る。




「――――今でも、英雄に、勇者に、なりたいと願っていることですわ。

 幼い頃から今まで――――ずっと、同じ夢を持ち続けること、それが最後の条件です

 ただ、生半可な願いではこうはなりません。自分の一生をかけて『英雄になる』と強く思い続けている者。そんな方が勇者として召喚されるのですわ。

 もちろん、勇者ジョージ。あなたの思いの強さは、ここに召喚されたという事実がしっかりと物語っていますわ。誇っていいのですよ?」




 彼女は、クラウネは、屈託の無い笑顔で、そうジョージに言った。




 ・・・・・長い、沈黙が訪れた。


 だれもかれもが、今日何度目かも分からない唖然とした表情を浮かべていた。


 ――――幼い頃から今まで、ずっと


「――――クァぁ゛あ゛・・・・・」


 俺の目の前の、190cm越えの巨漢から、なにか肺の空気を搾り出すような声が聞こえた。


 あたりを再度気まずい沈黙が包み込む。


「・・・・ジョージ」

「・・・・紫夕君」


 思わず呟いた俺といいんちょの視線の先には、先ほどまでクラウネに啖呵を切っていたジョージの姿。

 よく見ると体が小刻みに震えている。

 後ろ姿しか見えないが、それでもわかることは、彼は耳まで真っ赤にしているということだった。


「・・・・いや、夢を持つことはいいことだ、うん」

「そ、そうですよ!みんな誰だって正義のヒーローには憧れますから!」


 俺達のフォローにジョージは、


「・・・・・いっそころせぇぇぇ・・・・・・!!!」


 OTLな姿勢でかすれた声を発したのだった。







 そういえば、ジョージを除いても『勇者』はあと二人いるんだった。


 実を言うと、俺はこの時点において残りの二人が誰だかわかっていた。

 おそらく、他のクラスメイトも、だ。


 クラスメイト達は大体が悲しみからなんとか立ち上がっている。

 これを完全に立ち直らせるには・・・・・・俺の得意の芝居を打つ必要があるか。

 アイコンタクトで俺の意図を理解してくれたらしいいいんちょとてっちんが、二人で顔を見合わせたあとこっくりと頷いた。


 俺は無言で、うなだれるジョージの腕をホールドした。反対側はてっちんが、正面には仁王立ちして微笑を浮かべるいいんちょの姿。


「お、おい軍曹、てっちん、どうした?」

「ちょっと黙っててくれるかジョージ」

「ごめんなさい、紫夕くんちょっと動かないでくれますか?」

「な、なにを――――」


 面白そうに事を見守るクラウネを尻目に、俺は”軍曹モード”で叫んだ。



「――――ハトケンとアニスをひっ捕らえろ!逃がすな!」



 俺の言葉に24人が一斉に動いた。



 *****************************


 程なくして二人の生徒が両脇をホールドされながら連れられて来た。


「お、おい、はなせ!」

「まって!大丈夫だから!一人で歩くから!」


 つれられてきたのは二人の男女。

 俺は彼ら+ジョージをクラウネの前に引き出して言う。


「多分だけど、残りの勇者は彼らじゃないか?」

「ええ!正解ですわ!ですが、どうしてお分かりに?」

「そりゃわかるさ」


 俺の答えに、クラウネは小首を傾げ、27人の生徒は皆一様に頷く。



 つれてこられた二人――――真嶋速人(まじまはやと)、通称ハトケンと、樒梓(しきみあずさ)、通称アニスはこのクラスの問題児・・・・いや、言うなれば『勇者』だからだ。ただし、悪い意味で。

 そう、この二人が俺達の鋼のメンタルを鍛え上げた張本人である。



 真嶋速人――――ハトケンは、一言で言うとイケメンだ。ただし、頭に”残念な”と付くが。

 容姿端麗、頭脳明晰・・・とまでは行かないが”勉強ができる”と言う面では悪くは無い。背は175cmほどと普通だが、スポーツは万能で少しやらせればなんでもできるようになる。常に正義感に溢れていて、いじめなどは絶対に見過ごさず、根本から解決しない限り絶対に一歩も引かない。そのために校内での人気は男女共に高い。だがこいつにはそれを補って余りある欠点がある。それは――――

 ――――鉄砲玉なのだ、こいつは。それはもう最高に。

 いつも後先考えずに突っ込むせいで、事後処理がいつも俺達に回ってくる。いじめを解決するためには他校までも平気で突撃するため、なんどハトケンの事後処理で謝りに他校に行ったかわからない。お陰で、周辺の学校の職員と仲がよくなってしまった。

 先の俺が死に掛けた件は、コイツが修学旅行の際に宿泊先のグアムで起こした事件のせいである。


 閑話休題


 そして、このハトケンの行動を後押しする者が居る。

 それがもう一人の連行者――――樒梓、通称アニスである。あだ名の由来は(しきみ)の英語圏の呼び名から。

 こいつは、ハトケンの行動に感化されて一緒にいじめなどを潰して回っていた。

 ハトケンが他校のいじめ問題にまで首を突っ込むようになったのはだいたいこいつのせいである。

 160cmほどの身長で、ショートボブに切りそろえられた髪。一見すると活発な美少女という印象であるが、中身はハトケン教の信者である。

 二人のやっていることはいじめ撲滅という点では良いことなのであるが、実際殴りこみに近いことをしているのではっきり行って事後処理を任せられる俺達としては迷惑極まりない。

 少し前に『ある特定の条件で二人ほど敵になる』と言ったが、言わずもがなこいつらのことである。



 ――――といった説明をクラウネにしたところ、彼女は「とても勇者らしい行動です」と眼を輝かせて頷いた。このアマ、悪い部分を一切聞いていない。ああ・・・ハトケン教の信者がまた一人増えた・・・。


「それで、こいつらはどうするんで?」

「セレイダ公国では勇者様は王族と変わりない対応でおもてなしするのが慣わしですわ」

「よかったな、お前ら!王族と変わんないってよ!」

「いいわけあるか!」


 ジョージが振り向いて言い返すが、ハトケンとアニスはすでにこちらを見ていない。


「クラウネ様!貴方の国を豊かにするためにも、不肖ハヤト・マジマ、微力ながらもお手伝いいたしましょう!」

「同じくアズサ・シキミです!よろしくお願いします!」

「おまえらぁぁあ!!何勝手に話し進めてんだ!」

「ジョージ!お前は困っている人を見ても見捨てるのか!違うだろう!勇者として呼ばれた以上、俺達は今まで以上に人々に手を差し伸べる存在にならなくてはいけないんだ!」

「そうだよ!私達は勇者なんだよ!正義の味方なんだよ!」

「(こいつら完全に自分に酔ってやがる・・・)」


 ジョージは深いため息を付いた後、ちらりとこちらを見た。


 ――――俺はジョージの秘密をひとつだけ知っている。

 それは、ジョージはアニスに――――樒梓に惚れているということ。

 彼としては、勇者にはなりたくないが彼女を放っては置けないとう感じなのだろう。


 俺はジョージの肩にポンと手を置いて、言う。


「がんばれ」

「なにをだよぉぉおお!!」

「これからは、お前だけであいつらの面倒を見るんだ」

「勘弁してくれ・・・・」


 うなだれるジョージを尻目に、俺は今一度クラウネに向き直る。


「こいつらは勇者として王族級の待遇を受けるんだろ?じゃぁ、残された俺達はどうなるんだ?」


 今俺が一番聞きたいことだった。

 後ろで聞いていた26名もいつの間にか皆こちらに耳を傾けていた。


「心配なさらないでくださいな。別に勇者様ではないといってもこの場に放り出して『勝手にしろ』なんて言いませんわ」

「そりゃよかった。放逐されたりしたらどうしようかと思ってた」

「さすがにそんなことはしませんわ」


 ワザとらしく頬を膨らませてクラウネが言う。


「実を言うと、遠い昔にも同じように集団でいらっしゃった勇者様が居るのですわ。そのときに勇者様以外の方々にも失礼のないように対応するように決まりが定められましたので」


 ただし、と


「申し訳ありませんが、勇者様と同じ待遇という訳にはいきません。ですが、城下にお住まいと当分の生活費を用意いたしますわ」


 まぁ、俺達は勇者と違って他の領地や他国に訪問なんて仕事はしないからな。住むところと当分の金が貰えるだけまだマシだろう。てっちんに借りた小説では一文無しで城を追い出された主人公もいたし。


「そういうことらしいが、皆はどうだ?」


 後ろで話を聞いていた皆に問いかけると、反応は上々。まだ納得しきれない者も少数居るようだが、大体が若干諦めも入った視線を飛ばしつつ深くうなずいた。


「では勇者様、それとご友人の皆様、早速首都へと参りましょう!セレイダ公国は皆様を歓迎しますわ!」


 クラウネが大きく手を広げて俺達に言い放った。





 そうして俺達は異世界セルベリークにて第二の人生を歩むこととなった。






次も早いうちに

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