歓迎パーティー
最近悪役令嬢ものを読みすぎてるせいか、猟兵くんのキャラがチャラくなってきた。
まぁでもヒロインは麻紀ちゃんだけだからね。甘くてもいいよね。
早く戦闘描写書きたい
SIDE――――マキ・モトフミ
チチチチという鳥の声に目を覚ました。
空はまだ白み始めたばかり。
いつもより少し早く起きてしまったらしい。
昨日届いたばかりの寝巻きから、同じく昨日届いたばかりの私服へと着替えた。
地球の服とは材質も感触も違う服だけど、着心地自体は悪くない。
ハイネックの白いブラウスに、前開きで袖の無い薄い青のボディス。そして同じ色の踵まであるスカート。少し様相は違うが、ディアンドルのように見えるかも。
お風呂場に併設された洗面所で顔を洗って、鏡を見る。
――――まだ少し、目は赤く腫れている。
彼の呼吸が止まりそうになったとき、私はただ泣きながら彼の名前を呼び続ける事しかできなかった。
青い顔をしながら懸命に処置をする耶南さんと、彼女の指示に奔走する藤城君と宋徳寺君。
彼を心配するクラスメイトの皆。
握り締めた手が、温もりを失っていく。
このままじゃ――――まさか。
最悪の展開が頭に浮かんだ。
視界が色を失う。
周囲の音が段々と聞こえなくなる。
ドクン、ドクンと自分の心臓の音だけが妙に大きく響いて――――
「――――んちょ、いいんちょ!」
「・・・・ふぇ?」
「大丈夫?いいんちょ。・・・・・昨日はちゃんと眠れた?」
いつの間にか私の隣には藪北さんがいて、心配そうに顔を覗き込んでいた。
「あ、うん、大丈夫ですよ。ちょっとぼーっとしてたみたいで」
「ホントに?」
「ほんとです」
そっか、と彼女ははにかんで、隣で顔を洗い始める。
濡れた顔をタオルで拭いながら、彼女はその双眸に少しの怒りを灯した。
「まったく!軍曹のやつ、いいんちょをこんなに心配させて!ううん、それだけじゃない。私たちだって昨日は気が気じゃなかったんだから」
軍曹――――私の好きな彼、猟兵くんのあだ名だ。
私たちは、昨日の夜にお互いの気持ちを伝えて両思いになった。
そのときのことを思い出すと、思わず顔がにやけそうになる。
「ふふ、そうですね。ほんと、何もなくてよかったです」
できるだけ何気なく返したつもりであったが、藪北さんはきょとんとした後に何か引っかかったような顔をした。
「あ、あのさ、いいんちょ」
「どうしました?藪北さん」
「なんかさ、良い事でもあったの?」
「・・・・?」
ふと、正面の鏡を見る。
自分のだらしないにやけ顔が写る。
――――やらかした。
咄嗟にバッと顔を両手で覆った。
「な、なんの事ですか?」
「いや、さすがにごまかせな――――!?」
途中で言葉を切った藪北さんに視線を向けると、彼女は真っ赤な顔で額に手を当てていた。
なぜか、どこか困ったような表情に見える。
「あ、あの、どうかしましたか?」
藪北さんは、無言で首筋をちょんちょんとつついた。
今度は私が真っ赤になる番だった。
***********************
逃げるように洗面所から出て、食堂へ向かった。
が、そこには先客が居た。
「ん?おう、おはよ。麻紀」
「あ・・・おはよう、りょうくん」
そこにいたのは、先ほど話題になったばかりの私の恋人だ。
彼も昨日届いたばかりの服を着ていた。
白いシャツに、装飾が入った薄い赤のベスト、黒のスウェットと革のブーツという出で立ちの彼は――――やっぱりかっこいい。
紅茶を淹れている彼の近くによると、爽やかな茶葉の香りとうっすらと石鹸の香りがした。朝一でお風呂に入っていたみたいだ。
「俺流モーニングブレンド、飲む?」
「うん、いただきます」
二人で隣同士の席について、人心地つける。
彼が淹れてくれたお茶は、爽やかな、それでいて少し甘い香りがする。
暖かい紅茶が、私の心をほぐしてくれる。
「ダージリンっぽい茶葉に、エルダーフラワーとマリーゴールド、それと林檎の果実を少々・・・・・自分で言っててなんだが、まったくモーニングっぽくないテイストだったな」
そう言ってりょうくんは苦笑する。
釣られて私も笑って――――同じタイミングでお互いのほうを向いた。
視線が合わさる。
トクン、と
鼓動が甘い痺れを残すように鳴る。
引き寄せられるように、唇が近づいて
「ん・・・・ちゅ」
触れるだけの軽いキス。
ほんのりと紅茶の香りがして、それでいてずっと甘い。
彼はそれから、流れるように私の瞼と額に唇を落としてから離れた。
「・・・・額は余計だったかな」
「どうしてですか?」
「友情のキスはもう必要ない」
言って、今度は頬に口付ける。
「”満足”した?」
「・・・・ちょっと、物足りないかもです」
そう言いつつ、私は彼の手をとって手のひらに口付けた。
「んじゃ、オマケに」
彼も同じように私の手をとって、手の甲にキスを落としてから、私の頬に手を添えてもう一度唇に。
同じく触れるだけのキスだけど、今度は2回。
2回目はゆっくりと、長い時間をかけて。
唇を離して、額をあわせて二人で笑いあう。
「・・・・あと1ヶ所残ってるけど?」
「そ、そっちは・・・・まだダメ、です。・・・・・えっちぃので」
「でも昨日しただろ?」
そう言って彼はブラウスの首元をすこしずらした。
そこには赤い跡がある。
「き、昨日のは特別です」
「そうか、残念だ。じゃ、また今度な」
彼はくくくと笑う。
宋徳寺くんたちにえっちなのはダメと言っておきながら、『最後の1ヶ所』にキスされるのを期待している私がいるのを見抜いての笑いだった。意地が悪いと思う。でも大好き。
そうして体を離したところで、朝の喧騒が聞こえてきた。
そろそろ、皆起きてきたらしい。
「それじゃ、朝ごはんの仕度を始めようか、いいんちょ」
「そうしましょうか、小林くん」
私たちはいつもの呼び方に戻る。
隠すつもりは無いが――――なんとなく、皆の前だと気恥ずかしいから。
さぁ、今日も1日を始めよう。
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SIDE――――リョウヘイ・コバヤシ
「――――皆、心配をかけて本当にすまなかった。今後は2度と、こんなことが無いようにする」
深々と頭を下げる。
昨日は皆にかなりの迷惑をかけてしまった。
「本当にな。気ぃつけてくれよ」
「お前らしくないミスだったな。今回は」
てっちんとチーフがニヤッと笑いながら言う。二人に昨日のお礼を言って、今度は和尚とメディ子に向き直る。
「二人には感謝してもしきれない。本当にありがとう、助かった」
「いいってこと。いつもは私のほうが迷惑かけてるから、おあいこだね」
「そういうことだ。だが、確かにチーフ殿が言うように軍曹殿らしからぬ失敗ではあったな」
「魔法が使えて浮かれてたんだ。今後は気をつける」
俺は皆にもう一度「ありがとう」と言うと、今日の予定を確認することにした。
*
**
****
それから数時間後、昼間を軽く済ませたところで馬車がぞろぞろとやってきた。
そう、今日は城での歓迎パーティがある。
迎えの馬車で城に入ると、まずは男女に分けられた。
別れる前に麻紀と一言二言話していたのだが、なぜかメイドさんが妙に暖かい視線を送ってきていた。
それからまた個別に分けられて、メイドさんがそれぞれついた。
メイドさんに案内されるままに一室に入ると、更に数人のメイドさんに取り囲まれて服を脱がされる。
手際があまりにも良すぎて抵抗もできないままにパーティー用の衣装に着替えさせられた。
黒を基調とした、ゴテゴテとした装飾のついたその服は、どこか軍服のようにも見える。
モノクルを掛けたベテランそうなメイドさんが、解説をいれてくれた。
「こちらの服はザヴァーニエ伯爵様が騎士団に入られた時にお作りになられた服でございます。ご婦人であらせられますマルコレイナ様よりリョーヘー様のお話をお聞きになった際、この服をどうしてもリョーヘー様へ差し上げたいとおっしゃられまして」
「マルコレイナ様?」
「第二公女殿下――――クラウネ様のお付の騎士でございます」
「マルコムさんか!」
あの人、偽名だったのか。というか、そんなことよりも――――
「マルコムさんって、もしかして女性?」
「そうでございます。巨人族の女性で、護衛の際は変声の魔法を用いて声を変え、男性として振舞っているのでございます」
よくよく考えれば、まだ結婚もしていないご令嬢の傍に男の騎士を置くのも微妙か。
アッセラに付くまであの人が一度も鎧を脱がなかった理由が判明したな。
ザヴァーニエ伯爵とやらも、できることなら会って服の礼を言いたいが機会はあるだろうか?
そんなこんなで着替えも終わり、別の待合室へと通された。
談話室のような部屋でメイドさんに淹れて貰った紅茶を飲んでいると、ギィとドアが開いた。
振り返りドアのほうを見て――――思わず「おぉ・・・」と声を漏らした。
「・・・どう、でしょうか、りょうくん。変じゃないですか?」
麻紀が着ているのは、華やかな赤色のイブニングドレスだ。デコルテのように首元が大きくカットされたドレスで、同色の長手袋をつけているお陰で肌の出ている部分が強調されて非常に艶めかしい。
髪はアップにしており、唇には薄く紅が引いてあるようだ。
――――で、一点気になったのが。
「・・・・そのスカーフはもしかして」
「・・・・消えなかったんですよぅ」
麻紀は顔を赤らめながら言う。
薔薇のモチーフが付いたスカーフは、信用の証を隠すためのものらしい。
「着替えてる間、メイドさんたちからの視線が恥ずかしくって・・・」
麻紀、お前は気付いてないみたいだけど、今もすっごいあったかい視線が来てるよ。
さっきからドアの隙間からちらちらこっち見てる人たちがいると思ったら、そういうことか。
・・・・・さっきから俺と麻紀以外がこの部屋に来ないのも、もしかして彼女らのせいだったりするのだろうか。
だとすれば――――グッジョブ、メイドさんたち。
俺はドアの隙間から覗いているメイドさんたちに、麻紀から見えない位置でサムズアップを送る。
向こうからもサムズアップが返ってきた。ノリいいな。
折角なので、ちょっとサービスしてあげよう。
「麻紀」
「はい?――――きゃっ」
俺は麻紀を後ろから抱きしめて、耳元で囁く。
「綺麗だよ、麻紀」
「ふぁっ・・・・」
そのまま麻紀の耳元にチュッっと口付けると、ピクッと震えてそのままくたっと麻紀から力が抜ける。
そして、ドアの向こう側から「キャー」という黄色い悲鳴が複数聞こえた後、廊下をパタパタと駆ける音が聞こえて、半開きだったドアがパタンと閉まる。
それを見ていた麻紀がギギギと擬音が付きそうな感じで顔だけ振り返った。この上なく真っ赤な顔で。
「りょ、りょうくん、メイ、ド、みら、みられ」
「見せ付けたんだよ。ちょっとしたサービスだ」
「・・・・・・・・・・・・ばかぁ」
俺の袖を握り締めながら、茹ダコのようになって俯く麻紀は最高に可愛かった。
その後、何食わぬ顔で戻ってきたメイドさんに今度は麻紀にも見えるようにサムズアップした後、メイドさんの案内でパーティーの会場へ向かう。
麻紀は初めて着るドレスにちょっと動き辛そうにしていたが、そこは俺の出番。しっかりとエスコートしてあげましたとも。
会場に入ると、すでに他のクラスメイトたちが集まって談笑していた。
クラスメイトとメイドさんやボーイさんしか見当たらないところを見ると、まだ始まってはいないようだ。
「お、来たな軍曹」
「ようてっちん、似合うじゃないか。馬子にも衣装だな」
「褒めてねーよな!?」
実際、男は所謂貴族っぽい衣装を着ている者が殆どなのだが、うちの男子陣は良くも悪くも「日本人っぽい」容姿の者ばかりなので、似合ってるといえるのは数人だ。
が、意外なのは女子はかなりドレスが似合う。
元々うちのクラスは綺麗どころばかりなのだが、それにしたって黒髪とドレスがこんなに合うとはおもわなんだ。まぁ、一部七五三のようなのも居るが。
「軍曹、今、失礼なこと考えたよね」
「気のせいじゃないかな、こももちゃん」
「どぉーせ七五三ですよぉー」
「悪かったよ」
「いいよねー軍曹は、背高いからそういう衣装似合って」
こももちゃんからのじとーっとした視線が痛い。
「・・・・・しっかし軍曹よ」
「どうしたてっちん」
「昨日までと比べて随分といいんちょとの距離が近くなったなぁ」
今麻紀は俺の腕を掴んで寄り添っている状態だ。
エスコートしてきた時からすっとこのまま歩いてきた。
「まぁ、そういうことよ」
「そういうこと、です」
「幸せそうでなによりだよ」
てっちんはによーっと笑ってそそくさと離れていく。
入れ替わりにやってきた女子達に囲まれながら、俺たちの仲に関する質問を適当に受け流していると、会場で演奏していた音楽が荘厳なものへと変わった。
それと同時に会場の扉が開き、何人かが入場してきた。
俺たちはあわてて、先ほどメイドさんに教えてもらったように片膝を付いて頭を垂れる。
「よい、本日は礼は不要だ」
その言葉に顔を上げると、40代くらいの優しそうな男性が微笑んでいた。
この人がアルジェロ大公殿下だろうか。自分のイメージとは結構違ったので驚いてしまった。
その横には歳を重ねてはいるが、充分美しいと思える女性が3人。おそらく大公のご婦人達だろう。
その後ろに若い男性とこれまた若い女性。20代くらいに見えることから、多分第一公女殿下だろう。そういえば、クラウネの兄妹は何人居るのか聞きそびれていた。
――――と、第一公女の後ろでこちらに向かって手を振るクラウネが居た。
その隣には軍服を着た茶髪の女性がいる。かなり背が高い。2mはある。
その女性がこちらを見て、ふっと微笑んだ。もしかしなくてもマルコムさん・・・・・いや、マルコレイナ伯爵夫人だろう。
その後、続けて入ってきた勇者達3人が軽く礼をして、アルジェロ大公が二、三言挨拶をした後俺達の歓迎パーティーが始まった。
*
**
****
「なんだジョージ、見ないうちに立派になって」
「お前は俺の親戚かなんかか。というか、分かれてから3日しか経ってないぞ」
「『男子三日会わざれば刮目して見よ』って言うだろ?」
「そう言う軍曹は・・・なるほど、その言葉もあながち間違いじゃないか」
穣二は俺と腕を組む麻紀へと目線をやって、「おめでとう」と言った。
麻紀は照れながら、えへへと笑う。
「そういうお前はどうだよ?」
「聞くな・・・・!」
顔を顰めて額に手をやるジョージに苦笑を返し、俺はジョージをまじまじと見てみる。
ジョージ――――というか、勇者の3人は白を基調とした軍服を着用していた。梓だけ女性用にスカートにアレンジされてはいるが、目立った違いはそれくらいで細部は殆ど同じだ。丁度、現代の海軍の軍服に似たそれは、この国の勇者のみが着用を許される特殊な礼装なのだそうだ。
「しっかし・・・・」
「どうした?」
「ハトケン軍服にっあわねーなー」
「言ってやるな」
ハトケンの居るほうから「うるせー!」と声が聞こえてきた気がするがきっと気のせいだろう。
服に着られるから悪い。
「そういやさ、聞きたいことあったんだ」
「なんだ?」
「この国の爵位についてって教えてもらったか?」
ああ、と頷いたジョージからこの国の爵位制度について教えてもらう。
「この国の爵位なんだがな、まぁ基本は地球のと変わりは無い。・・・・と言うか、『2代目の勇者』がその辺の知識を持ち込んで以降、それを基準に作り変えられたというべきか。若干の相違はあるが、まぁそのくらいだ。上から大公、次に公爵、その次が侯爵、そんで伯爵、子爵、大男爵、男爵の7つだ。他国では大公が国王や皇帝になる感じだ」
「その・・・デューなんとかってのは?」
「この世界での爵位の呼び方・・・というかこの世界の言葉だな。俺たちは勝手に言葉が翻訳されてしまうから普通に日本語で聞こえるが、書物に書く際なんかはこっちの文字で書かなきゃならないだろ?俺たちは文字は読めるが、文法を知らないから書けないんだ。といっても、住所なんかの単語のつながりだけなら別だが」
なるほどそれは確かに試していなかったし、狩人協会でも普通に名前書いてきたから気がつかなかった。住所は受付のねーちゃんが言ってた言葉をそのまま書いただけだし。
「で、その書物に書いてあった言葉をこっちの世界風に発音するとそうなるわけだ。因みに、お前がもし伯爵だったら、『コバヤシ伯爵』になる」
「俺の苗字に爵位は似合わんな」
「・・・・実は、勇者は全員男爵位をもらってる」
「よう、『シユウ男爵』。本日はお日柄もよく」
「おいやめろ」
俺達のやり取りを見て麻紀がくすくすと笑う。
そこに、近寄ってくる二つの影。
「おひさし――――というほどではないですね。リョーヘー、マキ、市井での暮らしはどうでしょうか?」
「これは第二公女殿下、ご機嫌麗しゅう」
「・・・・・貴方にその言葉使いは似合いませんわね」
どっかの映画みたいに答えてみたが、ダメだったようでクラウネには笑われてしまった。
「ですが、首をとられては適いませんので」
「もう、お父様はそんなことしませんわ。あれはちょっとしたジョークでしたのに」
彼女はぷぅと頬を膨らませるが、冗談に聞こえない冗談はやめて欲しい。
「まぁいいけどよ。お陰で良い暮らしができてるよ、職探しはまだだけどな」
「それはよかったですわ。明日には細かい補修などを受け持つ職人たちがそちらへ向かいますので、よろしくお願いしますわ」
「ああ、ありがとう」
俺はマルコムさん――――もとい、マルコレイナ伯爵夫人に向き直る。
「マルコレイナ伯爵夫人殿、服の件、ザヴァーニエ伯爵様にはどのようなお礼をすればよいか・・・」
「リョーヘー、私にそのように畏まる必要は無いぞ。確かに伯爵婦人という位置にはいるが、私とて元は平民だ。実を言うと今でも畏まった態度は苦手なのだ。服の件に関しても、礼は必要ない。前途ある若者への投資だと思ってくれればいい」
「投資・・・こりゃあんまりヘマできないな」
俺の言葉にマルコレイナさんが笑う。
「しかし、平民だったんですか」
「そもそも、巨人種の文化に爵位は無いからな。集落の長はいるが、種族皆平民のようなものだ」
「なるほどね」
一昨日の外出でなんとなく分かっていたが、この国に種族差別は無いらしい。いや、多少はあるのかも知れないが、それが日常に現れるほど大きくないのかもしれない。
そろそろ喉も渇いてきたので、近くのボーイさんに適当に飲み物を頼む。
受け取った飲み物に口をつける。
芳醇な醗酵したブドウの風味と、爽やかな喉越し、そしてふわりと香るアルコール――――
「酒かよ」
「飲み干してから言うことか」
ジョージの突っ込みも右から左。俺は嫌な予感をひしひしと感じていた。
俺の家は元来飲兵衛の家系なので、俺もその例に漏れず酒には強い。だが、俺は酒を飲むと妙に冷静になるという特性持ちだった。判明したのは高二の夏、親戚が家に来たときだった。
と、まぁそんなことはどうでも良い。
問題は、このフロアにいるクラスメイトは何人が酒に耐性があるのかということだ。
俺は周りを見渡す。そして、最初に注意しておくべきだったと後悔した。
「うふっ・・・うふふふふっ・・・うふふふふふふふふふ」
ワインのグラスを握り締め、俯いて笑い続けるノーカ。
「俺はな・・・・・・おれだってな・・・・・やりゃぁできるんだそれなのにみんなしれおれはいじられきゃらそつぎょぅしらかったのい――――」
「てっちーん、てっちーん、あっひゃひゃひゃ!てっちーん」
泣きが入ったてっちんと、いつもじゃありえないテンションのここのん。
「――――・・・・・・すかー」
「・・・・・・まったく」
寝に入ったメディ子とまったく酔っていない和尚。
「お、おい、うるしー、それくらいに――――」
「あ゛あ゛ッ!?」
「あ、はい、ごめんなさい」
切れ芸の域に入ったうるしーと巻き込まれたはっぺー。
「Oh!なんとウつくしい・・・わタしハきっと貴方に出会うタメに生まれテきたのでショウ・・・」
「ああ、えっと、その」
メイドさんを口説き始めるジョーと若干嬉しそうなメイドさん。
とまぁ、だいぶめんどくさそうな事態になっていた。
「ああ・・・・これ城のパーティーだぞ・・・どうやって収集つけるか・・・・」
「お、おい、軍曹」
「どうした、ジョージ――――うおっ!?」
ジョージの呼ぶ声に振り返ると、明らかにいつもと違う要因で赤面した麻紀の姿。
頭がふーらふーらと左右に揺れているところを見ると、すでにだいぶ出来上がっている。
「おい、いいんちょ、飲みすぎだ」
「――――ちがうぅ!」
「あ、おい」
「いいんちょ、じゃなくて、まきぃ!」
真っ赤な顔で名前の呼び方を訂正する麻紀はかわい――――じゃなくて、そんな場合じゃない。
「わ、わかったわかった、麻紀。ほら、これでいいか?」
「あいっ!」
麻紀は先ほどと一転、満面の笑みで返事をして――――
「りょうくん、ごほうびぃ――――」
「あ、ちょ――――」
唇に向かって飛び掛ってきたところを、寸でで押さえる。
「ま、麻紀!さすがにここでそれはマズイ!というかハズい!」
「えぇー、きのぅはあんなにねつれつにしたじゃないですかぁ。りょうくんだってだめぇっていってるわたしにぃ、なんどもなんどもぉ・・・・・」
「お前ら・・・この数日でそこまで・・・」
「待て、ジョージ!さすがにそこまでは行ってない!キスだけだ!」
「え、なに、軍曹いいんちょとキスしたの!?」
「ほんまか!」
「ええい、めんどくさいのが増えた!」
話に割り込んできたこももちゃんとフジハルをあしらいつつ、俺はどうやってこの惨状を静めようかと頭を抱えた。
そうして夜は更けていく。
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SIDE――――クラウネ・アッセラ
「クラウネ」
「はい、お父様」
父が私を呼び止める。
ここは父の執務室。私はリョーヘーたちが無事に帰ったことを報告し、そして部屋を出ようとしたところだった。
「彼らは・・・・楽しんでくれただろうか」
「・・・・・・・」
父は、優しい。
それは、王として――――この国では、大公として持つには不相応な感情。
大方、30人の若者の未来を狂わせてしまったことを悔いているのだろう。
人間としては、それでいいのだろう。
だが、王としてはきっとダメだ。
もっと冷徹に、そして残酷になる必要があるのが王だ。
だが、私はそんなお父様が――――どうしようもなく好きだった。
「ええ、きっと、楽しんでくれましたわ」
そんな私の返答に、「そうか」と笑顔を返した父を見て、私も部屋を退室した。
廊下で待っていたマルコム――騎士でいる間は、そう呼ぶことにしている――と共に城の廊下を歩く。
父の意向で調度品などは最低限に飾っている廊下。夜の闇が侵食し、かすかな月明かりと蝋燭の炎が私たちを照らす。
――――私は、リョーヘーたちに一つだけ話していないことがある。
この事を知っているのは、お父様とお姉さま、マルコムと・・・・3人の勇者、それだけ。
3人の勇者は、この事を教えたとき、苦笑しながらも「それなら仕方ない」と笑ってくれた。
――――「それで、皆を救えるかもしれないなら」とも。
もっとも、ジョージだけは最後まで困ったような顔をしていたが。
それは、救世の神力片の使い方。
それは、皆を救い導く力。
それは――――自身を破滅に向かわせる、力。
「心配しないでください、お父様。救世の神力片は、絶対に誰にも使わせませんわ」
私は誓い、そして願う。
彼らには、この世界を楽しんでもらうのだ、と。
彼らに、この世界を好きになってもらうのだ、と。
彼らが――――その生を終えるまで、平和に暮らせるように、と。
冒頭のキス描写が分からない人は、「キスの格言」で検索してみてください。




