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プロローグ

少々流行に乗り遅れた感のあるクラス転移もの。

よろしければ最後までお付き合いください。

 その日、俺達3-1組の生徒30人は、数週間ぶりに全員が同じ教室に居た。


 卒業を一週間後に控えた俺たちは、卒業式前の最後の登校日と言うことでリハーサルだのなんやかんやで慌しく1日を過ごした後、最後のホームルームが始まるのをざわつきながらも待っていた。

 話の内容に耳を傾けてみれば、だれかれの就職先がどうとかあの大学は何県にあるから引っ越すだとか、そんな話題がほとんどのようであった。

 まぁ、卒業生らしい会話といえばそれまでなんだが、やはり3年間を共に過ごした皆と別れるのはなんというか切ないものがあるようで、言葉の端々に寂寥感(せきりょうかん)が滲み出ている気がする。

 それに、このクラスの皆は他のクラスと比べても特段仲の良いクラスだと思う。

 どれくらいと言うと、全員一人ひとりにあだ名が付いていて、全員が何の気兼ねも無くそのあだ名で呼び合うくらい。

 ・・・・約2名ほど特定条件下でクラス全員の敵になることがあるが、まぁそれくらいだ。

 前の席の友人の話を適当に聞き流しつつそんなことを考えていると、横合いから声がかけられた。


「ねぇ小林君、今大丈夫?」

「ん、”いいんちょ”どったの?」


 俺――――小林猟兵(こばやしりょうへい)は、”いいんちょ”こと――――本史麻紀(もとふみまき)に向き直った。

 彼女――――”いいんちょ”はあだ名の通りこのクラスの委員長をしている。

 うなじの辺りで束ねて、右側から体の前に流した黒髪。

 細いフレームのメガネは、彼女の黒髪とよく似合っていた。

 鈴の鳴るような声は耳に心地よく、なぜか不思議とよく通る。

 透き通った白磁のような肌は、時折彼女の赤面癖のせいでりんごのように紅くなる事があるのを知っている。

 150cmほどしかない身長で、素朴な可愛さを持った彼女は――

 ――絶賛俺の片思い中の相手でもあった。



「先生が、『ホームルーム始めるの遅れそうだから先にこの書類配っておいてほしい』って」

「ああ、いつもの(・・・・)やればいいのか」

「うん。お願いね”軍曹”」


 そう言っていいんちょは書類の束を渡してくる。

 ――――ちなみにだが、さっきの”軍曹”は俺のあだ名である。

 あだ名の由来は、俺がミリオタなのと、妙に陣頭指揮が上手いから・・・・らしい。

 思えば、クラスマッチなんかでいつも監督ポジにいた気がする。

 そうしている内に俺もなんだかノッてきて、今では事あるごとに所謂(いわゆる)『軍曹っぽい』立ち振る舞いをする事が恒例行事となっている。

 この”書類配り”なんかが良い例である。


 教卓の前に立つと、いいんちょが隣に寄ってくる。

 俺の身長は180cmギリ無いくらいなので、いいんちょは見上げるような感じで「じゃぁ、お願いします」と言った。

 俺は頷いたあと、向き直ってスゥッっと息を吸い込む。

 隣にいるいいんちょが耳を塞いだのを確認してから、声量はちょっと大きめに、そしてできるだけ音圧が掛かるように言い放つ。


「総員、注目!!」


 その瞬間、ざわざわと五月蝿かった教室から物音が一切消える。

 次の瞬間、ガタンと物音が一度鳴り、全員が前を向いて席に着席した。

 ・・・・・この間1.5秒。毎度のことながらすげー素早い。

 この光景を見れるのも最後か、と思いながら全員を一度見渡し、次の命令を下す。


「これより書類を配る!卒業までの暮らし方が長々と書いてあるありがたい書類だ!各自で熟読するように!」


 少し声を張ってそう言うと、皆がニヤッと笑って「いえっさー!」と返してくれた。

 ああ、俺いますげー楽しそうにしてるんだろうな。

 緩みそうになる口元をおさえつつ、次の指示を出す。


「”てっちん”、”和尚(おしょう)”、手伝ってくれ」

「あいよ、軍曹」

「うむ」


 呼ばれた二人――――藤城輝樹(ふじきてるき)宋徳寺泰成(そうとくじやすなり)が席を立ち前に出てくる。

 書類を手渡そうとしたとき、ふと視界の端でなにかがきらりと光った。


 俺は何気なくそちらを見て――――


 ――――固まった。





 ――――窓の外、3階(・・)の窓の外に、人が立っていた。



 ――――空中に(・・・)、だ



 俺が外を見て固まったのを見て、いいんちょがそちらに視線を移す。


 ・・・・そして同じように固まった。


 きらりと光ったものは、その人物――フードつきの白いローブのようなものを羽織っていた――が手に持つ、杖?らしきものの先端だったようだ。


 その人物は白熱電球を髣髴とさせる明かりが灯ったその杖を2度、3度と振るう。


 その光景はまるで何かの儀式のようだった。


 俺といいんちょが固まったのを見て、また何人かが外を見て固まった。

 数人、小さく悲鳴を上げた者も居た。

 悲鳴を聞いて、他の者たちも窓の外を見て呆然とする。



 その人物は宙に浮いたまま、未だに儀式のようなものを続けていた。


「お、おい。あれ――――」


 いち早く立ち直った藤城輝樹(てっちん)が声を上げた――――その瞬間。








 ――――ガゴオオオオオオオオン!!!!








 地面が、揺れた。



 今までに体験したことの無いような揺れ。



 誰一人として立っていられず、座っていた者すら床に倒れるような巨大な揺れだった。




 ――――バリイイン!!!




 一瞬の間を置いて、窓ガラスがすべて吹き飛ぶ。



 同じく割れた蛍光灯が天井から降り注いだ。



 棚に置いてあった物はすべて床に落ち、掃除用具の入ったロッカーが横倒しになった。





 まるでバーテンダーの使うシェイカーに放り込まれたような揺れの中、隣でう蹲るいいんちょを何とか自分の元に引き寄せ、守るように頭を抱いた後――――



 ――――俺は意識を失った。









 ****************************




 ――――そのとき、校庭の清掃をしていた用務員は信じられないものを見ていた。



 校舎の3階――あのあたりは3-1の教室だ――で何かが光ったような気がして、彼はそちらに振り向いた。


「――――な、なに、が」





 ――――巨大な、青白い、球体



 巨大な、光を帯びた球体が校舎の1部を覆っていた。


 よく見ると表面が波打つように動いているのが見える。


 彼は言葉を失った。あんなもの、生まれてこの方見たことが無かった。



 呆然としていると、球体が放つ光がだんだんと強くなっていく。



 球体が一際大きく輝いた次の瞬間――――



 ――――辺りに強烈な閃光と轟音が鳴り響いた。



「うわあああああっ!!」


 あまりの眩しさに目を開けていられず、さらに雷が間近に落ちたかのような轟音に耳を塞ぐ。


 しばらくして恐る恐る目を開けた彼の目に飛び込んできたのは――――





 ――――地獄絵図だった。





 まるで爆撃でもされたかのように、3階の一部が吹き飛んだ校舎。


 付近の教室からは、悲鳴と怒号が響き渡る。



 彼はしばらく動くこともできずに、そのままその場に立ち尽くしていた。














 ・・・・・・・卒業式を間近に控えた学校で突如発生した原因不明の爆発事件。


 今後数十年に渡って専門家に議論されることになるこの事件の裏側で、何が起こっていたのか。


 それを知るものは、”ここ”には居ない。





 ――――この日、地球上から、30人の若者達が姿を消した。



次は早いうちに

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