#08
「はぁっ、最悪だぁ……」
ある休み時間。真白は、自分の机に片側の頬をつけて呟いた。その呟きを聞き、前の席に座る彼女は口を開いた。
「なんだか暗いわね」
何があったの? と訊いてくる彼女は、成績優秀、頭脳明晰な真白の友達の椎名史。親友と言っても過言ではないかもしれない。
「それがさぁ、昨日再放送してたドラマが半分しか見れなくて……」
「こだわるわねぇ」
そう言って、呆れた表情をする史。彼女が持つ艶やかで漆黒な長い髪に、真白は憧れを抱いていた。更に、彼女が愛用している茶縁眼鏡は、彼女から大人びたオーラを醸し出させる。
それに比べ真白は、生まれつき色素が薄い茶髪に、手入れが大変な天然パーマ。そのせいで、幼い頃からずっと短いままの、ショートボブだ。眼鏡は似合わないし、中学の頃から伸び悩んでいる低身長。悲しすぎる。
そんな、魅力の無い真白に、何故あの男は絡んでくるのだろうか。物凄く謎だ。
(……って私、何でまたあの変態の事考えて――)
「まーしろっ」
「うわぁぁ!?」
突然、横の窓からあの変態男子生徒が現れた。真白は、飛び退きたい衝動に駆られる。ちなみに、真白と史の席は廊下側である。
「ちょ、ちょっと、急に現れないでよ――」
「なぁなぁ、今日の放課後あいてる?」
「話聞いてる!?」
盛大に突っ込むが、彼は訳がわからないと首をかしげる。その後、何を思い付いたのか、ニヤリと口角を上げた。
「もしかして、パンツの柄訊かれたかったとか――」
「やめーーーい!」
そんな訳ないじゃん! と、一喝する。ここで、パンツネタを言わないでほしい。クラスメートがいる訳だし、何より目の前に史がいる。先程から知らん顔をしているが。
彼はというと、相変わらずニコニコしている。こっちは迷惑しているというのに。
「で、今日の放課後は?」
「……あぁ、もう、いいんじゃない……?」
疲れきった真白は、彼の問いに適当に答えた。すると、彼は両手を挙げて喜び、軽い足取りで去っていった。真白は、机に突っ伏す。
「最近仲良いわね、あの彼と」
脱力していると、史が前を向いたままそう呟いた。その言葉に、真白は「はぁ!?」と反応する。
「ぜんっぜん仲良くないよ! 名前だって、クラスだって学年だって知んないし!」
「一年F組、鈴原陽平」
史の口から出た言葉に、動きが止まる。呆然としていると、史が「彼の名前とクラスと学年」と付け足した。
そんなのわかっている。真白が引っ掛かったのは、彼の名前のほうだ。
「陽平……?」
愛しいその名前は、あの日以来所在不明の陽ちゃんと同じだった。