#05
(――そうだ、陽ちゃんに似ている)
真白は、腕を掴む男子生徒の顔を、改めてしっかりと見る。この、目・鼻・口の形。やはり、どこかあの日から所在不明の陽ちゃんにそっくりだった。
(……っていうか、この状況どうしよう)
未だに彼に腕を掴まれ、向き合う形で立っている。自分はどうすればいいのだろうか。確証も無いのに、「あなたはあの陽ちゃんですか?」と訊くべきか? そんな事より、今は教科書を取りに行きたい。勿論、陽ちゃんにも会いたいのだが。
頭の中でいろいろ考えていると、漸く彼は口を開いた。
「俺と付き合って」
「……は?」
これは、どこか買い物か何かに付き合ってほしいという事だろうか。いや、おそらく『告白』だろう。でも、何故今さっき出会ったばっかりの彼から告白されたのだろうか。一目惚れというやつか? いや、真白にはそのような要素はゼロだから、違うだろう。見ず知らずの彼を、真白は怪訝そうな目で見た。
「……私、用事があるので」
彼の手を手首から外し、真白は三階へと続く階段を昇った。すると、背後から彼が告白の返事を要求してきた。あまりにしつこいので、イライラし始めてきてしまった。真白は、苛立った表情で体ごと振り向く。
「無理に決まってんで――」
そんな時、真白の言葉を掻き消すかのように、開いている窓から爽やかな風が吹き込んできた。それと同時に、真白が着用している制服のスカートがふわりと膨らむ。辺りは、静寂に包まれた。
真白は、ひたすら顔を赤く染めた。見られた。絶対に見られた。羞恥心でいっぱいになる真白にとどめを刺すかのように、彼はフッと微笑んだ。
「美味しそうなイチゴだな」
静かな校舎に、真白の悲鳴が響き渡った。