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#02

「っ!」


 ハッと目を開けると、眩しい朝の日の光が部屋中に射していた。煩く鳴り響く目覚まし時計によって叩き起こされると、一階から母が名を呼ぶ声がする。時間を見ると、いつもより十五分経っていた。


「やっば!」


 どうやら、幼い頃の思い出の夢に入り込んでしまっていたようだ。懐かしさに浸りたいけど、今はそんな時間は無い。バタバタと慌ただしく支度を済ます。用意を終えたところで部屋から出ようとすると、ある事を忘れていた事に気がついた。


「行ってきます」


 ベッドの棚に飾られているひとつのキーホルダーに向かって、そう声をかけた。白の星形というだけの、いたってシンプルなキーホルダー。だけど、これにはたくさんの思い出が詰まっているのだ。小学生時代の、幼い思い出。忘れられない、大切な思い出だ。

 そうこうしているうちに、少々時間が経ってしまった。階段を勢いよく駆け降り、元気に挨拶をして家を出た。

 真白が通う水咲(みずさき)高等学校は、歩いて通える程近い場所にあった。だけど、いつもギリギリに家を出ているので、寝坊してしまった今日はダッシュで登校した。

 高校に入学して、早二ヶ月。少しずつ学校にも慣れ始めてきた頃、まさかあんな事が起こるなんて、思いもしなかった。


 ***


「やっばい、物理の教科書忘れた~!」


 放課後。帰路を歩いている途中、授業中の先生の言葉を思い出した真白は、物理の教科書が鞄に無い事に気がついた。その言葉とは、『明日、小テストをやる』というものだった。高校生活初めての小テスト。少しでもいい点を取りたい。そう思い、今さっき歩いてきた道を、すれ違う生徒に不思議そうに見られながらも逆走した。

 やっと学校に着いた。上履きに履き替えて、階段を駆け上がる。一年生の教室は三階だ。長い長い階段を、息をあげながら昇った。つらくて思わず俯く。すると、何かに頭をぶつけた。どうやら、人にぶつかったらしい。ごめんなさい、と顔をあげる。視界に、男子生徒の顔が広がった。

 ――その瞬間、何かが頭をよぎった。

 何だろう、この感覚は。思わず、その顔に見入ってしまった。一方、ぶつかった男子生徒もこちらを見つめてくる。


(……って、こんな事してる場合じゃないでしょ)


 ハッ、と我に返る。そうだ、忘れた物理の教科書を取りに来たんだ。本来の目的を思い出した真白は、その場をあとにしようとした。その時。

 その男子生徒に、腕を掴まれた。

 何故腕を掴まれたのだろうか。不思議に思い、長身の顔を見上げる。すると、その男子生徒は呟いた。


「……恩田(おんだ)真白」

「……え?」


 思わず聞き返す。どうしてこの男子生徒は、真白の名前を知っているのだろうか。今日、初めて出会ったはずなのに。

 ふと、幼い頃を思い出した。

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