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#12

 本日の全ての授業を終え、あっという間に放課後になった。

 長い三階から一階まで続く階段を降りると昇降口に着く。やっと階段を降り終えた真白が見たものは、昇降口の扉の向こう側に溢れる雨だった。それを見た瞬間、一気に脱力する。雨というものは面倒くさいものだ。服や靴は濡れるし、水浸しの道は歩きにくい。これでも真白は学校から家が近いほうなため、他の生徒に比べたらまだマシだった。

 だが、今の真白には、そんな事は関係なかった。


「傘、無い……」


 近い、近くない以前に、傘が無かった。折り畳み傘すら持っていない。どうするべきか。やむまで待つか、それとも走って帰るか。

 靴を履き替えながらいろいろ考えてみる。だが、いい案は浮かばなかった。肩を落としていると、扉付近から突然声がした。


「よっ」


 そう言って、片手を挙げる鈴原。その瞬間、思わず眉間に皺を寄せてしまった。またお前か、と。

 真白は、渋々鈴原と同じように「よ……」と片手を挙げる。面倒くさい、と思っていると、鈴原は満面の笑みで真白に訊ねた。


「一緒に帰っていいか?」

「嫌!」


 即答。でも、鈴原は怯まなかった。


「傘無いんだろー?」


 俺有るし、と鈴原は手にしている折り畳み傘を見せつける。


(聞かれてた……)


 まさか、真白の独り言(?)が聞かれていたとは。真白の顔が、更に険しくなる。


「だからさ、入れてってやるよ」

「お断りっ」

「何で? 風邪ひくぞ?」


 あんたと帰るよりはマシ……と思いながら、鈴原の数々の説得を論破した。だが、その論破は虚しく、結局鈴原の傘に入れてもらう事になった。


(何で私、こいつと相合い傘してんの……)


 呆れ半分でため息をつく。あり得ない。まるで恋人同士みたいだ。

 そんな自分の思考に、真白は頭を左右に数回振る。そんな事を考えるのはやめよう。

 その反面、鈴原と帰ってよかったと思える面もあった。それは、やはり雨に濡れずに帰れる事。先程から、全然と言っていい程雨に濡れていないのだ。ふと、学校を出てからずっと無言の鈴原を見る。すると、制服を着ている鈴原の肩がびっしょり雨で濡れていた。どうやら、真白を優先に傘の中に入れてくれていたらしい。


(……優しいところもあるんだ)


 なんだか、こういうところはあの陽ちゃんに似ている気がする。気がするだけなのかもしれないが、鈴原と陽ちゃんが重なって見えた。そんな彼に、一瞬ときめいてしまう自分がいた。


(――そうだ、昨日の言葉)


 ふと、昨日の鈴原の不自然な言葉を思い出した。明らかに、過去に関係する言葉。それも、真白に関係がありそうだった。いっそ、訊いてしまおうか。そう思い、口を開く。


「鈴原、あのさぁ……」

「『陽平』って呼んで」


 突然の鈴原の言葉に、思わず「へっ?」と聞き返す。


「名前。『鈴原』じゃなくて、『陽平』がいい。俺も『真白』って呼んでんだし」


 確かにそう言われればそうだ。だが、真白には譲れない理由があった。


「嫌。初恋の人とかぶるんだもん」


 初恋の人? と、鈴原は首をかしげる。自分でも、何でその事を言ってしまったのかわからない。鈴原には全く関係のない話なのに。

 すると、鈴原は「ふーん……」と顔を逸らした。何かいけない事でも言ってしまっただろうか。鈴原の行動を、真白は不思議に思った。

 結局、昨日の言葉の事は訊けずに自宅に到着してしまった。

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