何かが間違っているかもしれない冒険者 シュイロ・ヒール来る
「せんぱぁ~いっ! おひさしぶりでーっす!」
ゼナン、トンチンカン通りの『鍛冶屋ザイン』。そこに滞在しているカミィユ・ナーザは、自分と同じ白い髪の少年に抱きつかれていた。
カミィユが窒息しそうな雰囲気にイル・ザインは思わず慌てて「離れて! カミィユ撃沈しそう!!」と突っ込みを入れて引き離すと、少年はふくれっつらをする。
「おじさんはひっこんでてよー。ボクと先輩の再会の邪魔しないで!」
「シュイロ、そんなこといわない」
シュイロと呼ばれた少年は、カミィユに言われて仕方なく肯く。そんな様子にイルはため息をついた。
「カミィユは一応けが人なんだ(既に完全に治癒しているけど)。だから、たいせつにして?」
「はぁい。先輩のためだったら……」
シュイロはそういうと、すこししゅん、とした様子で肯いた。
この少年、シュイロ・ヒールはカミィユの故郷と程近い村で育った。そして、その中で異能力に目覚め、冒険者になっている。
「で、職業は?」
「一応、狂戦士」
カミィユがイルの問いに答える。何故一応なのか。それは、シュイロが防具であるはずの盾だけを持っているからである。
「……狂戦士って防御力無視して攻撃力にぶっこむような連中だよね」
「うん。だけど、シュイロは狂戦士を名乗ってる」
カミィユの言葉に、シュイロはにこにこ笑っている。イルの弟、カルはシュイロを不思議そうに見上げていた。
「狂戦士ですよー。あ、武器がそれだから珍しいのかな?」
と彼は己の盾を見せて言う。腕につけるバックラーと呼ばれるタイプではなく、手に持つタイプの盾である。だからといって重装歩兵が持つような大きな盾でもない。その中間ともいえそうな大きさだった。よく見れば、鎖がついていたりする。
イルはその盾をみて、今度は納得したような顔になる。そして、ぽつりと呟いた。
「これが、武器? 珍しいな……」
「やっぱり珍しい? みんな盾って防具としかみてないみたいだしねー」
シュイロはそういうと盾を手にし、にっこりわらう。
「盾ってけっこう攻撃力あるのにね。これで殴ると敵は昏倒するよ?
それに盾に乗ってプレスすればさらに攻撃力も増すし。
坂道では橇の代わりになって運んでくれるし、そのままアタックもできるんだよね」
その言葉に、イルとカルは目を丸くする。
――それ、盾の使い方なのか……?
「この盾、魔力を込めるとね? ビームも打てるから便利だよ~?
それから、魔力のため方しだいではバリアもできるし。すっごく楽しい!」
「う、うん。シュイロが楽しいならそれでいいとおもう……」
カミィユがどこかぎこちなく苦笑する。が、シュイロは嬉しそうに笑う。が、イルとカルは怪訝そうにその盾をみる。特に変な工夫は無いように見えたのだ。
だが、魔力と聞いてイルは表情を変える。そして、じっくり観察して……気づいた。この盾が中々の業物であることを。そして、シュイロが魔導士になれそうなほど強力な魔力を持ちコントロールをしていることを。
「ボク、カミィユ先輩を守るために冒険者になったんだと思うんですっ!! 先輩、ボクとパーティくんでくださいっ!」
カミィユはその言葉に少し悩む。彼女自身は訳あってあまりパーティを組まないのだ。……だが、今回は別の理由があるらしい。
「実は、今、実験的にパーティを組んでいるんだ。明日からもそのメンバーで依頼に行く。とりあえず、初心者だし、シュイロは他のメンバーと組んでみたらどうかな? ほら、他のメンバーともうまくいったほうがコレから先らくだと思うし」
その言葉に、シュイロはちょっと残念に思いながらそれに従う事にした。
シュイロが店を後にしてから、何気なくイルはカミィユに問う。
「なぁ、あの子。なぜカミィユを先輩って呼ぶほど慕ってるんだ?」
「うーん、前にあの子、殺されかけたのよ。盗賊に」
いきなりの答えに、イルはなんとなく合点がいった。
「私が咄嗟に庇って刺されて……。それで再生して。その時のことが目に焼きついているみたい。アレ以来『冒険者になってカミィユさんを守る!』って言って身体を鍛えていたみたいだし」
「で、冒険者として異能力覚醒か……」
イルは何故かカミィユが苦労しそうだなぁ、となんとなく思ってしまいつつ新たな冒険者に思いを馳せるのであった。
因みにシュイロは12歳。
ショタ枠だと思ってください。因みに瞳の色は朱色です。
読んでくださりありがとうございました。