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夢幻犬鏡 ※整備中  作者: 奥瀬
第二章 小山若犬丸の乱① 祇園城奪還のこと
8/39

落城

「後の世の人々は、私を愚かな武将と呼ぶだろう。老臣の諌言を容れず、考えなしに公儀と争った男と」

 父の声はあまりに澄み透り。

 これが全てを失った者の声なのだと、若犬丸は胸を痛めた。


 己れを愚者と口にする。それは氏満の裁定を受け容れていれば、わずかでも所領を安堵され、命を危機に晒すこともなかったと、父は後悔しているのだろうか。


 いや、その段階はとうに過ぎていた。

 小山勢は祇園城の遥か北、(かす)()山中に立て篭もり、南軍蜂起の報を待った。あるいは一門の救援を。

 思川の上流、糟尾川に面する丘隴に建つ糟尾城は、山深き土地にありながら、土地の段差を活かし、いくつもの郭を備えていた。建武以降の動乱期に築城され、後にうち捨てられていた兵墟を、義政が昨年末より手を入れさせたのだ。

 鎌倉公方氏満への、三度(みたび)目の叛逆のために。


 けれど、望みは絶たれた。

 高台の城から見下ろせば、敵の軍勢は増えるばかりだった。

 外城の長野・寺窪も落とされた。

 この城が落ちるのも時間の問題だろう。

 祇園城没落から一月(ひとつき)()たず。

 義政は己れの見通しの甘さを突きつけられた。


 ――籠城により敵の退屈を誘うか。

 だが、それは事態の先延べでしかない。

 息子、若犬丸の顔を見た。

 まだ元服前の童形。

 自分に(こら)(しょう)があれば、彼の代で復興も適ったかもしれぬ。


 ――この子を、生き延びさせなければ。

 己れの代で小山宗家の血筋が絶えるなど、父祖に申し訳が立たなかった。

 義政は若犬丸をそばに寄せると、

「お前と別れるときが来た。私は死ぬが、お前は生きなければならない」

 若犬丸は目を見開き、

 ――父上、私も・・・・・・

 と言いかける息子の口をさえぎる。

「私は男親の顔を覚えていない。だからといって寂しいとか、悲しいなどとは一度も思ったことはない。親がなくとも子は育つものだ。ただ、お前が生まれたときは本当に嬉しかった。血を分けた仲間を得たと。もっとお前の成長を見続けていたかったが、それも叶わぬようになったな。」

 これも己れの報いかと、義政は自嘲した。


 そして若犬丸の目を見た。

「さぁ、ここからは、父と子は別々の道を歩むのだ」

「父上、私も・・・・・・」

「それ以上何も申してはならぬ。私は、お前が生き延びて小山一門を再興することを願う」

 父の決意が伝わるほどに、若犬丸は己れの悲しみをこらえぬばならなかった。

 これ以上、まとわりついていれば、父を困らせるだけだ。

 若犬丸は心を殺して身を引いた。


 義政は家臣らに命じた。

 城を落ち、さらに糟尾川を遡った奥山の櫃沢へ向かうと。

「その間に、若犬丸を田村へ落ち延びさせろ」

 奥州田村荘の領主、田村義則は、旧宮方として義政の叛乱に賛同しながら、地理的な条件から助勢は叶わなかった。けれど、若犬丸を託すには信頼に足る一族だ。


「私が、囮だ」

 子を生かすため、血を次代に繋げるため、命を捨てること。

 此度の合戦で唯一、

 ――先祖に顔向けできることよ。

 義政は大手の城門を開けさせると、郎等らを率いて鎌倉勢の囲みの中へ躍り入った。

 敵勢は道を空けるように、陣を開いた。それは小山勢と城とを分断し、掃討するための方策であったが、彼らは、この先に隠された櫃沢城の存在を知らない。義政たちは勢いに乗って敵陣を破ると糟尾川の河原を遡上した。


 敵将が騒ぐ。

「何をしているのだっ。追えっ! 一兵たりとも逃すな」

 鎌倉勢の注意が谷川に向かうなか、丘向こうの搦め手(裏門)から若犬丸とわずかな供人が落ちていった。



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