断章 岩窟無用がたり②
将門討伐の恩賞に、秀郷と貞盛は望外の官位を得たよ。後に二人は鎮守府将軍にまで昇ったものさ。将門が子ども時代に捨てた夢、彼の父親と同じ職にね。ただ、貞盛と違って、秀郷の方は、公儀に取り込まれた己れとどう折り合いを付けたんだろう。
あの源経基も、これを契機に朝廷から目をかけられてさ。直後、西海の叛乱の追補使に任命され、武将としての名を揚げたってよ。
この数百年後、秀郷、貞盛、経基の子孫たちは、日本の歴史に武士として大きな転換をもたらすんだが、それはまた別に語ろう。
さて。
青龍に敗れた桔梗は、怪我を癒す間もなく、将門の首を探し歩いたが見つけることはできなかった。
そのとき思わず口走ったってさ。
「憎き秀郷よ。末代まで祟ってやる」ってね。
まったく、女の恨みはこわいねぇ。
まぁ、そのあと、下野は那須の和見ってところに、将門の娘が隠れ住んで子どもまで産んでいるって聞いて、狐女は訪ねて行ったんだ。
下野といっても、国府からずっと北に離れたとこで、秀郷の目も届かなかったのか、ってね。
だが、そこには将門の従類が住んでいたというだけで、愛する男の末裔はいなかった。それでも彼らが小さな寺を建てて、将門の菩提を弔ってたと知ると、しばらくそこに居ついたんだ。
この和見には、おもしろいものがあってね、近くの丘陵に無数の横穴が掘られていた。
おおかた古代の人墓だろう。
そのころ狐の家族が何組か住んでいたが、桔梗も狐だけにそこが落ち着くのか、横穴の一つに棲みついたそうだ。
うん? 何だい、その目つき?
話はおもしろかったけれど、狐女の霊力だの、龍神の加護なんて信じられないって? いったい、こんな大昔の話、誰に聞いたかって? 俺の話を疑うのかい。
ふふん、聞いて驚くな。なんと、狐女本人からなんだよ!
嘘をつくなって顔しているけど、まぁ、聞いてくれよ。実を言うと、俺と狐女にも縁あってね。この岩窟に狐女が訪れて―― そこ! 今お前さんが座っているその円座で、話をして行ったのさ。
うんうん。自分こそが、狐にだまされてるような気がするって?
そんなに疑うなら、眉に唾でも付けてみなよ。
あぁ、そうか。
狐、那須、墓、と聞いて、九尾の狐だの、殺生石だのを思い出したかい? その物語は、いくつもの伝説をくっつけたものだから、事実とは違うよ。時代も場所も違う。ただ、狐女も那須にいたころ、暇を持て余すと、近くを通りかかる旅人にちょっかいを出してたというから、伝説のもとをつくったとも考えられるね。
狐女が再び人の歴史にちょっかい出すようになったのは、このだいぶあと。
話を、若犬丸に戻そう。
父義政の最期から、だな。