断章 岩窟無用語り③
このあと、若犬丸は小田直高にくっついて常陸の小田城に遷るんだ。
その日会うまで、見ず知らずの相手をよく信用する気になったもんだって? そういわれてみればそうだよなぁ。
まぁ、小田家の先祖の八田知家といえば、寒川尼の弟にあたるし、その後も小山と小田は縁戚関係を結んでるから、若犬丸と直高はまるっきりの他人じゃない。といっても、あるかなきかの血縁に若犬丸が縋り付いたというわけでもないよ。武人なんてもんは、時と場合によって親兄弟でも血で血を洗うような争いをするからね。
だが、直高は若犬丸のいい兄貴分になってくれてな。
男ってのは、年上の気の利いた男がそばにいないと成長できんもんでさ。
いや、里田や兵次では駄目なのさ。何しろ主従の間柄だし。田村荘司の息子は 暴れん坊の若犬丸には物足りないところがあったようだね。
その点、直高と若犬丸は兄と弟のように・・・・・・
直高は、若犬丸の欠けていた何かを補ってくれたのさ。
ほら、若犬丸って、こう無手法かと思えば、生真面目過ぎるところもあるじゃないか。自分の命を顧みず、部下の命を助けようとするところとか。
誰かさんみたいかね。
あぁ、そうだ。
似てるっていえば、もう一組いたな。
境遇やら、性格やら、似すぎているがゆえに反目しあってさ。
そのうちの一人が、若犬丸の生涯の仇敵、鎌倉公方、足利氏満。
じゃあ、この男について語ろうか。