魔王とか間に合ってますから
どうしよう、続きできちゃった。
魔王。魔属を率い、世界を恐怖に陥れる存在。
強大な力を持ち、異世界から召還した勇者でしか滅する事は出来ない。その上滅ぼされても長い時間をかけ別の個体が力を受け継いで魔王をなり、顕現するというシステムが構築されていた。
そのようなまっこと恐るべき存在である今代の魔王は現在。
とある王国の王宮で、一生懸命廊下を掃除していた。
「なんでこんなことに……」
見た目は単なる美人のメイドさんにしか見えない彼女は、深々と溜息を吐きながらこうなった原因を思い返していた。
※ダイジェストでお送りします。
「伝令っ! 我等が領域に侵入者です!」
「ほう、どこの軍か?」
「そ、それが、見た限りたった一名だそうで」
「ふん、勇者気取りの愚か者か。捻り潰せ」
「捻り潰されましたー!」
「ちょっと待てい!」
「ぐははは! 待たぬ! 留まらぬ! 国王様見参!」
「「「「おのれそれ以上はぐはあっ!」」」」
「し、四天王がっ!? なめるな我が全力を喰らうがいい!」
「その程度効かぬ! 通じぬ!」
「ば、ばかな直撃だぞ!?」
「ぐははははは! 魔王が美女とは以下略!」
「いやああああ犯されるうううううう!!」
「……なにしてますの、あーた」
「え、いやこれはそのぐえらう゛ぁ!」
以下地獄絵図。
「ひいいいい(ガクブル)」←戦意喪失。
ってなことがあって、降伏した魔王は捕虜として王国に連れてこられましたとさ。
「……で、どーすんのこの人」
あきれ果てたとも諦め尽くしたともとれる疲れた様相で言うのは王子。彼が指す先には縛り上げられてやたらと怯えている美女――魔王の姿が。
問われた王妃は、夕食なんにしようかな程度に困った様子で小首をかしげる。
「そうよねえ、どーしたもんかしら」
「なんか考えがあって連れてきたんじゃないの!?」
「いやまあ、あのまま魔属領域に捨て置いて再起されたら面倒かな~、くらいは考えてたわよ?」
「ほぼノープランじゃないか……」
こめかみを指で押さえる。ノリと勢いだけで生きているこいつらに多くを求めるのは間違っていると分かっちゃいるが、頭痛を覚えずにはいられない。
と、怯えた様子の魔王が、震える声で言葉を発した。
「わ、我をどうするつもりだ?」
「うん今その処遇を話していたところだったんだけどね」
多分恐怖とかおびえとかその辺のことが頭をぐるぐる回って話を聞いていなかったのだろう。どっちみち処遇なんぞなんにも決まっていないのだが。
半ば涙目になりながらも、魔王は最後に残った自尊心で虚勢を張りながら言う。
「た、例えこの身が陵辱されようと心までは……」
「ないから」
「え?」
「そゆことないから」
「アッハイ」
笑顔だが目が笑っていない王妃に両肩を掴まれ断言される。よく分からないが凄い迫力に頷かざるを得ない魔王であった。
王子は溜息を吐く。
「まあほっといたら率先してそういうことをやりそうなのが父上だってのがイメージ悪いよなあ」
「のくたーんじゃないから……こほん、さすがに同じ女性としてそういう目に遭わすわけにはいかないのよね」
「ところでその率先してやりそうな危険人物は?」
「うん、ちょっと反省させるためにお仕置きをね」
そのころの国王陛下。
「簀巻きで逆さづりとか、余の扱い酷くない? 国王の扱いじゃなくない?」
それはともかくどうしたものかと、王妃と王子は揃って首を捻る。
「始末する、ってわけにも――」
「我を倒したとて、いずれ新たなる魔王が顕現するぞ」
「いかないんだよね。そもそも異世界の勇者以外では滅するの無理だし。かといって放逐するとか問題外だな」
「幽閉や軟禁しておくのも色々とめんどうよねえ」
うーんと考え込む王妃。ややあって、うむと一つ頷いた。
「ここはあれね、【強制契約】でもかけて働いてもらおうかしら。使い魔にしては少々ごっついけど」
その言葉を聞いた魔王は、一瞬立場も忘れて鼻で笑った。
「はっ、いくら何でも我クラスの高位魔属に契約の術をかけるなど、そんな簡単にいくわけがなかろう」
簡単にかかりました。
「おかしいだろういくらなんでもおかしいだろう。あっさり強制契約かけられるとかどーなってるのだ世の中間違ってる……っと」
ぶつくさ言いながらもぴかぴかに廊下を磨き上げ、ふうと息を吐きながら額の汗をぬぐう。その表情はまんざらでもないと言った様子だった。
と、そこに現れた者が居る。
「おお、見事な仕上がりですな。感心感心、仕事を任せるに値する方でなにより」
慇懃な言葉を放つのは、浅黒い肌に銀髪の美青年。執事らしき姿の青年は、穏やかな笑みを浮かべて魔王に語りかけた。
「さて、この分ならこちらはもう結構でしょう。取り敢えずは休憩にしてください」
「はい」
素直に応えて青年の後について歩く。そうしている最中、仕事の最中に考えていたことがふつふつと心の中で蠢き気が滅入ってくる。手を動かしていればまだ気が紛れるのだが……などと考えていたら、前を歩いていた青年がふと立ち止まり声をかけてきた。
「ふむ、今の自分の状況に、納得がいってない様子ですな?」
ぴく、と魔王は反応した。この男、監視も兼ねているのかと勘ぐる。あの国王と王妃には絶対に勝てないであろうが仮にも魔王だ、この国にとっては十分に脅威となる。監視がついてもおかしくはない。
そんな彼女の心を読んだかのように、青年はことさら優しい声で言う。
「いえ勘違いをなさらぬように。この王宮で貴女を監視しようとする動きはありませんよ。……まあ気持ちは分かります」
そういった途端、青年の肩が落ちどよ~んとした雰囲気を漂わせ始める。
「実は私も貴女と同じ立場でしてね」
「………………は?」
目を丸くする魔王。青年は、はははと力無く笑って続けた。
「私、以前は某悪の枢軸国の黒幕で、【邪神】をやってたりするんですよね」
「ち ょ っ と 待 て」
さすがに魔王はツッコミを入れた。邪神。かつて善なる神にこの世界から追い出されたり封印されたりした邪悪なる存在である。その恐ろしさ、おぞましさは魔王などとは比較にならない……はずなんだが、なんであっさり強制契約かけられて使用人なんかやってるのか。魔王でなくともツッコミたくなる。
青年――邪神は遠い目で虚空を見上げつつ、厭世観を漂わせながら言う。
「良い感じで世界に覇権を轟かし力を取り戻そうとしたんですけど……あの二人にあっさりぽんと伸されてこのざまです。情けない話で」
「どーなっておるのだあの二人本当に人間か!?」
「まあ実質戦闘能力では私の有利どころじゃなかったんですが……あの王妃様、「相手の実力を出させない」とか「相手の能力を邪魔し封じる」とかいう手腕においてはもはや神懸かりというか悪魔じみているというか。ともかくろくに力を出せないうちに陛下にボコられまして。また陛下も「死なないけれど凄く痛い攻撃」とか「予想もつかないようなえげつない攻撃」とかしてくるものでして抵抗すらおぼつかなくて……」
二人の脳裏には、ぐはははおほほほとど外道な表情で高笑いを浮かべる王と王妃の姿が浮かぶ。トラウマものである。
「し、しかしそれにしても貴方のことなど何一つ話題に出なかったが!?」
そう魔王が問うと、邪神はさらにがっくりと肩を落として力無く応える。
「……多分私が邪神だとか、契約によって無理矢理従わせてるとか、すっかり忘れてるんじゃないでしょうか」
そんなまさかと一瞬思うが、この王宮ではあり得る話だった。
どうあがいても絶望。そんな言葉が魔王の脳裏を掠める。彼女もまた、がっくりと肩を落とした。
そんな彼女を慰めようとしてか、邪神は無理矢理明るい調子で言う。
「ま、まあさすがに陛下たちも寿命とかは人並みでしょうし、亡くなるまで待てば契約も解除できるんじゃないかな~とか、思いません?」
その言葉にのろのろと顔を上げる魔王。その瞳に希望の光はなかった。
「なんというか……あの二人が死んでもずっとこの国に縛り付けられてそうな気がするのだが……」
「うん私もうすうすそんな気がしていましたが指摘しないで欲しかったなあ……」
二人は揃って諦観した力無い笑みを浮かべ、窓の外を見上げる。
窓の外から見える空は青い。今日も良い天気だ、多分明日も良い天気だろう。現実逃避と分かっちゃいるが、そうでもしないとやってられない。
「ちょ、鳥が、鳥が! やめてとめてつつかないで糞しないでえええええ!」
窓の外からはなんか国王のような声が響いていたが、無論誰も気にしちゃいなかった。
王国は今日も平常運転である。
(※みんなもう諦めてるとも言う)
PVカウンターが見たこともない数字を叩き出していて動揺しております緋松です。
え~、調子に乗って続きが出来てしまいました。前作で捕らえられた魔王様のその後です。使用人に格下げされたと思ったらもっと大物が先にこき使われていた、何を言って(略)
どうしてこのような展開になったのか、筆者にも分かりません。怖いですねノリと勢い。
まあその、今回は反応の多さにびっくりした勢いで仕上げたものですから、続きとかは全く考えておりません。そもそも続き書くことになるとは思わなんだ。
ですので続編とか期待なさらぬように。つーかこれ続きとかどーすんだorz 確実にぐだぐだな展開にしかならないのが目に見えてるんですけど。
ともかく今回はこの辺で。ご意見ご感想などありましたら一言コメントなど頂けると、転げ回って喜びます。