一人ぼっちの夏休み
突然、先程まで聞こえていた花火の音が止む。確かにそばに一緒に観ていた人が居たはずなのに、いつのまにか1人になっていた。
ーーばらばらになるのは嫌だ。
その時ぱっと目が覚めた。…なんだ、また夢だったんだ。今年の夏になってからもう何度目になるのだろう。ほぼ毎日のように花火の、一人ぼっちの夢を見る。
理由は分かってる。だけど…。
「はぁ…。」
こうして、毎朝ため息をついて私の1日は始まるのだった。
伊波千夏は都内で暮らす高校2年生。今日は夏休み目前というこの時期に転校生が来るという噂を聞いたので、なんとなくそわそわして、いつもより少し早めに登校することにした。
学校へと着くと普段は皆遅刻ぎりぎりなのに、今日はすでにほとんどの人が来ていた。
「おはよう。奏太。」
私の隣に座っているのは幼なじみの七海奏太。物心ついたときからずっと一緒にいる。
もう1人このクラスには私の幼なじみがいる。教室の1番後ろの隅に座っている、吉岡陽斗だ。
1年前のあの一件以来、私も奏太もほとんど口を聞いていなかった。むしろ、陽斗は誰ともほとんど会話をしようとしなかった。
「おはよ。千夏。」
奏太とは変わらずに挨拶を交わすし、普通におしゃべりもするけれど、どことなく寂しさが感じられる。
「転校生、どんな人だろね。」
そんなたわいもない会話をしていると、担任が転校生と共に教室へ入って来た。
「じゃあ、自己紹介して」
そう言われた転校生は、
「時遡優守です。よろしくお願いします。」
と、簡単に自己紹介をした。
変わった名前だし、なんか不思議な雰囲気の人、というのが私の彼に対する第一印象だった。
それから1週間ほど経ち、なんとなく時遡くんもクラスに馴染んだところで、夏休みに入った。
夏休みといっても、部活やら講習やらでなんだかんだ登校するのだが。
そんなある日、忘れ物を取りに教室へ戻ると中から奏太と陽斗の声がした。
「あいつはお前が殺したんだ。お前は俺たちから大事なものを奪っていたんだよ。」
「僕だって言ったさ。でもあいつが…」
「お前があの時最後まで居たら…」
「ちょっと二人ともやめてよ。今さら色々言っても何も変わらないじゃん。もう、今さら…。」
「分かってるよ、俺だって。もう、あの日には戻れない。だからどうしても許せないんだよ。」
「陽斗…。」
そう言って、教室を出て行ってしまった。
「ごめんね、千夏。僕が責められるのは当然のことだから。じゃあね。」
そう言って奏太も出て行ってしまった。
夕方の誰も居ない教室。
一年前は、ここに彼女が居た。いや、陽斗も奏太も居た。
今は、1人だ。
「もう、戻れない…のかな。」
あの頃とは何もかも変わってしまった。
「…泣いてる?」
「えっ?」
いつのまにかそこには、時遡くんが居た。
知らないうちに私は泣いてたらしい。
「悲しいこと、あった?」
彼の声はなんとなく私を安心させた。
「私の思い出にちょっとだけ付き合ってくれる?」
彼が全くの部外者だったからだろうか。なんとなく彼に話してみようという気になった。
一年前のあの日のことを…。