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過去

 あれも違う、これも違うと小一時間悩んでいる内に地図だけは完全に覚えた。


 一本道なのに何を悩んでいるのか。

 自分でも謎なのだが職業病だと結論付け、ペンを置いた。


「終わった?」


 いつの間にか、睡蓮さんがプレゼントしてくれたらしい湯気が立っているマグカップを両手で持った雫は俺に言って、マグカップをテーブルに置いた。


「ああ。ま、何とかなるだろ。もうお眠か?」


「ううん。眠たくないよ」


 雫は首を横に振り、更に言葉を並べた。


「私、お留守番なら出来るよ」


 俺に気を使っているのだろう。

 けれど、雫の身を優先して考えただろう睡蓮さんが俺に連れて行けと言ったのだ。逆らうわけにはいかない。

 それが雫の為になるだろう。と、口にはしないが付け加えた。


「例えばな、雫の居場所が外部に漏れていたとしたらどうする?」


「……また連れていかれる」


「だろ? まぁ、無いと思うけど可能性はゼロじゃないんだ。だから留守は任せられないな」


「そっか。納得したよ。咲ちゃんの後ろに着いて行けばいいんだよね」


「正確には睡蓮さんの後ろな」


 睡蓮さんの後ろなんて言ったのはただ気恥ずかしかったからだ。

 俺なんて誰かが着いて歩いてくれるほど立派ではないし、経験もない。


 雫に悟られないように冷蔵庫へ向かいビールを取り出す。


「照れてるの?」


 図星を突かれてビールを落としそうになったが何とか持ち直し、雫の方を向いたが、等の本人はそっぽを向いていた。


 勘が良いのか、変なところで大人びているのかーー


 憶測だが両方間違っているだろう。

 敢えて答えを挙げるのならば〝経験〟だ。

 雫本人は意識などしていないだろうが、自分の身を守る為に他人の顔色ばかり伺っていたのだろう。


「雫、一つだけいいか?」


「ん? 何?」


「答えたくなければ嫌だと言ってくれ。何人に引き取られた?」


 回りくどく訊かず、直球で尋ねると雫の表情が変わった。

 思い出したくない記憶なのだろう。苦悶の表情を浮かべて俺を見ている。


 今訊くことではなかったのかもしれない。もっと時間をかけて、信頼を得てから尋ねるべきだと後悔したが、吐いた唾は飲めない。


 迷うように視線をしきりに動かす雫を見ながら、俺は缶ビールを冷蔵庫に戻した。酒を飲みながらする話題ではない。

 

「言いたくないとかじゃなくて、覚えてないかな。ね、咲ちゃん」


「……どうした?」


「ーー咲ちゃんも私を道具として使うの?」


 聞いた刹那、言葉を失った。

 失言を取り返すための甘い言葉を数通り考えていたが、全て雫の一言で掃き捨てられた。


 雫に安っぽい言葉は通用しないと頭より先に他の何かが感じ取った。


 文字通り開いた口が塞がらない。本来ならば違う意味で使われる言葉だが今回ばかりはこの表現しか使えないだろう。

 俺は雫に何か言おうとしているのだけど、言葉が、声が出ないのだから。


 確率の変更といった全てのルールを覆せる可能性をその身に宿しただけでーーだけなのに、普通の生活を謳歌出来なくなった。


「ごめん。けど、俺は雫を道具だなんて思ってない。睡蓮さんもだ」


 信用してくれとは言わない。そんなチープな言葉は雫を引き取った人間によって使い古されているだろう。


 俺はそんな奴らと発言一つでも同等にはなりたくない。


「うん。そうだと信じてるよ」


 とりあえず、睡蓮さんに相談しよう。

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