表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

睡蓮

 仕事は失敗だ。

 戦利品というか、せめてもの償いというか、そんな〝者〟を連れて会社へと戻った。


 社長室と書かれたプレートがぶら下がった扉を抜ける。


 左右に並ぶ本棚と中央に置かれた事務机の殺風景な部屋に居座るのは俺の上司である睡蓮さんだ。


 事務机の上に寝そべりながらチラリと俺の方を向き、笑った。


「お帰り。そちらはお客さんかな?」


 タイトスーツを着た睡蓮さんだが、仕事人間の雰囲気は感じない。

 腰まで垂れている緩く結ばれた三編みの髪の色は真っ赤だからだ。


 筋の通った鼻に薔薇の花弁を散らしかの様な唇。釣り上がった目の中心には黒曜石を思わせるような深い黒の瞳。


 見てくれだけは美人なのだが雰囲気が些か緩すぎる。


「ええ。すいません、失敗しました。ほら、挨拶だ」


 俺の後ろに隠れるようにこの空間を観察していた〝戦利品〟は一歩前に出る。


 俺の依頼のターゲットなのだが、殺せなかった。

 その上、なついてしまい今に至る。といったところだ。


 〝雫〟と呼ばれる少女なのだが、特筆すべきは身長の低さか。

 140前後程しかない。シルクハットを深く被り、よくは見えないが垂れた茶色の瞳。少し低い鼻。肩まで垂れる灰色の髪。


 白いパーカーに膝が隠れる程の淡い水色のスカートのせいか、14歳なのだが、幼く見える。


「……はじめまして」


「こちらこそ初めまして。雫ちゃん、噂は聞いてるよ。何でも〝確率の支配者〟だとか」


 雫にも睡蓮さんと同じ様に特殊な能力が備わっている。

 確率の支配。0~100までの確率を変動させる能力の持ち主。


 思い当たるのはカジノ等のギャンブルで、能力を使えばそれだけで暮らしていけるだろう。


 身を乗り出して雫に話しかける睡蓮さんに雫は一歩引き、俺の上着の袖を掴んだ。


「大丈夫だって。取って食われるわけじゃないから。ね、睡蓮さん」


「若い娘の血を飲むと不老不死になれるだとか……」


「睡蓮さん!?」


 雫はとうとう俺の後ろに隠れてしまった。


 彼女も本当にいい性格をしている。

 だが、睡蓮さんのこの行動。さしずめ、からかいは決して悪意からくる行為ではない。


 お近づきの印とやららしい。


 目も口元も笑っていることに気づいたのか雫も俺の後ろから 睡蓮さんの前まで出てシルクハットを取る。


「綺麗な髪だね。早速だけど咲ちゃん、依頼が来てるよ」


「またですか……」


 立て続けに依頼が三件入ることは稀だ。年に一回でも多い方なのだが、ここ最近、依頼の件数が増えてきている。


「またまた。内容は研究所のデータを盗むこと。ま、簡単な仕事だよ」


「……咲ちゃん、こそ泥?」


 シルクハットを再び深く被り直した雫と睡蓮さんは俺に向かって、早く行けとばかりに手を振る。


 溜め息を一つ落とした俺は分かりましたとだけ言い、踵を返して歩く。


 ドアノブを掴んで思い出した。


「雫、ちゃんは止めてくれ。それと俺はこそ泥じゃない」


 これ以上ちゃん付けを増やしてたまるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ