13話
部屋に戻るとちょうど由梨さんが勉強を終わらせたタイミングだったみたいで、それはもう晴れやかな笑顔で私を抱きしめて頬ずりをしながらベッドへ運んでくれた。
あー、やっぱり由梨さんの腕の中は気持ちいいし、いい匂いがするぅ。
ベッドに横たわる由梨さんの枕元に丸くなって、怒涛の一日を思い返しながら目をつむる。
やー、なんかホント、寝起きだっていうのにいろんな人に会ったりしたなぁ。
「都ちゃん」
「んな?(はーい?)」
「明日のジル先生の試験、魔術制御の実施だけど、見に来てみる?」
「…にゃぁう?(…それって楽しい?)」
由梨さんがいるとはいえ、あの危険人物と同じ部屋にいくなんて!
思わず胡乱な視線で由梨さんをみる。
「大丈夫だよ、ジル先生は一応仕事中は真面目だよ、一応。」
一応って二回言ったよ!
念押しで、二回言ったんですけどー!
「にゃーぁぅう(昼間に少し会ったとき私のこと研究したいみたいな感じだったよ)」
それでも大丈夫なの?
平気なら、魔法とか非科学的なものをこの目で見てみたいんだけどね!
「まぁ、私もいるし、明日は試験が終わったらまたすぐ講義だから、講義の時は部屋から出ていけばいいよ!」
都ちゃんも魔法ってみてみたいでしょ?と布団から手を出して私の背中をそっとなでる。
「んなぁう(それでいいなら見に行ってみたいな)」
「じゃぁ、明日は朝ごはん終わったら一緒にいこうか」
「にゃ!(了解!)」
「おやすみ、都ちゃん」
「なーぅ(おやすみなさい、由梨さん)」
ゆっくりと瞼を閉じる由梨さんを見つめる。
誰かと一緒に寝るの、どれくらいぶりだろう。や、この世界に来てからずっと寝てたらしいけど、実感ないし。
おやすみ、なんて、どれくらいぶりかな。
あぁ、なんだかくすぐったい!
くすぐったい!
ちょっとだけ、幸せだ。
さっきの青いドラゴンの言葉が体に浸透していく感じだ。
ぜったいに しあわせに なる。
由梨さん。由梨さん。
私はきっと、あなたがいてくれて、とても幸せだよ。
すーすーと健やかな寝息を立てる、綺麗な女性。
少しだけ体を動かして、親愛の情をこめて、彼女の額に唇を寄せた。
どうか、あなたも幸せを感じてくれますように。
そして私は幸福感に包まれたまま、深い眠りについた。
翌日、昨日と同じようにチュニアさんが配膳してくれた朝食を部屋でとってから私は由梨さんの隣を歩きながら目的の部屋を目指す。
どうやら魔法の実施訓練をするには、防魔室…防音室の魔法バージョンみたいな部屋があって、そこじゃないと訓練はできない法律なんだって。
すーっごい昔に、原っぱで魔法の練習してたら魔法が暴走して原っぱ全部凍らせちゃった後に氷を解かそうとして半焼させた挙句、逆切れして「全員魔法禁止!」なんていいだした王様がいたらしくて、それ以来の決まりらしい。
なんだそのヘタレな王様は。
あまりのヘタレっぷりに脱力して肩を落としたとき、由梨さんが扉の前で立ち止まる。
ここ?
見上げた視線で問いかけると、由梨さんは笑顔で頷く。
ふむ。なかなか厳重な扉だけど、木製だ。イメージ的には銀行の金庫みたいな鉄板というか、特殊な金属を思い浮かべていただけに、なんだかガッカリだなぁ。
コンコン
由梨さんが軽いノックをすると、ドアノブに触れていないのにドアが自動で、ゆっくりと開く。
「失礼します。ユリ・タカトオです」
「どーぞー。」
軽い一例をして部屋の中へ入っていく由梨さんの後をついて中へ入ると、そこはいたって平凡な、というか何もない部屋だ。
壁紙は真っ白で、天井にはシャンデリア。まぁ、シャンデリアはこの青の宮の標準装備だから普通だ。
ただ、窓はない。
窓のない、真っ白な部屋の中央にポツンと黒点のようにジルは黒いローブをまとって立っていた。
由梨さんを招き入れた彼は、由梨さんの足元について歩く私を見つけて大げさなほどに驚きの声を上げる。
「ミャーコ様だーーー!!!え、なにどーしたの!?僕に研究されてみる気になった?それとも僕のことが気になって夜も眠れなかった?ふっふっふー、それなら僕も一緒だよー。僕もミャーコ様の生態とか魔力とか金色の眼球が気になって気になって気になって気になって!一睡もできずに仮説を立ててたからね!」
え、なにこの人、寝不足でテンション高くなっちゃってんの?
大きな声に驚いて耳が寝てしまった私は、ドン引きで由梨さんを見上げる。と、苦笑いをして私を見下ろしている由梨さんと目があった。
いや、もうこれは笑うしかなさそうだね。って目が言ってる。
由梨さんと私が目と目で会話している最中もジルは興奮しきった様子でまくしたてていたが、ひとしきり大声を出して満足したのか、ふぅっとでてもいない汗を腕で拭う仕草をしてから急に真面目な表情で由梨さんを見た。
「では、さっそくはじめようか。…ミャーコ様は部屋の端っこか、それとも僕の腕の中」
ジルがしゃべってるけど気にせず、私は踵を返して部屋の隅へ移動する。
ちぇー、とすねた声が聞こえたけど気にしない。
「では、ユリ・タカトオ。はじめようか」
「はい」
がちゃん、と鍵のかかる大きな音を響かせた瞬間、真っ白い壁とシャンデリアだけの部屋にあった唯一の出入り口が消えていた。




