第Ⅷ話
書きました。
楽しんでくれたらいいな、と思います。
「お、久しぶりだね唯君」
「おはようございます、夏帆先輩」
「うん、おはよう」
お~、何と美しいんだ。
先輩のすべてを包み込んでくれるような笑顔に、僕は骨抜きにされそうになっていた。
時々こうやって先輩と通学路で会うことがある。
「もう、元気になったんだ?」
「はい、先輩のおかげで!」
「もう、私は何もしてないよ」
先輩とそんな会話をしながら校門をくぐる。
「ちょっと寺岡!こっち来なさい!」
「朝から人気者ね、唯君は!」
「誤解っすよ、先輩.........」
先輩はにこやかに笑っていた。
先輩との幸せのひと時を壊したのは、風紀委員長の岩西薫だ。
彼女とはただのクラスメート。
そのくせ、何かと僕に絡んでくる奴だ。
「なんだよ、岩西。僕は先輩とだな......」
「ネクタイが曲がってんのよ!」
「唯君、私先行くね!」
「せーんーパーい」
「早くこっち......来なさいよ」
そういうと岩西は僕のネクタイを直していく。
「........これでよし」
「.....お前、新妻みたいだな」
「に、新妻!......そんな.....まだ早い.......じゃなくて、なに言ってんのよ!」
なんかドラマでネクタイ直すシーンがあったから言ってみたんだが。
岩西は顔を真っ赤にしながらブツブツ言っていた。
「特に意味はない」
「そ、そうなの。それならいいけど。.........あたしじゃダメなのかな」
最後の方は何言っているかは聞こえないがなんか落ち込んでいるようだ。
ここは一つ。
「何落ち込んでるか知らんが、信じる者は救われる、らしいぜ。近所のおばちゃんが言ってた」
「.........うん」
岩西は小さく返事すると違う場所に行ってしまった。
「.......この、天然野郎」
「っ!.......なんだ敏か」
後ろから声をかけられ少し驚いてしまった。
その声を掛けてきたのは敏だった。
「朝からモテモテだな」
「先輩と同じようなこと言ってんじゃねーよ。.......ったく、モテモテはお前だろうが!」
「やれやれ、これだから天然は......」
首を振りながら敏は校舎の方に歩いていく。
「早く来いよ、唯」
「あ、ああ」
「おっはよー、唯。あれはちゃんと大事にしてる?」
「おう、千夏。ちゃんと大事にしてるって」
あれとは、千夏からもらった緑色の石だろう。
首にちゃんとかけている。
「あ、おはよう。寺岡君」
「菅谷さん、おはよう」
菅谷さんに挨拶して、席に座る。
ここ最近、非日常的なことが多すぎて学校がいつも以上に退屈に思えてくる。
「.......眠い.........」
いつの間にか、僕は寝ていた。
「.....ちょっと、起きなさいって!」
「んんっ....あれ?」
「あれ、じゃないわよ!」
「岩西?」
目が覚めると、教室には誰もいなかった。
いや、岩西と千夏がいた。
「.....あれ、授業は?」
「そんなもの、とっくに終わったよ。唯はずっと寝てたけどね」
「なんで、一日寝てられるのよ」
「..........あ、そうだ。私、用事があるんだった」
千夏はふと何かを思ったのか、そう言ってカバンをとる。
「ごめん、薫ちゃん。私、先帰るね」
「あ、中城さん!」
そして走って帰ってしまった。
「.......さて、僕も帰るか」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
帰ろうとする僕の手を岩西が掴む。
「........その、あんたに手伝って欲しいことがあって......」
「......何するんだ?」
申し訳なさそうに目を伏せる岩西は、いつもの厳しさがなく、とても可愛く見えた。
このことは内緒にしておこう。
「......本の整理」
「え?」
「本の整理よ!......お願い」
何を言ってんだ?
岩西は風紀委員長のはずだが。
「お前、図書委員にでもなったのか?」
「そんなわけないでしょ!あたしは風紀委員長よ!」
.......だから聞いたんだろうが。
「......で、何で?」
「その.....風紀委員の資料を片付けなくなっちゃって。他の委員には違うしてもらっているから、人が足りなくなったのよ。それで悩んでいたら中城さんが手伝ってくれるって.....」「千夏は帰ったぞ......」
「だから!......頼んだら、あんたも手伝ってくれるっていうから....」
「.......」
何で千夏は引き受けると思ったのだろうか。
まあ、今日は予定もないから........引き受けても構わないが。
しかし、遅くなるとナヴィアが心配するからな........
「.......ダメ....か?」
「ぐっ!」
岩西の上目遣い。
しおらしい岩西はいつもより可愛く見えて.....
意識してなのかは知らないが、その上目遣いは効果抜群で......
「......やってやるよ」
「......いいの?」
「.....ああ」
気づけば僕は、その頼みを引き受けてしまっていた。
感想よろしくお願いします。