第Ⅳ話
今回はかなり短いです。
すいません。
ナヴィアは黒い蔦から逃れ、唯に駆け寄った。
赤い光はもう消えていたが胸には大きな風穴があいている。
どう見ても死んでいる。
というか、この状態で生きているほうがおかしい。
唯はもう死んでいるのだ。
ナヴィアは唯を壁に寄り掛からせてからミリアムの前に立った。
「ははは。ハニーをかばって死ぬとは、なかなかやるじゃないか!」
ミリアムは唯にやったのと同じようにナヴィアの肉を切り裂いていく。
ナヴィアは黒い蔦から抜け出すのにかなりの魔力を消耗したため、もう魔法を使うことができなかった。
そしてミリアムは、笑いながら一瞬でナヴィアに近づいて右手をその顔に向けた。
「さあ次こそハニーの番だ」
目の前で赤い光がミリアムの手に集まっていき.........
「もう助けてくれる人はいないんだよ!」
ナヴィアは目をつむった。
「な、何故.........貴様が!」
いくら待っても痛みを感じないし、ミリアムの変なつぶやきが聞こえ、ナヴィアは目蓋を開ける。
ナヴィアは自分が今見ている光景がとても信じられなかった。
ナヴィアの目の前には.......死んだはずの唯の背中があったからだ。
「ああ、ああ。唯さん.......生きてたんですか........?」
ナヴィアの問いかけに唯は答えない。
唯はミリアムの右手をつかんでいた。
そして、その腕を握りつぶした。
「ぁぁぁぁぁぁぁあ!」
ミリアムが苦痛の叫び声をあげる。
「き、貴様ぁぁぁぁ!」
左手に持っていた剣を唯に振り下ろした。
唯は避けようとせず、右肩に刃が当たる。
しかし切れることなく、少し肩の肉を裂いただけだった。
ミリアムは剣を抜いて何度も何度も唯を切りつていく。
そして唯はミリアムの左手も掴んだ。
右手と同じように握りつぶす。
「............!」
ミリアムは声にならない叫びをあげ剣を地面に落した。
唯は両手の使えなくなったミリアムの髪をつかみ、あいているほうの腕で殴りだした。
「あが、うぐ、が!」
ナヴィアはその光景をただ見ているだけで、身体が動かなかった。
いや、動けなかった。
ミリアムはまだ生きてはいるようだが、もうピクリとも動かない。
まるでおもちゃに飽きた子供のように、虫の息になったミリアムを唯は壁に投げつけた。
そしてナヴィアのところにゆっくりと近づいてくる。
「!」
唯が生きていたことが分かった時のようなうれしさは、今はもう恐怖でしかなくなっていた。
風穴があいていたはずの胸にはもうふさがっていた。
そしてミリアムに切られたところまで。
「うぅ.....っう...........!」
唯はナヴィアの首をつかんで持ち上げた。
あいているほうの手でナヴィアを殴ろうとする。
しかしその拳は振り下ろされることなく.........
そこで力尽きたかのように唯は膝から崩れ落ちた。
「...........っ!」
薄っすらとした意識の中、身体を起こそうとして頭に痛みを覚えた。
変な夢を見た気がする。
女の子が降ってきて、その子が魔王で。
勇者と戦って.........。
しかもその結果、僕は死ぬことになるなんて。
すごいリアルな夢だったと思う。
ははは、そんなことは夢の中だけだから。
だから僕は死んでない。 時計を見ると、普段なら起きてないといけない時間だった。
「やっば!」
ベットから降りて自分の部屋から出る。
僕は朝食をとろうとして、やっと気づいた。
あれが夢ではないことに。
だって彼女がリビングのソファーで眠っていたから。
「夢じゃ........なかった」
ナヴィアを起こさないようにそっと毛布をかけてあげる。
そして朝食と一緒にテーブルに食べ物と手紙を置く。
手紙にはテーブルの食べ物を食べるように書いておいた。
だいぶ疲れているだろう。
ぐっすり眠っている。
ミリアムが近くにいない。
どうやら勇者には勝ったようだ。
僕がいなかったほうが邪魔にならずに済んだのかもしれない。
でも、少しでも力になれたのなら.....少しうれしいかな。
死んだはずの僕をナヴィアは生き返らせたのだろう。
だから、僕はここにいる。
「遅刻しそうだ!」
時計を見ると間に合うか間に合わないかというぎりぎりの時間だった。
急いで支度をして僕は家を出る。
この時の僕は、自分がミリアムを倒したことをまったく覚えていなかった。
いや、知るはずもなかった。