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俺と私と三人目の僕  作者: 海産物Ver.2.5
第一章 魔王と共に勇者を倒す話
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第Ⅰ話

 「雨は嫌いだ。蒸し暑くてうっとーしいから」

 「俺は好きだぜ」

 梅雨になったばかりで雨を降らし続ける空に悪態をつく。

 僕こと寺岡唯(てらおかゆい)は小学生の時から高校まで、ほぼ同じクラスになっている柳町敏(やなぎまちさとし)と一緒に下校していた。

 「キャー!あれ見て!敏様よ!」

 「本当だわ!敏様を見れるなんて幸せだわ!」

 「.....敏、迷惑だから顔隠せよ」

 敏を見て他校の女子生徒がわめきだした。

 いつも敏と帰ると、このようになる。

 スポーツ万能、成績もトップクラス、おまけに顔も性格もいいコイツはモテる、とにかくモテる。

 敏は女子に手を振りながら笑いながら言った。

 「気にするなって唯、いつものことだろ」

 「敏と違って僕はモテないんだ。慣れるわけないだろ」

 「お前も手を振れって。案外お前を気にしている奴もいるんじゃないか?」

 「いる訳無いだろ。全部お前のファンだよ」

 毎度のことながら慣れない。

 僕はこの女みたいな名前と、背が低く筋肉質のこの身体に少なからずコンプレックスを抱えていた。

 一応、僕にだって好きな人はいる。

 僕たちより一学年上で三年の天塚夏帆あまつかかほ先輩だ。

 綺麗な黒髪を腰まで伸ばしいつでも眩しい笑顔を見せる天塚先輩は、絵にかいた様に大和撫子を表している。

 先輩はこの学校のマドンナといってもいいだろう。

 そんな先輩のことを知ったのは去年の春のことだ。


 まだ学校に慣れない僕は移動教室の場所が分からず困っていた。

 今、思い出すと僕がいたのは二年の校舎だったから先輩に会うことが出来たのだろう。

 「キミ、一年生だよね。道に迷ったのかな?」

 「えっ......は、はい」

 「どこに行きたいの?」

 僕には先輩のことがまるで天使のように見えた。

 そのあと丁寧に教室の場所を教えてもらいながらちょっとした自己紹介をした後、僕は先輩と別れた。

 「じゃあね、唯君。また何かあったら頼ってね」

 「は、はい。あ、ありがとうございました」 手を振りながら歩いていく先輩。

 この時から、僕が先輩に夢中になったことは言うまでもないだろう。

 

 「んじゃあな、唯。俺こっちだから」

 「......あ、ああ。んじゃあな」

 先輩のことを考えていてボーっとしていたようだ。

 いつの間にか敏と別れる十字路に来ていた。

 敏の走っていく後姿を見ながら、今晩の夕食について思いだした。

 今年から両親が海外で仕事をすることになり、中学生になるはずの妹は帰国子女になった。

 そのため二か月ほど前から一人で生活していた。

 「夕食は......カップめんでもいいか」

 確かまだ、ストックがあったと思う。

 なんか、今日はだるいし買い物に行くのをやめる。

 この時、買い物に行っていたら、僕には違う未来があったにかもしれない。

  「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突如聞こえる女の子の声。

 しかも上から聞こえる。

 上を見ると肌色の何かが降ってきた。

 スドーーン

 凄まじい爆音とともに僕の意識はかき消された。

 せめてもの救いは、周囲に人が一人もいなかったことと、そこが僕の家の前だったことだろうか。


 誰も通らないような薄暗い路地に僕はにいた。

 ただそれだけなのにこの世界から切り離されているように感じる。

 僕はここにいるはずなのに。

 「?」

 突然、服を引っ張られた。

 振り向くとそこには小さな女の子が服をつかんでいる。

 「......どうしたんだい?」

 「....あのね.....これ落としたよ」

 女の子は服を引っ張っていないほうの手を僕に見せた。

 「えっと.......これは僕のじゃないよ」

 手には紅く輝く石が握られている。

 僕にはそれがとてもきれいに見えた。

「......これは.......お兄さんの......だから.......持っていて.......」

 「どういうこと?」

そこにはもう、女の子はいなかった。

 そして、いつの間にかその石は僕の手に握られていた。


 目が覚めるとそこには妙な息苦しさと視界を覆う何かが感じられた。

 それに人一人分くらいの重さや温かさを感じる。

 「.....むぐんんんん....」

 ダメだ。

 口を塞がれていて声がでない。

 しかもなんか柔らかい。

 腕を動かしてみる。

 お、右腕は動くようだ。

 左側はぴくりともしない。

 右腕だけで上にある何かを持ち上げた。

 最初に目に着いたのは角だった。

 人には多分ありえない、まがまがしい角だ。

 そして角から下を見ていく。

 まるで人形の様な顔、大きすぎず小さくもないがどちらかというと小さめの胸が目に飛び込んできて.......

 さっき口に当たっていたのって........まさか.....

 「って、それはいかんだろ」

 それ以上見るのも悪いしというか普通に見ちゃったし、でもこのまま放っておくのも悪いので、ひとまず家の中に抱えたまま退避する。

 ソファーに寝かせ、毛布で彼女の裸体を目につかないようにする。

 ただでさえ女の子なんて血縁ぐらいしか触ったことないのに、マジで理性が吹き飛びそうだった。

 〝くらっ〟

 「あれ?」

 立ちくらみがしてよろけてしまう。

 そしてそのまま倒れてしまった。

 床に顔がついて初めて気づいたことがあった。

 床が血で汚れていた。

 彼女には傷がなかった。

 ということは.......

 「.....これ.....僕の血....か......」

 また、僕の意識は夢の中に旅立っていった。

 戻ってこれる気がしないけれど........

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