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第一話【鎖島竜二】




メディアを中心に、ニューヨークの悲劇は『血のクリスマス』と呼ばれるようになり、人々の記憶に強く刻み込まれた。




ニューヨークを還付無きまでに破壊した紅い光線については、米軍が開発していた対巨大隕石迎撃用レーザー兵器『メシア』に酷似しており、当初、なんらかの実験失敗か、悲劇的事故ではないかと、推論が飛びかっていた。


しばらくして、それが絶対的に否定されると、今度はイスラエルや北朝鮮によるテロではないか、よもや、宇宙人による襲撃ではないかという馬鹿げた話しにまで及んだ。


ホワイトハウスの発表は世間が思っていたよりもはるかに早く、また、その内容は、どこぞのコメンテーターが言いたい放題口にしていたモノと負けず劣らずの信じ難い発表であった。




新人類『ルシファー』の存在と、その恐るべき目的。




―――世界中を恐怖のどん底に突き落とした。



『ルシファー』は旧人類、つまり我々とは比べるべくもない、身体能力の高さと、冷血さをもち、さらにあの紅い光りに代表される未知の殺傷技術をも持っている。


そして、本当に驚嘆すべきはその目的。







―――奴らは我々を絶滅させるつもりだ―――




いうまでもなく、ホワイトハウスの記者達をはじめ、世界中を大混乱に陥れた。

大統領は一切の質問をうけず、最後に一言だけ付け加えた。




「これは戦争です。かつてなかったほど凄惨を極める戦いになるでしょう。しかし、五十億の同志達が、一丸となれば、恐れることは何もありません。今日こそ全人類か手ん取り合う時です。勝利をおさめ、平和を取り戻すために、今、すべての力を一つに!」
















―――3年の年月が流れた。






ホワイトハウスの演説から、すぐに世界政府が立ち上げられ、ルシファーとの戦争の準備が刻一刻と整い始めていた。



不気味なのは、あれから3年、ルシファー側に目立った動きが見られないことだ。

世界各地でルシファーによる凶悪事件が起こる程度。

その度、討伐も順調にこなすが、旧人類側も根本的な勝利にはこぎつけられない。

きりのないイタチごっこが繰り返されていた。
















2020年1月、日本、兵庫県西宮市郊外。




雪が舞う。


血が舞う。


首が舞う。



漆黒のスーツに骸のネクタイ。

手は何やら趣味の悪い指輪でゴツゴツと装飾している。

逆立てた黒髪に、釣り上がった一重の眼。

オニキスのピアスが全身の黒を一層際立たせる。



雪の降り頻る中、殺戮の刃を振るう黒い幻影が鮮やかに舞踊っていた。



たったの一人で数十人のルシファーを次々と斬り殺してゆく。

一滴も返り血を浴びてはいない。

代わりに、降り積もった雪の白が赤に変わる




―――瞬く間に、ルシファーは残り一人になっていた。


たった一人になっても恐怖はないのか、それでも全く怯む様子はない。

斬りかかる。

かわす。







「おぉぉい。てめぇら、殺りがいがねぇぞぉ。少しは楽しませろよ」



不敵に笑いながら、首を傾げて見せる黒い男。

構わず、刀を振るい続けるルシファー。

かわし続ける。



「・・・つまらねぇ」



刹那、首が胴と斬り離され、赤い噴水が宙に舞った。

翻って、雨になり、降り注ぐ。


染まる余地の無い程、すでに真っ赤に染まった雪のアスファルト。

その中央に男は立つ。


刃の血を掃うと、口の端を不気味に吊り上げて、歪んだ笑みをみせた。

自信に溢れるその表情。

口調はさらに、残虐になる



「強ぇ・・・。ハハハ。俺は強ぇ!誰にも負けねぇ。どいつもこいつもブッ殺してやる!!ハハハハハ!」




・・・ルシファーの生命力は人間のソレとは比較にならないほどに強い。

首だけになっても、数分は生きていられるし、数秒なら意識もはっきりしている。



―――地に落ちた瞳に写るは鬼の化身。

逆立った黒髪が角のように見えた。


薄れゆく意識の中、耳に残るのはけたたましい笑い声だった。







「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」












―――彼、鎖島竜二は、世界政府が、対ルシファー人型生物兵器『コアファイター』を考案した時、その実験に志願した日本国自衛隊員の一人で、現在、世界政府直轄ルシファー危機処理組織『アンゲロス』日本特別実行部隊の隊長である。


コアファイターの内でも、トップクラスの実力を誇る彼ではあるが、思想に問題があるのは一目瞭然で、極端なまでの戦闘主義は仲間内からも恐れられている。











―――時刻はすでに零時を回っていた。




人里離れた山上の駐車場で、血濡れの雪の側、フェンスにもたれて夜の闇に佇む。


携帯電話を取り出し、操作。

青く発行するディスプレイが鎖島の顔を妖しく照らしている。


メールを送信した。






―――しばらくして、遠くから、雪を削るタイヤの音が聞こえた。

段々と近くなる。



夜に溶け込むような黒塗りの外車が三台。


先頭の一台から、スーツの男が歩み寄ってくる。背筋を真っ直ぐに伸ばしたがっちりした体型で、鎖島とは対照的に、いかにも軍人らしい雰囲気を漂わせている。



「鎖島隊長!お待たせいたしました!お迎えにあがりました。」


男の横を素通りして車に近づく鎖島。



「コートおかけいたします!」


鎖島は面倒臭そうに、それをつきかえした。


「・・・いちいちうるせぇな。俺が寒ぃわけねぇだろうが。」

姿勢を直して、表情を固くする男。


「しっ、失礼致しましたぁ!」



鎖島は車に乗り込んで、扉を閉めた。



「・・・」



黒塗りの窓を半ばまで降ろして、外の男に視線を送る。


「・・・てめぇ、新人か?・・・サンキューな。後片付けは任せたぜ。」



驚いた表情で、さらにカチンコチンの男。


「はっ、はい!ありがとうございます!ご苦労様でしたぁ!!」



「・・・おう。」



窓を閉じて走り出した。
















「・・・いつになく優しいなぁ。竜二。」



今度は鎖島が驚いた表情を見せる。



「吉村さん?!・・・こんなとこで何やってんスか?今度は運転手に転職っスか?」


一転、ケタケタと笑いながら、話す鎖島。



なにやら吉村も嬉しそうに笑みを浮かべている。


「偉くなったねぇオマエも。・・・まぁいいや。てゆーか、どうだ?調子は?」





・・・フと外を見ると、深夜にも関わらず賑わいを見せる西宮の都心部。学生だろうか?若者達が笑いながら街を闊歩している。


複雑な気持ちでソレをながめながら、口を開く鎖島。



「はっ!楽勝っスよ。弱ぇのなんの。てゆーか百でも千でもまとめてかかってきてくれねぇもんスかねぇ。」




「そうか。それは心強い限りだな。・・・実はまぁ、その事で報告があんだよ。今日は」



怪訝な表情の鎖島。

沈黙によって、質問を投げかける。




「・・・まぁ、他の連中も集まってるしな。詳しい事は着いてからでいいか。少し急ぐぞ。」



―――アクセルを強く踏んだ。

段々と速度が上がる。

裕に法定速度を越えて、さらに加速してゆく。


黒塗りの高級外車には似つかわしくないほど、・・・いや、通常では考えられない程のスピードでハイウェイをひた走る。

周りの自動車は、時を止めたように視界の後ろに消えていった。


さらに、スピードは上がる。










会話の無い車内。

かれこれ30分は経っただろうか。

鎖島は相も変わらず、窓の外を眺めたままだ。


吉村が声をかけた。



「もう着くぞ。少しは寝られたか?」



自嘲気味に笑う鎖島。

肩をすくめて答える。



「もう半月近く寝てないっスよ。」




「・・・そうか。そう、だったな。」



吉村も罰が悪そうに頭をかいた。




「吉村さんが気にする事じゃあないっスよ。ただ俺も、いよいよ人間って感じじゃないなぁって。・・・まぁ、これはこれでそれなりに楽しんではいるんスけどね。」



満面の笑みを浮かべる鎖島。

かえって不気味に思える。



吉村も悲しく微笑んだ。













「・・・着いたぜ。」



眼前には、超高層の摩天楼が聳え立っている。


雪の靄と、夜の闇で最上階は完全に隠れて、見えない。


先の見えない闇に包まれ頂き。



鎖島にとっても、吉村にとっても、それが、自分達の行く末の暗がりを暗示しているように思えてならなかった。

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