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愛とはどんなものかしら  作者:
Almavivaの騒動
3/10

零日目:終焉は始まりの鐘を鳴らす

副題:『不幸の手紙を受け取る』

 世界なんか終わればいいとか思春期特有の妄言を呟いてみる。

端から見れば、こいつ頭ヤバいんじゃないのとか思われて、精神科行きを勧められそうな独り言だ。

でも安心してほしい。

ここには俺以外の誰一人として人間はいない。

いたとしたらそいつは警察につきだしてやるべき人間で、そんな奴に精神を疑われる筋合いはない。

 自室の生温い温度となった床に寝転がる。

夏といっても今は夕暮れ時で、涼しい風が窓から入り、じわじわと熱く火照った体の熱を冷ます。

流れる汗は床に張り付いたシャツに染み込み、俺はそれらを拭うこともせず、目を閉じる。

 はっきりいって俺は普段からこのように世界滅亡を願うような痛い奴ではない。

むしろ平和こそが全てでそれこそ戦争とか些細な喧嘩すら避けて通りたいと思っている。

そんな平和主義者なこの俺がこんな危険思想にまで行き着く過程がどれほど悲惨だったかを察してほしい。

そもそもの原因は俺の前世にあった。

何度も言うが、決して俺はかわいそうな子ではない。

いや、ある意味可哀想ではあるが、それは運命や人生という類についてであり、少なくとも脳の機能的な部分や遺伝的素養として可哀想なわけではない。

とにかく、前提として前世があり、俺はそれを覚えているということを頭にとどめておいてほしい。

そうしないと話が進まない。

さて、俺はその前世で『地球』という星の『日本』という国で平凡に暮らしていた。

その平凡な俺が平和な国の中で17年というあまりに短い人生の幕を閉じた理由については質問をうけつけない。

とにかく俺は死んだ。

なんともまあくだらない死に方だと自分でも思う。

人生も人生だから仕方がないと言えばそれまでだが、死にざまくらいもっとどうにかならないものかね。

さて、ここで問題が生じた。

つまり、時期が悪かった。

その時、死後の世界では大混乱が起きていた。

その時とはつまり俺が三途の河を渡りきり、河を越えた場所にある真っ白な建築物の中に入ったころだ。

慌ただしく行きかう鬼たち、パニックに陥る人間たち。

役所のような作りをした建物のドアを開け、真っ先に目に入ったのがそれだった。

何かあったのかと疑問に思ったがとりあえず受付へと向かう。

番号札と人生史の書かれた分厚い書類を渡され、長椅子で一人番号を呼ばれるのを待っていた。

怒号と悲鳴の入り混じる中、意外と早く番号を呼ばれた俺は三階の奥の部屋へと入るよう指示された。

そこで何度か書類の確認をされ、面接のようなものを行った。

その中で男は生まれ変わりという概念について説明をした。

正直あまりもの覚えの良くないため詳しいことは忘れたが、基本的に同じ世界で魂はめぐること、前世の行いが来世に影響すること、そして生まれ変わると魂の記憶はリセットされることなどを言われた。

そして、最後に手渡された書類にサインをして終わるはずだった。

その部屋に混乱の原因が入ってくるまでは。


「うるさい!俺はもう死ぬんだ!」


 死後の世界で何を言うかというつっこみどころ満載の台詞をわめきながら、扉は開かれた。

そこには刃物を持った人間が立っていた。

その向こうには説得しようとする他の鬼たちと野次馬と化した人間たちがいた。

俺と部屋の中にいた男も突然のことに驚き、固まってしまう。

静寂の満ちた部屋の中は一気に喧噪で溢れ、書類どころではなくなってしまった。

とにかく俺は騒ぎに巻き込まれないよう手元もろくに見ず、さっさといくつかの空欄にサインを記入し、面接をした男に手渡した。

そして部屋の隅に移動し、野次馬たちの中にうまく入り込むことに成功した。

だが、面接官は俺のような事なかれ主義ではないらしく、逃げることもせず、男に立ち向かった。

まったく、正義感の強いことで。

そんなわけで事態は急速に鎮まることとなるわけだが、男と面接官の格闘の末、俺の書類は見るも無残なものとなった。

最悪である。

しかも、かえのきかないものと言われれば、俺の気分はどん底まで落ちる。

それでもなんとか生まれ変わることができたのだから、鬼たちの手腕には感謝し尽せないものがあるね。

多少の間違いが生じなければ。

記憶の保持と異世界転生、そして性転換。

そんなわけで俺は生まれ変わってすぐに泣いた。赤ん坊だからという理由ではなく。

そこから俺の新しい人生は狂い始めるわけだ。

前世の記憶の残る俺は隠しきれない年齢不相応な頭の良さで、わけのわからない国内で一番と名高い軍事学校に無理矢理入学させられた。

その上、妙な能力まで芽生えていた俺は転校も退学も許されず、将来的にも国に利用されるだけ利用されることは請け合いであった。

更に下手に記憶が残っていたため、体が女として変化していく度に発狂しそうになり、精神的にも不安定になる始末。

家族からは金と権力と引き換えに国に売られてしまい、昼夜問わず軍事と学問に明け暮れ、休む暇もないという不幸。

俺が世界爆発しろと思うのも当然のことだろう。


「おーい、佐藤ぉー」


 扉が壊される勢いで叩かれ、あわてて体を起こす。

疲れていた重たい体を引きずるようにして玄関の扉に近づき、鍵を開ける。

そこにいた少女を見て、俺は後悔した。

髪をとかして顔洗ってから出ればよかった。


「え、えだちゃん、どうしたの?珍しいね。俺に会いに来るなんて」


 急いで髪を手でとかす。

154という小柄な身長、華奢な体型、ぷるぷると潤うピンクな唇、雪のように白く滑らかな肌、気の強い性格を表すような少しつりあがった眼尻、最高級な美少女だ。

貧乳好きな俺が惚れこんでいる少女である。


「金ないから、食堂で飯おごれ」

「うん!ちょっと待って、お金持ってくるから!」


 なんか彼女に甘えられてる彼氏みたいなんて想像して、グフフという笑いが口からこぼれる。

そして次の瞬間ふと部屋の隅に置かれた鏡が目に入り、絶望した。

ちくしょう!世界消滅しろ!えだちゃんと俺を残して!


本文に入らなかったおまけ:

「…えだちゃんって、同性愛とかどう思う?」

「はーぁ?何。なんでそんなこと聞くの。気持ち悪い。まさかお前…」

「いやいや、違うよ。俺は全然そんなんじゃないから。たださ、もしもだよ、もし世界が滅んでえだちゃんと俺だけになったとしたらさ、どう?」

「どうって何が。どんなことになろうとそんなもしもはありえねぇ。佐藤と二人っきりになった時点で死ぬ」

「死ぬほど俺を愛するって意味?」

「やっぱりお前が死ね」

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