プロローグ
静寂に包まれたライブハウス。
そのステージに座り込む三人の影。
彼らはがらんどうの客席を茫洋と見渡し、あるいは他の二人をその視界に映し、あるいはどちらにも目も向けずにそこに在った。
沈黙。
遠くでスタッフが機材を片付ける音がする。
「……カナタ。お前、今日少し歌い方違ったね」
無言。
「具体的には…3曲目。いつもより大人しかった」
無言。
まるで理解されることを拒むように、襟足を深紅に染めた青年は沈黙を保つ。
白銀の髪の青年はそれを是として、淡々と彼なりの分析を語る。
「……それに今日はノイズ控えめだった。心境の変化…じゃないよね」
「……うるせぇな」
ライトを飲み込む黒い世界に少し荒っぽいため息が零れた。
「…フロアが静かだったから、少し抜いた。それだけだ」
やや荒っぽい口調。
「はは、そっか」
……沈黙。
「……でも、綺麗だった」
肯定の言葉の主は、それまで喋らなかった長髪の青年。
「………」
カナタと呼ばれた青年は長髪を一瞥してすぐ視線を逸らす。
「ハルカに言われると腹立つ」
「…なんで?」
「分かってて言ってるのが伝わってくるんだよ」
ハルカと呼ばれた長髪が少し笑う。
「…けどさ、実際今日のカナタちょっと危うかった」
「……ユズリハ、それお前毎回言ってる」
「だって毎回壊れそうだから」
カナタとユズリハの応酬が止まる。
ハルカがペットボトルの水を飲む気配。
「……けど、まあ」
カナタの、ほんの少しだけ棘の和らいだ声。
「…今日のお前らの音、嫌いじゃなかった」
その一言にハルカとユズリハがカナタを見る。
「…何だよ」
「…いや、珍しく素直だと思って」
「うるせぇ」
「いつまで続くかな」
「今だけだ」
「明日くらいまで?」
「撤回すんぞ」
その言葉に小さく吹き出すハルカ。
じろりとカナタがその横顔に目を向ける。
「……ハルカの笑いのツボが分からないのって俺だけか?」
「…ごめん、だって……小気味よさが」
「ああ、気持ちはちょっと分かる」
「ユズリハは共感してんじゃねぇよ」
短い掛け合いの相手だったユズリハを呆れ顔で見遣るカナタ。
一足先に立ち上がる。
「……撤収すんぞ」
そう声をかけるカナタ。
つられたように立ち上がるハルカとユズリハ。
「今日コンビニ行く?」
「行く」
「…肉まんまだあるかな」
「知るか」
ユズリハとハルカにそれぞれ返事を返すカナタ。
三人、つかず離れず舞台袖へと歩き出した。




