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異世界ビール物語  作者: 麦汁酵生


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1/3

第一話 山に落ちた醸造師と、最初のラガー

始めて投稿するので誤字脱字はご容赦ください。しばらくは1日1話で更新していきたいと思います。

ビールを片手に四で頂けると嬉しいです。

大麦おおばく かもすは、湯気と麦芽の香りに包まれて生きてきた男だった。

 三十五歳。独身。実家もなく、呼べるほど親しい友人も多くはない。小さな町工場のようなクラフトビール醸造所で、仕込み、発酵管理、瓶詰め、清掃、出荷まで一通りをこなす毎日。華やかな仕事ではない。だが、彼はその地味さを嫌いではなかった。むしろ好きだった。麦を砕く音も、糖化槽をかき混ぜる重みも、ホップを入れた瞬間に立ちのぼる青く鋭い香りも、酵母が発酵しているタンクのかすかな息遣いも、すべてが愛おしかった。

 誰かに必要とされることは少なくても、ビールは嘘をつかない。

 丁寧に造れば、丁寧な味になる。手を抜けば、ちゃんと濁る。

 それだけは、醸にとって救いだった。

 事故が起きたのは、冬の終わりの仕込みの日だった。ラガー用の麦汁を仕込み終え、冷却器の点検をしていたとき、老朽化した足場が不意にきしみ、崩れた。咄嗟に手を伸ばしたが届かない。視界が傾き、ステンレスの配管と白い天井がぐるりと回った。

 最後に感じたのは、冷たい床の硬さではなく、不思議なほど強い麦の香りだった。

 ――ああ、もったいないな。

 せっかくいい仕込みだったのに。

 そんな、職人らしいのか間抜けなのかわからない感想を最後に、彼の意識は暗闇へと沈んだ。

     

 次に目を開けたとき、そこにあったのは、見慣れた醸造タンクでも病院の白い天井でもなかった。

 青かった。

 どこまでも高い空が、青かった。

「……は?」

 醸は仰向けのまま、まばたきを繰り返した。耳に届くのは風の音。近くで沢が流れる音。土と草の匂い。頬に触れるのは、ひんやりとした山の空気。

 体を起こす。途端に、背中に張りついていた草がざわりとこすれた。

「ここ……どこだ……?」

 見渡す限り、山だった。急峻な斜面に針葉樹が並び、その合間に白い岩肌が覗いている。遠くには雪を戴いた峰。手前には野花の群生。人工物らしいものは何ひとつない。

 頭を打ったのかと考えたが、痛みはない。むしろ、驚くほど体が軽い。事故前まで慢性的に重かった肩も、立ち仕事でこわばっていた腰も、妙に楽だった。

 醸は立ち上がり、ポケットを探った。スマホはない。財布もない。作業着ではなく、見たこともない麻と革でできた簡素な衣服を着ている。足元は丈夫な革靴だ。

「……夢じゃ、ないよな」

 呟いた瞬間、茂みの向こうで何かが吠えた。

 低く、獣じみた声。

 醸は反射的に振り返る。藪を割って現れたのは、狼に似た生き物だった。だが普通の狼ではない。肩の高さが醸の胸ほどもあり、毛は灰色ではなく岩のような黒。額の中央には短い角が一本生えている。唇の隙間からのぞく牙は、包丁より長く見えた。

「おいおいおい……!」

 逃げようとした瞬間、足がもつれて転ぶ。斜面の小石が滑ったのだ。情けない声を上げる間もなく、角狼は飛びかかってきた。

 死ぬ。今度こそ。

 そう思ったそのとき、

「伏せろッ!」

 鋭い女の声が山に響いた。

 次の瞬間、銀色の閃光が横薙ぎに走った。角狼の体が宙でひねられ、血しぶきとともに地面へ叩きつけられる。間髪入れずに炎の矢が三本、一直線に飛来し、獣の肩と腹と喉元に突き刺さった。

 轟、と火が上がる。

 角狼は苦悶のうなりを漏らしながらなお立ち上がろうとしたが、最後は首筋に深く突き立てられた剣によって、完全に動きを止めた。

「……大丈夫?」

 息を切らせながら現れたのは、赤茶の髪を後ろで束ねた若い女剣士だった。革鎧の上からマントを羽織り、片手剣を握っている。年は二十代半ばほど。目つきは鋭いが、声には気遣いがあった。

 その背後には、杖を持った小柄な少女がいた。白金色の髪に、青いローブ。こちらはまだ十代のように見える。

「え、あ、はい……たぶん」

「たぶんじゃ困る。噛まれてない?」

「いや、なんとか」

「よかった……。でもこんな山の中で丸腰って、正気じゃないよ」

 女剣士は呆れたように息を吐いた。

「私はレティシア。後ろにいるのがミーナ。山道の巡回依頼で来ていたの。あなたは?」

「……大麦、醸です」

「オーバク……?」

「あー、呼びにくければカモスで」

「カモスね」

 レティシアは頷いたが、怪訝そうな顔を崩さない。

「このあたりの人間じゃないわね。身なりも妙だし」

「それは……」

 異世界転生です、などと口にして信じてもらえるだろうか。醸が言葉を選びかねていると、ミーナが杖の先でちょんと地面を叩いた。

「レティ、血」

「え?」

「この人、腕」

 言われて醸は初めて、自分の左前腕に浅い裂傷があることに気づいた。転んだとき岩で切ったのだろう。痛みはたいしたことがないが、じわじわと血がにじんでいる。

「この程度なら治癒魔法で――」

「ミーナ、魔力残量は?」

「さっきのでかなり使った。村まで保たせたいなら節約したい」

 レティシアが苦い顔をする。どうやら先ほどの炎の矢は彼女ではなくミーナの魔法だったらしい。

 醸は傷を押さえながら、ふと鼻をひくつかせた。

 香りがした。

 風に混じる森の匂いでも、血の匂いでもない。もっと乾いて、甘く、そして芯のある香り。麦芽に似ている。いや、似ているどころではない。醸造所の仕込み室で、粉砕したての麦を両手で掬ったときの、あの香りだ。

 彼は吸い寄せられるように周囲を見回した。そして斜面の一角、岩陰に群れて生えている背の高い穂を見つけた。

「……麦?」

 金色に近い淡い色の穂。だが普通の大麦より粒が大きく、うっすらと光を帯びている。まるで朝露そのものが実になったような、不思議な輝きだった。

 醸はふらふらと近づき、一穂を摘み取る。指先で揉むと、殻の内側から現れた粒は、確かに麦だった。ただし、彼の知るどの品種よりも香りが強い。

「神様の麦……?」

 レティシアが目を見開いた。

「知ってるの?」

「いや、今初めて見た。でも……」

「でも?」

「これ、ビールになる」

 沈黙。

 山風がびゅうと吹き抜けた。

 レティシアが真顔で言う。

「カモス。助けた命の恩人として忠告するけど、今は頭を打ってる場合じゃない」

「いや打ってないです。本気です」

「その草で?」

「草じゃなくて麦です」

「違いがわからない、ただの草じゃない」

「世界が違ってもそこは譲れない」

 醸は思わず強く言い返していた。するとミーナが、こてんと首を傾げた。

「びーるって、なに?」

「麦を発酵させて造る酒だよ」

「お酒?」

「うん。でもただ酔うためだけのものじゃない。ちゃんと造れば、人を元気にする」

「怪しい薬売りみたい」

「否定できないな……」

 自分でもそう思い、醸は苦笑した。

 だが、胸の奥では確信が芽生えていた。この麦はただの麦ではない。香り、粒の張り、表面に宿る微かな熱。素材としての力が、異様なほど強い。

 醸造師として長年鍛えられた感覚が、鐘のように鳴っていた。

 ――これで仕込め。

 ――これなら、できる。

 レティシアはしばらく考え込んだのち、ため息をついた。

「とにかく、このまま山に置いていくわけにもいかない。村まで来なさい。事情はそこで聞く」

「助かります」

「その代わり、変なことしたら縛るから」

「普通のサラリーマンに言う台詞じゃないな」

「さらりーまん?」

「なんでもないです」

     

 山裾の小村グランエッジは、十数軒の石造りの家と、木柵に囲まれた畑、それから小さな鍛冶小屋を持つだけの素朴な村だった。村の背後には深い森が迫り、前には清流が流れている。剣と魔法の世界、という言葉をそのまま形にしたような風景に、醸は歩きながら何度も目を見張った。

 村人たちは見慣れない醸に警戒したが、レティシアの説明でひとまず納得したらしい。もっとも、「山で拾った」「草を見てビールと言い出した男」という紹介は、納得というより困惑を招いていた気もする。

 醸は村の空き小屋をひとつ借りることになった。壁は粗い木板、屋根は藁葺き。だが雨風はしのげるし、裏手には清水を引いた桶まである。何より、部屋の片隅に古い銅鍋が置いてあった。

 村の共同炊事場で使われなくなった大鍋だという。

 醸の目が変わった。

「これ、借りていいですか」

「鍋を見てそんな顔する人、初めて見たわ」

 レティシアが半歩引きながら言う。

「それと、できれば木桶と布、それから火に強い石釜……いや、簡易炉でもいい。あと麦を砕く道具、縄、広めの板、できれば発酵容器」

「待って、増えた」

「発酵がいるんです」

「知らない単語が増えた」

「大丈夫です、説明します。たぶん」

「たぶんって言ったわね今」

 村長は最初難色を示したが、角狼の素材の処理を手伝う代わりに道具の貸与を認めてくれた。醸は礼を言い、その日のうちに神麦の採取に出た。レティシアが護衛につき、ミーナも興味津々でついてくる。

 山道を登りながら、醸は穂を見極めて刈り取っていく。熟しすぎたものは外し、粒の詰まったものだけを選ぶ。指で軽くしごくたび、金色の粒が掌に落ち、陽光を受けてほのかに輝いた。

「そんなに選り好みするものなの?」

「する。原料は誤魔化せない」

「魔法より面倒ね」

「魔法より面倒だけど、うまくいった時はたぶん同じくらい感動する」

 そう答えたとき、醸は自分でも驚くほど自然に笑っていた。

 事故の前、自分はこんな顔をしていただろうか。

 仕事は好きだった。けれど、生活は好きになりきれなかった。誰のためでもなく、ただタンクの前で歳を取っていく感覚。帰っても暗い部屋。コンビニ弁当。眠って、起きて、また働く。

 だが今、山の風は冷たく、空は広く、手の中の麦は未知の光を宿している。

 生きている、と強く思えた。

     

 仕込みは翌朝から始まった。

 まず神麦を天日で軽く乾かし、村から借りた石臼で粗く砕く。殻を活かしつつ中身を割るのが理想だが、道具が違う以上、完全にはいかない。それでも、砕いた途端に立ちのぼる香りは圧倒的だった。蜂蜜のような甘さに、青草の清さが混じる。

「すごい匂い……」

 ミーナが目を丸くする。

「だろ」

「まだお酒じゃないよね?」

「まだ麦だよ。でも、この段階でいい香りのものは強い」

「強い?」

「飲み物として」

 醸は大鍋に水を張り、温度を確かめながら砕いた神麦を入れる。本来なら温度管理はもっと厳密にしたい。だが温度計はない。手と目と経験だけが頼りだ。

 ゆっくりとかき混ぜる。糖化。デンプンを糖に変える、大事な工程だ。

 鍋の中身は次第にとろみを帯び、香りは柔らかく変化していく。焼きたてのパンにも似た甘い匂いが小屋中に満ち、外で見ていた村人たちまでそわそわし始めた。

「なんか、腹減ってきた」

「それ、成功の兆候です」

 醸はどこか誇らしげに言った。

 濾して麦汁を取り出し、煮沸する。普通ならホップが必要だ。だがこの世界にホップがあるかもわからない。仕方なく、今回は神麦の持つわずかな野性味だけで組み立てることにした。あくまで最初の試験醸造。狙うのは複雑さより、素直さと清らかさ――つまり、彼にとっての“基本のラガー”だった。

「これで本当にできるの?」

 レティシアが腕を組む。

「酵母がいれば」

「こうぼ?」

「発酵させる小さな働き手みたいなものです」

「見えないの?」

「見えない」

「じゃあ魔法と変わらないじゃない」

「……確かに」

 醸は苦笑しつつ、冷ました麦汁を木桶に移した。問題は酵母だ。市販酵母も純粋培養もないこの世界で、自然に存在する微生物に頼るしかない。

 だが、神麦の穂をよく観察したとき、表面にほのかな白い粉のようなものが付いていた。野生酵母。あるいは、この世界特有の何かか。

 賭けだった。

 醸は選り分けた穂を少量だけ麦汁に浸し、祈るような気持ちで桶に蓋をした。

 その夜、彼はほとんど眠れなかった。

 桶の中で何が起きているのか。腐敗か、発酵か。もし失敗すれば、ただの怪しい男で終わる。けれど成功すれば、ここで生きていけるかもしれない。

 朝日が昇る前に起きて、小屋へ駆け込む。

 耳を澄ませる。

 かすかに、ぷく、ぷく、と音がした。

「……っ!」

 醸は思わず息を呑んだ。

 蓋をわずかに開ける。中から立ち上る香りは、昨日までの甘い麦汁とは違う。青い果実のような発酵香。その下に、整った麦の芯がある。

 生きている。

 酵母が、生きている。

「できる……!」

 誰に聞かせるでもなく叫んだ声に、外からミーナが飛び込んできた。

「なに、爆発!?」

「いや、発酵!」

「似てるようで全然わかんない!」

 結局、村人たちまで集まってくる騒ぎになった。醸は説明し、待ち、香りを確かめ、また待った。数日の発酵を経て、簡易的に澱を沈め、さらに冷たい沢水に桶ごと浸して落ち着かせる。

 本来のラガーほど低温で長くは熟成できない。だがこの世界の神麦は、常識を少し飛び越えていた。液体は驚くほど早く澄み、金色の輝きを増していった。

 そして七日目の夕方。

 醸は木のカップに、その液体を注いだ。

 泡は粗い。透明度も完璧ではない。設備不足を思えば、出来栄えは七十点。それでも、夕陽を受けたその色は、確かにビールだった。

「これが……びーる」

 ミーナがごくりと喉を鳴らす。

「酒なんでしょう? 村で飲ませて大丈夫なの?」

 レティシアはまだ半信半疑だ。

 醸は一度目を閉じ、香りを取った。麦の甘み、ほのかな草のような清涼感、野生酵母由来と思われる微かな果実香。口に含む。軽い。だが薄いわけではない。清らかな飲み口の奥に、神麦そのものの生命力が流れている。

 ――うまい。

 素朴で、未完成で、けれど確かに、世界で最初の一杯だった。

「レティシア」

「なによ」

「腕、出して」

「は?」

「こないだの戦いで切ってただろ。浅いけど」

 レティシアは顔をしかめたが、左手首のあたりを差し出した。確かに薄く傷が残っている。

「これを飲んでみて」

「実験台?」

「まあ、そうとも言う」

「正直ね……」

 周囲の視線が集まる中、レティシアは覚悟を決めたようにカップを受け取り、ひと口飲んだ。

「……え」

 彼女の目が見開かれる。

「なにこれ、冷たい。山水みたいなのに、もっと……すっと入る」

「傷は?」

「え?」

 レティシアは自分の手首を見た。

 薄い切り傷が、見る間に淡い金の光を帯び、じわりと塞がっていく。新しい皮膚が下から生まれるように、みるみる傷痕が薄れていった。

 しん、と小屋が静まり返る。

「……治った」

 レティシアが呆然と呟く。

「ほんとに?」

 ミーナが覗き込む。

「治ってる。痛みもない」

 次の瞬間、村人たちがどっとざわめいた。

「治癒薬だ!」

「いや、酒だろ!?」

「酒で傷が治るわけが」

「でも今、見ただろ!?」

 ミーナが目を輝かせた。

「ねえ、魔力切れにも効く?」

「それはまた別の造り方が要る気がする」

「造れるの?」

「たぶん」

 醸は答えながら、手の中のカップを見つめた。

 ラガー。

 彼の世界では、最も広く親しまれ、最も基本とされるビールのひとつ。それがこの世界では、疲労や傷を癒やす“回復薬”になった。

 ならば、エールなら。ホップやスパイスを使えば。小麦を混ぜれば。燻せば。長く熟成させれば。

 ビールの数だけ、奇跡があるのではないか。

 村長がふらつく足取りで一歩前に出る。

「カモス殿」

「はい」

「これは、あんたが造ったのか」

「造りました」

「もう一度、造れるか」

「原料と道具があれば」

「なら、うちの村を救ってくれ」

 年老いた村長は、深く頭を下げた。

「この山は魔物が多い。薬は高い。怪我人が出るたび、町まで何日も運ばねばならん。あんたの酒が本物なら、何人もの命が助かる」

 醸は言葉を失った。

 前の世界で、彼のビールは“美味しいですね”と言われることはあっても、それ以上の意味を持つことは少なかった。もちろん、それで十分だった。十分なはずだった。

 けれど今、自分の造った一杯が、誰かの命を救うと言われている。

 胸の奥が熱くなる。

「……わかりました」

 醸は静かに答えた。

「俺、造ります」

「おお……!」

「ただし、適当にじゃない。ちゃんと設備を整えて、原料を選んで、もっと安定して造れるようにする。そうしないと続かない」

「それはもちろん」

「あと」

「あと?」

「できれば、ちゃんと味にもこだわりたい」

 一瞬の沈黙のあと、レティシアが吹き出した。

「命を救う酒に必要かそれ?」

「大事だろ」

「……まあ、飲んでわかったわ。たしかに大事ね」

 ミーナが元気よく手を挙げる。

「わたし、飲む係やる!」

「それは誰でもやりたがるだろうな」

 笑いが広がった。

 小さな村の小さな小屋で、金色の液体が夕陽を映して輝く。

 大麦 醸は、その光を見つめながら思った。

 自分は死んだはずだった。何も残せず終わるはずだった。

 だが、もしこの世界がもう一度やり直す機会をくれたのなら――今度こそ、ただ生きるだけじゃない人生にしたい。

 ビールで、人を救う。

 ビールで、居場所を作る。

 ビールで、この異世界に自分の名を刻む。

 その始まりは、山の神麦から造った、素朴な一杯のラガーだった。

 まだ誰も知らない。

 この無名の醸造師が、やがて王国中で“ビール薬師”と呼ばれることを。

 そして、その奇跡の酒を巡って、数多の欲望と陰謀が渦巻くことを。

 けれど今はまだ、第一歩でいい。

 木のカップを掲げ、醸は小さく笑った。

「乾杯だ」

 異世界の風が、小屋の窓を抜けていった。

 麦の香りを運びながら。


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