第2話 異世界
目を覚ますと、俺は知らない場所にいた。
岩のような壁に囲まれた空間で天井からは松明のようなものが揺らめく炎を灯し、空気はほんのり硫黄くさい。
正面には、やけに立派な椅子——いや、玉座みたいなものがあり、誰かがそこに座っていた。
その隣には、スーツを着た老人のような人物が控えている。
「ヘル様、目覚めたようです」
老人が落ち着いた声でそう言うと、椅子が「キィーッ」と音を立ててゆっくり回転する。
「起きたか!」
玉座にいたのは、見覚えのあるちっこい少女——ヘルだった。
ぴょんと跳ねるように俺のところへ走ってきて、満面の笑みを浮かべる。
「ヘル、ここって、どこだよ」
「言うたじゃろ? 妾の家じゃ!」
得意げに小さな胸を張るが、相変わらず服はあの時のままだ。
つーか、ここ家って言えるのか?
天井は高く、壁は黒曜石みたいに光ってる。雰囲気はラノベで見た魔王城の玉座の間そのものだった。
息を飲む俺の前でヘルは笑う。
「まあ、すぐ慣れるよ。イヴ、説明してあげて」
「承知致しましたヘル様」
そういったスーツ姿の老人は色々と話し始めた。
ざっと言うと、ここはある火山の地下でヘルが住んでいる場所らしい。とても入りにくい場所で沢山の人々がヘルに会うために挑戦してきたがたどり着けた人は一人もいない。人々はこれをダンジョン、と呼ぶ。
「ちょっとまってくれ、じゃあヘルはダンジョンのボスってことか?!」
「結果的にはそうなります」
おぉ、すごい。あんなこと言っていたこの小さい女の子がダンジョンのボスか。先程の魔術といい、本当に異世界に来たのだろう。
「うわ、まじで異世界じゃん……」
俺は自分の手を見つめ、床を触った。ツルツルしていたがうっすら魔法陣みたいなものも見えたような気がする。
俺の脳が現実だと叫んでいた。
しかも空気が少し熱い。
っていうかダンジョンのボスなんて言う立派な人がなんで俺をこっちに連れてきたんだよ。
「ていうかヘル、なんで俺がここに来たんだ?」
そう言うとヘルは目を細めて話し始める。
「ハルキ、妾は3000年とちょっと生きてきたんじゃ。だけど友達がおらん、なぜだと思う?」
なぜっていわれてもわからねえよ。
「妾が強すぎるからじゃ」
強すぎる、ヘルの口から出た言葉に俺は驚いた。
たしかにさっきの魔術はやばかったけどこいつそんなに強いのか。
「それに、ハルキを選んだのには理由があるのじゃ。この世界においてハルキは異なる世界から来た、ということはハルキはこの世界の異物な訳じゃ」
やっと理解した。ヘルは強すぎるからこの世界の異物、俺も転生してきた訳だからこの世界の異物。異物同士仲良くしようって訳か。
「それはいいんだけどさ、ヘル。俺魔術とか使えないよ?」
その言葉にヘルの顔は明るくなる。
「妾が教えてやる!!」
「じゃあ俺、魔術使えるようになるってことか」
「その通りじゃ、嬉しいか?!」
どっちかと言われたら嬉しいけど……
これからどうなるんだよ。
その様子をみて執事のイヴは奥の方で微笑んでいた。