第1話 魔王ヘル
「お、男じゃ!」
ハルキと目があった瞬間声の主は叫んだ。
隠すべきところだけ隠したようなファッションの女の子がそこには立っている。
なんか思ってたんと違う……
こういうのって相場jkとかじゃねえのかよ、これじゃ幼女だぞ。
それになんだよこの服、ほぼ素っ裸だぞこいつ。まあエロいけども……。
そうしてハルキはバレないようにしれーっと背中を向けて逃げ始める。
しかし声の主は許してくれない。
「ちょ、おい!逃げるな男!」
そう言って猛スピードで走ってきた彼女はハルキの首根っこを掴んだ。
「イタ!てか誰だよお前」
すると彼女はハルキに対し顔を近づけ、ニヤリと笑う。
「魔王、じゃ」
え、?聞き間違いですか?今「魔王じゃ」って言いましたよね?
このちっちゃい女の子が魔王なわけない。そもそも魔王なんてラノベだけだろ。
「で、本当はなんなんだ」
「お前、妾のいうことを信じないのか」
自称魔王は驚いたそぶりを見せはなし続ける。
「お前は名前なんだ」
「ハルキ、だよ。お前も名前なんだよ!」
「そういえば言ってなかったか。ヘルじゃ」
いかにも魔王みたいな名前だな。服装も相まって本物の魔王に見えてくるわ……
「じゃあヘル、魔王っぽいことしてくれよ」
そういうとヘルは嫌がる顔をして手のひらを広げた。
「生意気な男じゃのう、一回だけじゃぞ」
その瞬間ヘルの手のひらは白っぽく光り始めた。
「なんだ、これ」
「今回は特別に詠唱もしてやるからな。目かっぴらいて見とくんじゃぞ」
詠唱?一気に魔王っぽくなってきた。
「光の名の下に、偽りを絶て。神よ、我に雷槍を与えその敵を穿て!」
そう叫ぶとヘルの手のひららへんに光が集まり、大きな槍の形となった。
すると、その瞬間その槍は手から見えないようなスピードで放たれ遠くの山にぶつかって煙が上がる。遅れて、凄まじい音と風がやってきた。
「すげえ」
こんなの見たことねえ。もしかすると、いや絶対こいつは本物の魔王だ。
「ヘル、もしかしてお前」
「だから、妾は魔王じゃ!」
そう言ってヘルは笑う。
「ハルキ、妾と一緒に暮らさんか」
ん?もしかしてこれって告白?!
魔王からの告白とか人類で俺だけじゃないのか。
ここで断ればよかったのだが、失恋した直後で、こんなにエロい格好で、あんなにすごい魔術を見せられて、断る余地はなかった。
「受けて立とうじゃねえかヘル」
俺の口から自然に出た言葉はヘルを喜ばせた様だった。
「本当か!!じゃあそうと決まったら戻るぞ!」
戻る?何を言ってんだヘルは。このまま山奥とかに行って二人で暮らすとかじゃないのか。
「戻るって何処にだよ」
「妾から見たら家じゃけどな……ハルキから見たらな、異世界とでも言っておこうか」
異世界。なろう系とかでよくあるあの世界のことか?っていうか転生とかって本当に存在したのか。
「まあ、詳しいことは戻ってから話してやろう。じゃあ行くぞ」
そういうと、ヘルは俺に抱きついてきた。
何するんだよこいつ。
「しっかり捕まっておくんじゃぞ」
その瞬間ヘルが現れた時のような光が俺たちの周りを覆い始めた。
「お、おい!何するんだよ!」
「だから、家に戻るんじゃ」
そう言うと集まっていた光が外の光景を消すほどになった。
そしてそれを見た直後俺は意識を失った。