表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/82

番外編28 王子の反省と愛しきご機嫌取り


——シリウス視点


 


……なるほど。



貴族令嬢と一曲踊っただけで、

「一週間寝室別」を宣言されるとは。



私はまだまだ、夫として未熟なのかもしれない。


 


いや、確かにあの令嬢のドレスは……

ちょっと生地の少ない仕様だったし、発言も妙に艶めかしかったが。



あくまで礼儀だったのだ。

純然たる外交的行為。

そう、ダンスは国交。ステップは友好。


 


しかし、エステル様は


「では、今週は寝室を別にしましょう」


と、微笑んだまま言い放った。


 



あのときの衝撃は、雷に打たれたようだった。


というか、本当に心臓が止まるかと思った。


 



 


その後の数日間。


エステル様はいつも通りお優しく、穏やかに接してくださった。



ただ、夜だけが、完全に閉ざされた。


私の部屋に戻った夜、あのベッドの広さがこれほど空虚に感じられるとは思わなかった。


どれほど高級なマットレスも、彼女の温もりがなければただの空気である。


 



 


そんなある日、私はサラ嬢が侍女仲間に言いふらしているのを耳にしてしまった。


 


「エステル様のヤキモチ、超可愛くない!? っていうか、殿下、割と本気でしょげてるのウケる〜〜〜!!」


 


……ええ。しょげてますとも。


寝室、ひとりですからね。


 



 


反省した私は、改めて謝罪を試みた。



庭園で二人きりになれた隙に、意を決して。


 


「エステル様、もし……僕が不注意な振る舞いでご不快にさせてしまったのなら、心よりお詫び申し上げます」


 


すると彼女は、そっと目を伏せて――


 


「……少しだけ、寂しかったんです」


 


……その一言で、胸が締め付けられた。



(なんてことを……! 可愛い……いや、違う、傷つけてしまったのだ)


 


「では、今夜からは、またご一緒に」


「……はい」


 


その夜の手つなぎ就寝は、記念すべき幸福の瞬間となった。


 



 


——で。



後日談、である。


 


数日後、エステル様がぽつりと。



「……殿下は、あの令嬢のドレスを、どう思われましたか?」


 


(な、なぜ今その話を……!? 罠か!? 罠なのか!?)


 


「……ええと、少し布地が……風通しが良すぎる印象でした。エステル様の方が、ずっと品があり……というか、」


「ふふ、ありがとうございます。……その、少し、気になってしまっただけなんです」


 


(気にしてくださっていたのか……! なんと愛らしい)


 



 


それからの私は、


・毎日紅茶に好きな砂糖の量を調整

・お気に入りの本を枕元に用意

・抱き枕(=自分)が必要なときに即対応



と、全力で“ご機嫌取り”に勤しんでいる。


 


その甲斐あってか、


「……殿下、今夜は抱き枕になってもいいですよ」


などという最高の許可を頂けるようになった。


 



 


なお、先日サラが勝手に作った王宮内の掲示板に、


【祝・殿下寝室復帰!ヤキモチ大作戦成功記念】



という張り紙がされていたので、外しておいた。



(……いや、本当にやめてください)


 



 


そんな彼女を、毎晩そっと腕に抱いて眠れる日々が戻ってきた今。


私は世界一幸福な男であると、心からそう思っている。


……そして二度と、他の令嬢と踊る際は、全方位に注意することを誓う。


 


(背中にも目を付けたい)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ