表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/82

番外編26 王子妃殿下の嫉妬 前編


——マーク視点


 



これは、大変なことになった。



いや、王宮警備において、政敵の襲撃とか内通者発見とか、そういう”大変”は今までにもあった。




だが今回の”大変”は――



「我らが王子妃殿下ことエステル様が、ご立腹である」


というものである。


しかも、その怒りの矛先は……


 


「シリウス様」


 


……である。


 


(殿下……いったい、何を……)


 



この仕事を長くやってきた私だが、今ほど”立ち入れない”空気というものを肌で感じたことはない。



王子妃殿下は、いつも穏やかで慎ましく、優雅で聡明。


怒るような方ではない。

いや、少なくとも、表に出すような方ではないはずなのだ。


だというのに。


 



「……この一週間、寝室は別にいたしましょう」


 


この宣言がなされた瞬間、私は思わず警備の配置表を落としそうになった。


 


「…………」




そのときのシリウス様の沈黙といったら。

まるで雷に打たれた貴族の肖像画のように、固まっておられた。


 



……そして現在。



王子殿下は、静かに書斎に籠り、ロマンティックなため息を三十分に一回のペースで漏らしている。


王子妃殿下は、侍女のサラ嬢とミシェル嬢を従えて、庭園を「ふんわり笑顔」で闊歩しておられる。


 


このままでは、王宮が“昼は氷点、夜は零下”である。


 


———


 


事の発端は、どうやら「とある王宮の公式晩餐会」にあったらしい。


ある貴族令嬢(※毎回ドレスの露出度が話題になるタイプ)が、シリウス様に「ワルツを一曲お願いできますか?」と申し出たのだとか。


シリウス様は、公的な場でも常に礼儀正しく、丁重にそれを了承。



ところが、それを見ていたエステル様――


 



にこっ……(笑顔)


 



としながら、翌朝には「寝室謹慎宣言」をなさったのである。


 


(エステル様……お気持ちは、痛いほど理解できますが……!)


 


王宮中の侍女たちは、静かに沸いていた。



「エステル様、やきもち……!」

「新婚の正しいリアクションですわ……!」

「寝室が別だなんて、それはそれでロマンがありますわ……!」


 


サラなどは、



「マークさん!これは重大事件です!エステル様が、乙女の逆襲フェーズに入りましたよ!」



と、意味不明な戦術用語を使っていた。

やめてほしい。


 


———


 


夕方、ついに動いたのは――


 


シリウス様であった。


 


静かに、けれど真剣な眼差しで、私におっしゃった。



「マーク。庭園の巡回の際……少しだけ、エステル様と話す時間をもらえますか」


「はっ……かしこまりました」


 


(殿下……!ついに……!)


 


私はこの瞬間のために、これまでの全警備配置を見直した。




そして――


 


その夜。


私は庭園の木陰から、静かに見守る中で、


 


「……すみません。僕が配慮に欠けておりました」

「……でも、貴女の表情が曇るくらいなら、どんな礼も断ります」



と真摯に詫びるシリウス様の姿を見た。


 


(殿下……っ……!!)


 


エステル様はしばし黙し――やがて、頷かれた。


 


「……では、今夜からは……ご一緒に」


「……ありがとうございます」


 


私は、そっと拳を握った。


 


「よし、我が警護任務、完了であります……!」


 


———


 


翌朝、再びひとつ屋根の下に戻ったお二人のご様子は……



サラ曰く:


「今朝のエステル様、潤ってましたよ、潤ってました!!」


ミシェル嬢曰く:


「殿下、あれは昨夜、たぶん“頑張った”わね……」


 


どうかこの騒がしさと平穏が、永く続きますように。


 


 


——マークの平和と任務は、今日も尊く燃えている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ