番外編25 愛の指南を受けるいじらしい妻について
——シリウス視点
結婚して数日が経った。
日々の政務に追われる傍らで、愛しい妻との穏やかな新婚生活は、想像していたよりも……
……いささか“賑やか”である。
その一因は、もちろん我が妻の侍女であるサラ嬢の存在に他ならないのだが——
「殿下〜!今日のエステル様は一段と色っぽいですよ〜っ!」
などと朝から寝室の前で騒がれる日常には、さすがに慣れてきた。
———
その夜、彼女がそっと私の頬にキスをしてくれた。
その小さな仕草一つで、胸がいっぱいになった私は、思わず囁いた。
「……どうしよう。可愛すぎて、理性が持たないかも」
彼女は目を丸くして、あわてて布団に潜り込もうとしたが—
それでも、逃げるようでいて、私の手はきゅっと握ったままだった。
そして。
私は確かに気づいたのだ。
彼女が身に纏っていたのは、今まで見たことのないランジェリーだった。
薄紅のシルクに、繊細な刺繍。
あの控えめなエステルが、まるで花びらのように身を包んでいたのだから——
……正直、理性を保つのに相応の努力を要した。
耳まで染まるその様子は、どこか……とても、いじらしくて。
「……まさか、ジョセフィーヌ夫人に何か吹き込まれましたか?」
そう問いかけたとき、彼女は見事に毛布をかぶったまま硬直した。
図星、だったらしい。
———
エステル様は真面目で慎み深く、そして努力家だ。
私は彼女のその性質を、何よりも尊敬している。
だが、どうやら。
“愛される覚悟”については、まだ少しずつ——
学びの途中にあるらしい。
しかし、彼女は少しずつ
“愛されるだけ”の存在から、“愛し合う”存在へと、歩み出しているのだろう。
それは、まさに——
誰よりもいじらしく、誰よりも美しい変化である。
———
「殿下〜〜〜!例のランジェリー、どうでした!?やっぱり効きました!?!?」
「……サラ、私は一応、王子です」
「いやいやいや!エステル様の恥じらい顔、最高だったでしょう!?乙女心の詰まったあの一枚、殿下のためだけに選んだんですよ〜!」
「選んだのは……ジョセフィーヌ夫人だと伺っておりますが」
「それはそうなんですけどぉおおっ!!!」
……賑やかな声に、そっと溜め息をつく。
だが、その背後では、ランジェリーの箱を見つめながら顔を真っ赤に染めるエステルの姿。
そして、私に気づき慌てて物陰に隠れたが——
その手には、彼女がこっそり“自主練習”用に選んだらしい、やや攻めた下着が。
(……努力の方向性が、非常に可愛らしい)
私は、改めてこの結婚が幸福であることを実感していた。
彼女が“愛すること”を学びたいと願い、そして、私に愛されたいと願ってくれるなら。
その努力に、全力で応えることが、私の務めである。
「……エステル様。今夜も、少しだけお時間をいただけますか?」
そう声をかけると、小さく震える声が聞こえた。
「……す、少しだけです……よ……?」
——私は、世界で一番いじらしくて、努力家な奥さんを持ったらしい。
どうか、これから先も。
彼女が一歩ずつ“愛の指南”を進んでいけるように。
そのすべてを、抱きしめられる夫でありたいと思うのだった。
スピンオフ「氷の女王と風のような男」連載はじめました。




