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第四十三話 未来をともに(完)



ジークハルト様の衝撃的な発表から数週間が経ち、王宮の混乱は次第に落ち着きを見せ始めていた。


国王陛下が下した判断により、ジークハルト様は正式にフェルディナント王国へ向かうことが決まり、摂政王妃との婚姻について交渉を進めることとなった。



「兄上のことですから、きっと思うように話をまとめてくるでしょう」



シリウス様はそう言って微笑んだが、その瞳には兄を案じる気持ちが滲んでいた。



ジークハルト様がもし本当にイザベル摂政王妃と結婚し、フェルディナント王国へ婿入りすることになれば——


シリウス様が次期国王となる未来が現実味を帯びる。


シリウス様はそれを避けようとはしない。

けれど、自ら望んでいるわけでもない。



だからこそ——



(どんな未来が訪れようとも、私はシリウス様のそばにいたい)


そう強く思った。





ジークハルト様が旅立った日、王宮の空は澄み渡る青だった。



「じゃあな、シリウス、エステル」


「……どうかお気をつけて」


「うん、まぁ任せとけ」



ジークハルト様はいつも通りの 朗らかな笑顔 を浮かべながらも、その瞳の奥には 確かな決意 があった。



「イザベルを落とすのは、時間の問題だと思うが……まぁ、そう簡単にはいかないかもな」


「……兄上、あまり強引に話を進めるのはお控えくださいね」


「分かってるって。シリウス、お前も王宮で頑張れよ」


「……ええ」



短いやり取りだったが、それだけで兄弟の絆の強さが伝わってきた。


私もジークハルト様を見送りながら、そっと 胸の前で手を組む。



(どうか……良い未来が訪れますように)


そして、その未来に 私もシリウス様も寄り添っていられますように——





それから数日後。


私はシリウス様とともに、王宮の庭園を歩いていた。


「……最近、ようやく騒ぎも落ち着いてきましたね」


「ええ。兄上の出発が決まり、王宮内の議論も一旦収束しましたから」



シリウス様の表情は 穏やかだった。


「とはいえ、兄上の交渉がどう進むか次第で、また状況は変わります。私もまだ、気を緩めるつもりはありません」


「……」



シリウス様は王族としての責務を 強く意識されている。

それがどれほどの重圧か、私にはすべてを理解することはできないかもしれない。



でも——



「シリウス様」



私は そっと彼の手を取る。


「私は、どんな未来になっても、貴方のそばにいます」



その言葉に、シリウス様の目が僅かに 驚きに揺れた。


けれど、すぐに 優しく微笑んで、私の手を包み込んだ。



「……ありがとうございます、エステル様」


「ふふ、またお礼を言われてしまいましたね」


「お礼を言いたくなるくらい、あなたは私にとって大切な存在なのですよ」



シリウス様は 私の手を引き寄せ、そっと抱き寄せる。


「……あなたがいなければ、私はここまで強くいられなかったでしょう」


「そんなことは……」


「いいえ、本当です」



シリウス様の声は 真剣だった。


「エステル様……あなたは、私の支えです。

 どんな状況になっても、あなたがそばにいてくれるのなら、私はどんな困難にも立ち向かえる気がします」


「……シリウス様」



私は 胸が熱くなるのを感じながら、彼の胸にそっと手を添えた。


「私は……貴方を愛しています」



その言葉が 自然に口からこぼれた。


シリウス様の瞳が ふわりと優しくほどける。



「……ええ、私も同じ気持ちです」


彼は そっと私の頬に手を添え、ゆっくりと顔を近づけた。



そして——


ふわりと、唇が重なる。




それは、まるで誓いのような口づけだった。


静かに、けれど 熱を帯びた想い が互いに伝わるように——


彼の腕の中にいると、どんな未来も 怖くはない と思えた。



「…… 愛しい人……私のそばを離れないで」


「……もちろんです、シリウス様」



どこまでも甘く、幸せなひとときの中——


私は この人と生きる未来を、心から願った。




——どんな未来が訪れようとも、私は貴方とともに。


私たちは、これからも二人で歩んでいく。



本編 完結

一旦本編は完結です。

今後は書ききれなかった内容や、その後の話を番外編として投稿します。

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