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第三十八話 護衛騎士から見た王宮の混乱



(マーク視点)


 


「ななななな…!!!!何を言っておるのだ!!!」



王宮に響き渡る国王陛下の叫び声。

その直後、陛下は 顔を蒼白にして椅子に崩れ落ちた。


「陛下!!」



側近たちが慌てふためき、急いで医師を呼ぶよう指示を飛ばす。

宰相をはじめとする重臣たちも、突然の事態に 唖然としている。



その原因を作った当の本人—— 第一王子ジークハルト殿下 は、まるで何事もなかったかのように ワインを片手に微笑んでいた。



「いやぁ、そんなに驚かなくてもいいだろ?」


「驚かないわけがないでしょう、兄上」



シリウス様が、静かにため息をついた。


表情こそ冷静ではあるものの、その言葉の端々に 困惑と諦め がにじんでいる。



一方で、 エステル様は落ち着いていた。


驚きの色はあったものの、混乱に流されることなく、状況を冷静に見極めようとしているのが伝わってくる。


やはり、宰相の娘として育っただけあり、こうした場面における心得があるのだろう。



——とはいえ、王宮の混乱は止まりそうになかった。





俺は 思案を巡らせた。


王宮の誰もが混乱するのは当然だ。


なにしろ 第一王子が突如として「愛する人ができた」と宣言し、その相手がフェルディナント王国の摂政王妃であると告げたのだから。


しかし、問題は それだけではない。



そもそも——


このまま第一王子が結婚しないこと自体、国としては大きな問題なのではないか?



ジークハルト殿下が これまで婚約を拒み続けてきた ことは、王宮では周知の事実だった。


「外交のため」「自由を求めている」など、様々な理由が取り沙汰されていたが、王宮の者たちは皆、 「いずれは適切な相手と婚姻するだろう」と楽観的に考えていたのだろう。



だが、もし このまま誰とも結婚しなかったら?




いくつかの可能性を考えてみた。



① 第一王子が周囲が納得する相手と結婚する場合


→ 何の問題もない。

貴族の令嬢や、他国の王女と結婚すれば、外交的にも安定し、王国の未来も明るい。

これは 王宮が最も望んでいる形 だろう。



② 第一王子が誰とも結婚しない場合


→ 王位継承問題が浮上する。

現在の王位継承第一位はジークハルト殿下だが、彼が結婚せず、後継を残さなければどうなるか。

その場合、次の王位継承者となるのは 第二王子であるシリウス様 になる。


王宮としては、「第一王子が結婚しないなら、第二王子を王位継承者として正式に指名する」 という動きが出るだろう。


しかし、シリウス様がその立場を望んでいるかどうか は、また別の問題だ。



③ 第一王子が周囲が納得しない相手(イザベル摂政王妃)と結婚する場合


→ これが現在の最大の懸念事項。


まず問題なのは、「他国の摂政王妃をアストラ王国の王太子妃として迎えることができるのか」 という点だ。


さらに、もし ジークハルト殿下がイザベル王妃の元へ婿入りした場合、それは 「王位継承権の放棄」を意味する可能性が高い。



 つまり——



ジークハルト殿下が他国へ渡る=アストラ王国の王位継承権を失う。



その場合、次の王位継承第一位はシリウス様となる。




(……これは、想像以上に深刻な問題では?)

 


俺は改めて、シリウス様を見た。


シリウス様は、兄上の突拍子もない発言に 困惑しながらも、思考を巡らせているようだった。



そして——



「あの……」



静かに、エステル様が口を開いた。


「第一王子殿下が、仮にフェルディナント王国に婿入りされることになった場合……その後の王位継承については、どのようにお考えなのでしょうか?」



……やはり、鋭い。



王族ではない彼女だからこそ、こうした問題を 客観的に分析できるのかもしれない。


エステル様の問いかけに、ジークハルト殿下は 気軽な口調で答えた。



「まぁ、その場合はシリウスが王になるしかないよな?」


「兄上」

 


シリウス様の声が ほんの少しだけ低くなった。


「ご自身の婚姻が、王位継承にどう影響を及ぼすか……本当に理解した上で仰っているのですか?」


「もちろん」


「……」


「俺は王になるより、外交官として動く方が性に合ってるんだ。それに、イザベルとの結婚が王国にとってマイナスになるとは思わない」



隣のシリウス様は 少し目を伏せる。



「……兄上が本気ならば、私は何も言いません」


「シリウス?」


「ただし……」



シリウス様は すっと鋭い視線を向けた。


「イザベル摂政王妃が、兄上のことをどう思っているのか。それをしっかりと確かめてから、動くべきです」


「……なるほどな」


ジークハルト殿下は ゆっくりとワインを飲み、満足そうに微笑んだ。


「よし、近いうちにフェルディナント王国へ行こう」




国王陛下は 顔を覆い、深いため息をつく。



「……頼む……もう少し穏やかに生きてくれ……ジークハルト……」


「無理だな、父上」



ジークハルト殿下は、そう言って微笑んだ。




その場にいた誰もが、これからの展開に 不安を覚えざるを得なかった。



俺は、静かに シリウス様の表情を伺う。



(……おそらく、この件が片付くまで、シリウス様は安穏としてはいられないだろう。)

  


王宮は、これまでにない波乱の中にあった。


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