表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/82

第三十四話 第一王子の帰国



「シリウス様のお兄様が、帰国されるのですね」



そう告げたのは、朝食の席でのことだった。



昨日、王宮に届いた正式な書簡によると、第一王子ジークハルト・アストラが長らくの外交任務を終え、数日後に帰国するらしい。



「ええ、兄はここ数年、各国を飛び回っていましたから。久々の帰国になりますね」


シリウス様は紅茶を口にしながら、穏やかに頷く。



「実は……私はまだ、第一王子殿下とはお会いしたことがありません」


「そうですね。エステル様と婚約が決まった頃には、すでに国外にいましたから」


「どのような方なのでしょう?」



素直な興味から問うと、シリウス様は少し考えるように目を伏せた。



「兄上は……一見すると軟派に見えますが、優れた外交官です。人心を掴むのが巧みで、戦略的思考も持ち合わせている……私とは正反対の人物ですね」


「正反対……?」


「私はどちらかというと、理論や学問を重んじるタイプです。ですが、兄は直感的で柔軟。どんな相手ともすぐに打ち解け、状況に応じた最善の対応を瞬時に見極めることができます」


「それは……とても素晴らしいことでは?」


「ええ。だからこそ、兄は王として申し分ない資質を持っています」



シリウス様は静かに微笑んだ。

その横顔には、どこか尊敬の色が滲んでいるように見えた。



「兄上は、私が持たないものを多く持っています。器の大きさも、自由な発想も……私には到底真似できません」



「そんなことは……」


「いいえ。事実です」



シリウス様はそう言い切る。



彼は努力家だ。並外れた魔法の才を持ちながらも、それに甘んじることなく、常に鍛錬を積んでいる。


そんな彼が、自分にないものを持つ兄に対して、密かに憧れを抱いているのは……何となく理解できた。



「ただ、一つだけ兄に疑問があるとすれば……」


シリウス様はふっと微笑を消し、淡々と続ける。



「兄上は、婚約を頑なに拒んでいます」


「……!」


「第一王子が結婚をしない以上、王族の婚姻は思うように進められません。兄上が結婚しない間、私は前の婚約者との婚姻を進めることもできず……その間に彼女は別の人を愛し、子を授かり、結果として破談になりました」



シリウス様は淡々と語るが、私は少し胸が締め付けられるような感覚を覚えた。



「つまり、第一王子が当分ご結婚されるご予定がないため……」


「そうですね。なぜか分かりませんが、私の婚約が突然進められ、エステル様とのご縁が決まったということになります」


「……」



なぜ私との婚約話が進んだのか、シリウス様自身も知らない。

その事実に、私は密かに驚いた。



王宮の意向であったことは間違いないが、その裏には何か理由があるのだろうか——?





「——エステル様」



シリウス様の声が、私を現実へと引き戻す。



「いずれにせよ、兄上は気さくな人物です。すぐに打ち解けられるでしょう」


「……そうでしょうか」


「ええ。もしかすると、私よりもエステル様と話が合うかもしれません」



「それは……どういう意味ですか?」


「兄上はとにかく人好きのする性格ですから。きっとエステル様のことも気に入るでしょう」



(……何だか、少し含みのある言い方……)


「ただし」


シリウス様がわずかに目を細め、言葉を続ける。



「兄上は……自由な人ですが、少々、気まぐれなところもあります」


「気まぐれ、ですか?」


「ええ。何か考えがあるのか、あるいは本当に何も考えていないのか……時折、見極めがつかなくなるほどに」


「……」



それは……少し掴みどころのない人なのだろうか?



(もしかすると、会ったら振り回されてしまうかもしれない……)



シリウス様は「まあ、気にしすぎる必要はありませんが」と付け加えたが、私は少しだけ緊張した。



数日後、第一王子ジークハルト殿下に会うことになる。


その時、私はどんな印象を抱くのだろうか——?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ