第二十九話 艶やかなる指南
「あなたが、ジョセフィーヌ夫人ですね。」
私は少し緊張しながら、目の前の女性を見つめた。
アストラ王国の社交界を彩る、華やかな存在。
流行の最先端を生み出し、社交界の女性たちの憧れの的。
そして、抜群のプロポーションを持つ、艶やかで洗練された女性(年齢不詳)
——ジョセフィーヌ夫人。
「ええ、そうよ。」
夫人は微笑みながら、優雅にカップを傾けた。
ゆったりとした動作のひとつひとつに、余裕と色気が漂っている。
——正直、目のやり場に困るほど、美しい。
「お会いできて光栄です、夫人。」
「こちらこそ。未来の王子妃殿下とお話しできるなんて、とても楽しみにしていましたわ。」
さらりと「王子妃」と呼ばれ、私は思わず背筋を伸ばした。
そう。私はいずれ、シリウス様の妻となる。
そして、その立場に相応しい女性にならなくてはならない。
そのために——今日は夫人に相談をしに来たのだ。
「お聞きしたいことがありまして……」
「まぁ。何かしら?」
夫人が微笑む。
息を軽く吸い、勇気を出して口にする。
「シリウス様の婚約者として、自分に自信を持つにはどうしたら良いでしょうか?」
私がその言葉を口にした瞬間、夫人の表情がふわりと和らいだ。
「まぁ、まぁ……!あなた、本当に可愛らしい方ね。」
ジョセフィーヌ夫人はくすくすと笑いながら、私の手を優しく握った。
「そんなことを悩んでいたの?あなたは十分素敵な女性じゃないの。」
「……ですが、シリウス様はとても立派な方です。私は時折、彼の隣にいるのが相応しいのかと、不安になることがあって……」
思わず視線を落とし、指を絡める。
「ふふ。ねぇ、エステル嬢。」
「はい……?」
夫人は私の手を離し、優雅に足を組み直した。
「あなたに自信を持たせる方法?それは簡単よ。」
「……?」
「殿下に、身も心も愛されること。」
「——っ!!!」
私の思考が、一瞬で真っ白になった。
「え、えええええっ!?!」
「そんなに驚かなくてもよくてよ?」
夫人は涼しい顔で紅茶を一口飲む。
「男と女の関係において、何より自信になるのは、愛されているという確信よ。」
「そ、それは……!ええと……!」
「あなた、殿下に愛されているのはもう分かっているでしょう?」
「そ、それは……!はい……!!」
もうすでに、十分すぎるほど愛されている。
シリウス様は、いつも私を気遣い、大切にしてくれる。
少しずつ距離を縮め、触れるたびに、優しさと愛おしさを滲ませてくれる。
けれど——
「でも……!そ、その……!」
言えない。
『夜のこと』なんて、考えたことがなかった。
「……まだ、心の準備ができていないのですね?」
夫人がくすっと笑う。
「ええ、そ、その……まだ……その、気持ちが……」
「気持ち?」
「いえ、気持ちはもちろん、あるのですが!でも、ええと……その、あの……」
私は両手で顔を覆った。
「……私、まだ……!その……!夜の営みの心構えとか、何も分からなくて……!」
「あら。」
「闇教育は受けました……でも、あくまで座学ですし……!」
「ふむふむ。」
「そ、それに、殿下に……その……わ、私の……!その……裸を見せるなんて……!」
「ふふっ。」
「それに、それに……!殿下を……悦ばせることが、できるのかどうか……!!」
もう、顔が熱くなりすぎて、どうにかなりそうだった。
そんな私を見て、ジョセフィーヌ夫人は優雅に微笑んだ。
「エステル嬢。」
「……は、はい……?」
「まずは素敵な下着を身につけることね。」
「えっ……!?」
「自分のために、そして殿下のために。美しいものを身に纏えば、それだけで自然と自信が湧いてくるものよ。」
「し、しかし……!私には、そんな、色っぽいものは……!」
「そうねぇ……貴女に似合うのは、上品でありながらも可憐なデザインかしら?」
「な、なんの話を……!?」
「例えば、シルクのランジェリーに、繊細な刺繍の施されたガーターベルト……ふふ、どうかしら?」
「ガ、ガーターベルトっ!!?!?!」
「ええ。きっと殿下も、お喜びになるわ。」
「無理ですっ!!そんなの、そんなの……!!」
私は真っ赤になって叫んだ。
「まぁまぁ、今すぐとは言わないわ。」
夫人は余裕たっぷりに微笑む。
「でも、いずれその時が来るのなら……心の準備も、身支度もしておくのが淑女というものよ?」
「~~~~~っ!!!」
私は顔を覆いながら、カップの紅茶を一気に飲み干した。
それからしばらく、私は夫人から女性としての準備についての指南を受けることとなった。
——心の持ち方。
——自分に自信を持つための考え方。
——相手を悦ばせるとは、どういうことなのか。
——そして、素敵な下着を纏うことの重要性。
正直……すごく恥ずかしい。
でも、夫人の言葉はどれも的確で、胸に響いた。
彼女はただの流行の最先端を生きる貴婦人ではなく、愛を知る女性だった。
「大丈夫よ、エステル嬢。」
夫人は、私の手をそっと包み込む。
「あなたは、もう十分、愛される準備ができているわ。」
「……ふふ。では、またお話ししましょうね。」
帰り際、夫人は優雅に微笑みながら、そっと耳元で囁いた。
「殿下を悦ばせる準備、しっかり整えておくのよ?」
——私は、その場で完全に蒸発しそうになった。
しばらくこの話題続きます




