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第二十三話 消えた思い出と秘密の告白



また、なくなっている――。




私は呆然と立ち尽くした。



これでいくつ目だろうか。



最初はお気に入りのハンカチや髪飾りだった。

次に靴、レターセット、本――そして、大切な ロケットペンダント までが姿を消してしまった。



そして今、 今朝確かに机の上に置いたはずの日記帳が、忽然と消えていた。




「……どうして?」


不安が胸を締めつける。


何かのいたずらなのか、それとも―― 意図的に私の私物が狙われているのか。



ロケットペンダントがなくなった時点で、すでに私の心は限界だった。


あれだけ厳重に守りの魔法を施した箱の中に入れていたというのに、なぜ消えたのか。



これがもし誰かに盗まれたのだとしたら……

その人物は、私の部屋に容易く侵入できる ということになる。




(誰が……?)


(何のために……?)




冷たい汗が背筋を伝う。



私は震える手で机の上をそっとなぞった。



「……もう、どうしたらいいの」






「エステル様?」



静かに開かれた扉の向こうから、シリウス様が現れた。



「シリウス様……?」


「先ほどから、部屋の前で立ち止まっていらしたようですが……大丈夫ですか?」



私は、はっと息を呑んだ。


自分では隠していたつもりだったのに。



(また……心配をかけてしまった)



「いえ、大したことは――」


「エステル様」


シリウス様の声が、少し低くなる。



「……私に何か隠していませんか?」


その優しい紫の瞳が、真っ直ぐに私を見つめていた。



私は、言葉に詰まる。



シリウス様は無理に問い詰めることはしない。

でも、 私が何かに怯えていることに気づいている。



(言わなきゃ……)



そう思っても、喉が詰まるように言葉が出てこない。


そんな私の様子を見たシリウス様は、静かに部屋へと足を踏み入れた。






「……何か、なくなったのですね?」


「……っ」


その言葉に、私は息を飲んだ。



なぜ、すぐに気づいたのだろう。



「エステル様が落ち着かない様子をされるのは珍しいことです。何かがあったのではないかと、ずっと気になっていました」



彼は、机の上をそっと見やる。



「これまでも何か、無くなっていましたか?」


鋭い観察眼――。



私は、気づけば 頷いていた。



「はい……最初は小さなものでした。でも、だんだんと大切なものが消えていって……」


「どんなものが?」



シリウス様の問いかけに、私は躊躇う。



(言ってしまったら……)


(もし、ロケットペンダントのことを知られたら……)


(シリウス様に、どう思われるの……?)



でも―― 私は、もう限界だった。



目の前のシリウス様の優しさに、これまで張り詰めていた心が溶かされるようだった。



私は、絞り出すように呟いた。



「……ロケットペンダントが、なくなったんです」



その瞬間――シリウス様の表情が変わった。



「ロケットペンダント……?」


「ずっと……大切にしていたものなんです。学生時代に……どうしても手に入れたくて……」



震える声。


私は すべてを打ち明ける覚悟を決めた。






「……本当は、私なんかが持っていてはいけないものでした」


「どういうことですか?」


シリウス様が、一歩私へと近づく。



私は、ぎゅっと唇を噛んだ。



「シリウス様の作られた、ロケットペンダントです」


静かな沈黙。



「私は、ずっと……シリウス様を目で追っていました。あなたの姿を見るだけで、幸せでした」



胸の奥にずっとしまっていた想いが、堰を切ったように流れ出す。



「……想いを態度に出すことは控えていました。でも、あなたの姿を一目見るだけで、その日が特別になりました。声を聞くことができた日は……勉学も、より一層頑張れたのです」



震える声が、静かな部屋に響く。



「……そんな学生生活の中、何かあなたの思い出が欲しかったのです」



涙が、ぽろりと零れた。



「それなのに……私は、それを……なくしてしまいました……」





「エステル様」


シリウス様がそっと手を伸ばし、私の肩を引き寄せる。



「っ……!」


驚く私を、彼はしっかりと抱きしめた。



「……それほどまでに、大切にしてくださっていたのですね」


彼の低い声が、耳元に優しく響く。



「私は……あなたのことを知るのが、遅すぎました」


シリウス様は、そっと私の髪を撫でながら、静かに囁く。


「けれど、今はこうして、あなたのそばにいる」



私は、彼の胸の温もりに包まれながら、そっと目を閉じた。


「……探しましょう。必ず見つけます」


その言葉に、私はさらに涙をこぼした。




(どうしてこんなに優しいの……)


シリウス様の腕の中で、私は静かに震えながら――


(この人を、もっと好きになってしまう)

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