表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/82

第十四話 気になる前婚約者



アストラ王国へ到着してから二週間ほどが経った。


まだまだお互いの国の文化や気候の違い等に驚くことは多いが、アストラ王国について学ぶことは楽しく、充実した日々を過ごせるようになった。


ただひとつだけ、私の心に引っかかっていることがある。


それは、シリウス様の前の婚約者のことだ。

政治的な理由で婚約が解消されたと聞いたけれど、長く婚約していたのだからまだ想いが残っているのではないか。


私にはそのことを尋ねる資格なんてない。それでも心のどこかに、不安が静かに燻っている。


そんな気持ちを持て余しながら庭園を散策していると、シリウス様が私の様子に気づき、そっと問いかけてくれた。


「エステル様、何か気になることでも?」


その優しい紫の瞳を見ていると、自然と胸の奥の迷いが言葉になって口をついた。


「あの……大変失礼を承知でお聞きしますが、シリウス様は、以前の婚約者の方のことを……まだ想っておいでですか?前の婚約者の方にまだお気持ちが残っているのではないかと、気になってしまいまして……」


頬が熱くなり、視線を下げてしまう。

だがシリウス様は穏やかに微笑んだ。


「そのように心配してくださっているのですか?

ご心配いただきありがとうございます。元婚約者との関係は政治的なものでした。お互い、特別な感情を抱いたことはありません。彼女も今は他の方と幸せになられているようですし……」


その穏やかで、誠実な言葉に胸がほっと緩んだ。

だが、シリウス様は少し照れたような表情を浮かべ、小さく咳払いをした。


「実は、私も同じようなことを心配していました。エステル様も前の婚約者がいらっしゃったと伺っています。そちらの方にまだ想いを残しているのではないかと……正直なところ、気になっていました」


意外な言葉に、私は驚いて顔を上げた。

シリウス様がまさか同じような心配をしてくださっていたなんて。


「あ、あの……それはありません。正直申し上げると、前の方には好意を持つことはできなかったので……

むしろ、今このようにシリウス様と再会できたことを、とても嬉しく感じています」


素直な気持ちを伝えると、シリウス様の表情が和らぎ、瞳の中に暖かな光が宿った。


「それは、私も同じです。エステル様がここにいらしてくださったこと、本当に嬉しく思っております」


その言葉が胸の奥に響き、私は頬がさらに熱くなるのを感じた。

気づけば二人の距離は縮まり、シリウス様がさりげなく私の手を握っている。


「もっと、あなたとの距離を縮めたいです」


静かに囁かれたその言葉に、私の胸の鼓動はますます高まる。


もう、前の婚約者のことなどどうでもよかった。

今はただ、この優しく温かな想いを大切にしたい。


そんな気持ちを込めて、私はそっと彼の手を握り返したのだった。


(シリウス様も、私のことを気にしてくださっていたんだ……)


心の奥がふわりと温かくなり、私は密かに微笑んだ。


シリウス様が少し恥ずかしそうに視線を逸らした後、再び真剣な眼差しを私に向けた。


「安心しました……。ずっと気になっていましたから」


彼の言葉が胸に優しく染み込むように広がっていく。


「私も……同じ気持ちでした」


静かな部屋に、二人の言葉が重なり、空気が甘く揺れる。


するとシリウス様が一歩近づいてきた。


心拍数が急激に跳ね上がる。


「エステル様、失礼します」


そっと伸ばされた彼の手が私の腰に触れ、私はゆっくりと彼の胸元へと引き寄せられた。


「……シリウス様?」


驚きで小さく声を漏らすと、彼の温かな腕が私を優しく包み込む。


「もう、お互い気にする必要はありませんね……エステル様、今こうしてあなたを抱きしめることができて、本当に嬉しいです」


彼の声が耳元で囁くように響き、その甘やかな響きに胸が高鳴った。


「ずっとこうしたいと思っていました……貴方に会ってからずっと」


シリウス様の鼓動が、抱きしめられた胸元から伝わってくる。力強くも温かな鼓動。彼の腕の中で、私は安心感と愛しさに包まれていくのを感じた。


(私も……こうしていたかった……)


静かに目を閉じて、私は彼の腕の中にそっと身を委ねた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ