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マジカル☆ジェシカ


 1


「ヤレヤレ。コノお嬢さん、ミー達ヲドコノドチラ様デスッテェー」

 グレーのスリーピースの膝丈スカート姿のジェシカが、両脇の弟二人に半笑いで声をかける。ジミーは姉の言葉を受けてアフロ頭を揺さぶりながら腹を抱えて、ガラガラ声で笑い出した。

「ハハハハハ! ぼく達ノ人種ガ分カラナイナンテー、困ッタお嬢さんダネ!」

「ヘイヘーイ。笑イ過ギデショ、じみーぃ」

 ジェシカ自身も笑いながら、ジミーの肩を軽く手で叩いた。

 そんな中、タヱが声を低くして三姉弟に話しかけていく。

「お前たち、あとをつけてきたな? 怪我したくなければ、たった今この光景を頭から即座に消して御国に帰れ。私たちも深い所は聞いてやらん。それで五分五分だ」

 ジェシカは、腕を組んで自信あり気にひと言。

「モウ、手遅レダヨ」

 タヱがその声に反応して素早く立ち上がったとき、みなもは腕を取られて頭の横に銃を突き付けられてしまった。ビキニ姿の女に、白く鈍く光るハンドガンを突き付けたのはジョニー。シルクハットも三つ揃いの燕尾服もエナメルの靴も全身白尽くめで、顔も白く塗っていた。

「ヘイ、黒服がーる……。奇妙ナ動キヲシタラ、コノせくすぃーがーるヲ、撃ッチャウヨ……」

 なんともか細い声を出すジョニー。

 ジミーはそんな弟を見て、おどけた。

「Oh! じょにーぃ、ヤッチマウノカー!? ハハハハハ! ユー達、コノ白塗リノじょにーぃヲ怒セナイノガ身ノタメダゼェーー!」

 妹を人質に捕られて怒りをあらわしてきた摩魚に感づいたタヱは、近付いて囁いた。

「気持ちはお察しします。でも、ここは私たちに任せて」

「ありがとう。タヱさん」


「ッデム!」

「ヘイ、ドウカシタノ? じみーぃ?」

「じぇしか! モウヒトツノ、大事ナ自己紹ォー介ヲ忘レテイタゼ!」

「Oh! シット!」

 唐突にやり取りを始めた三姉弟に、摩魚は「どうしたものかしら」と呟く。すると、ジミーが弟に「ヘイ、ジョニー!」と呼びかけたとき。

 ジェシカ「C!」

 ジミー「I!」

 ジョニー「A!」

 と、それぞれで人文字を作って、三姉弟仲良く合唱をした。

「CIA! 我ラ!ソノ特殊任務ノ者サ!」

 自己紹介、終了。

 そして、タヱが切り出した。

「こんなところまで、なにしに来た?」

「黒服がーる、アナタモ御存知デショ? 陰洲鱒町ニハ、未ダニごーるどガ埋マッテイルッテ」




 2


 ジェシカは語りを続ける。

「名モ無キ島ニアル、陰洲鱒たぅん。ソノごーるどハ無尽蔵ネ。コレデ、あめーりかハ経済カラ軍事力、国防ト諸外国ヘノ圧力ヘト至ルマデ、世界最強ネ!!」

螺鈿島らでんしま

 タヱが鈍色の尖った歯を剥いて呟いた。

「What ?」

「螺鈿島」

 鈍色の尖った歯を剥いて口角を下げて、語気を強めた。

「ミーガ聞イタ情報ト違ウYo」

「私が生まれ育った町の島には、ちゃんと螺鈿島といった立派な名前があるんだけど。インターネットのせいで名無しの権兵衛にされているんですけど。どうしてくれるんですか。どうするんですか」

「エ、エエト……」

「あんたら天下の中央情報局様々でしょ。朝飯前の情報操作はどうしたのさ? 文字通りきんに目がくらんで見えてませんでしたってか?」

 タヱはだんだんと早口になってきた。

「エ、エ、ソ、ソンナ……」

「機密諜報員とあろうものがそろいもそろってアフロだのウォンカだの魔女だの、ハロウィンのコスプレ行列御一行じゃねえか。あんたらスパイの代名詞名乗ってんだろ? それともなにか? CIAの採用基準て一芸入試かよ。アホみたいにフザケタ格好してさ。会社の忘年会新年会の余興じゃねえっての」

「ウウ……。ウエエ……。ミーダッテ、ミーダッテ、ヤット見ツケタトコロナノヨー! 今ドキ魔女ナンテ雇ッテクレルトコナカッタンダヨ! ソレデモ、ソレデモ、魔女ヲ続ケテキテ良カッタト思ッテタノニぃ! ヒドイ、ヒドイ……。うわあああああん!」

 泣き出した、魔女ジェシカ。

 タヱは呆気にとられていた。

 気になって摩魚を見てみる。

 ほくそ笑んでいたではないか。

 この美しい女性は、私が思っている以上に強い人かもしれない。タヱは摩魚の表情を見て思った。私の姉、ミドリが好きになった人でもある。弱いはずがない。


「へいへーい。ソンナノハ、じぇしかラシクナイゼ! マタ小サナ女ノ子二戻ッチマッタノカ? じぇしかハイツモ、ミラクルdeマジカルダロ」

「ソウ、ダヨ……。じぇしかハイツモ、ミラクルdeマジカルサ。僕、タチニ……、ミラクルヲ、見セテ、クレヨ……」

「うぐっ……。ひくっ……。ソ、ソウネ。ソウダヨ。ミーハ、ミラクルdeマジカルサ」

 手で涙を拭いながら、弟たちの励ましに応えていく。

「GO!GO! じぇしか! ミラクルじぇしか!」

「フレ!フレ! じぇしか! マジカルじぇしか!」

「オーケー、オーケー! ミーハ、イツダッテ、ミラクルdeマジカル! GO!GO!じぇしか! Let's Go!じぇしか! ミラクルミラクル! マジカルマジカル!」

 そして、ジェシカは身振り手振りを交えて歌い始めていく。

「マジカルマジカルサイコパス。ミステリミラクルペンタゴン。女王陛下万歳!」

「女王陛下万歳!」

 最後は、弟二人も後に続いて拳を天高く振り上げて叫んだ。

 摩魚とタヱは思った。

 私はいったい、なにを見せられているんだ?と。

 すかさずに、みなもの突っ込みが入る。

「ええっ! アンタらイギリス人なわけ!?」

「ハハハーー! 御名答! せくすぃーがーる!―――ダケード、ミー達ハ産マレモ育チモ、あめりかーんネ!」

 ジェシカが誇らしげに笑った。

 元気を取り戻してなによりである。

 今度は急に笑いを収めて腰に手をやり、自信あり気に言葉を出す。

「ダカラ、ソノ、ミス摩魚ガ必要ヨ。ミー達ト来ナサイ」

「ふん。摩魚さんだけじゃ話しにならないよ。私たちも連れて行かなきゃ、場所が分かるものか」

「ンフフ。黒服がーる、ドンマイネ。ミー達ニハ、陰洲鱒町ノ添乗員サンヲきちーんト雇ッテイルノヨ」

「なんだって?」

「ンフフ。ミー達ガ“ますたー蛇轟!”ト信者ヲ装ッテミセタラ簡単ニ協力シテクレタヨ。―――ソシテ、黒服がーるニソコノふろっぐぼーい。ユー達ガ、蛇轟教ノ信者デハナイ事モスデニ知ッテイルネ」

 語り終えたジェシカは、ジョニーに目線をやって合図した。

 これに弟が頷いて、摩魚にか細い声で要求を言っていく。

「ミス摩魚……。ゆーノ妹サンヲ傷ツケタクナケレ、バ、ぼくラノモトニ来ルンダ……」

 その言葉に従うように、摩魚は歩み出した。

「駄目、お姉ちゃん!」


「ハアァン……ン……」


 その瞬間に白塗りのジョニーの背中が、ヌルンと舐め上げられて白い銃を落としてしまった。弟の危ないその声に、ドキッとして一緒に声をあげたジェシカとジミー。

「ヘイ、じょにーぃ! 場違イニせくすぃージャーーン!」

 まさに、その刹那だった。

 ジミーが顔面を殴り飛ばされて、ジョニーの顔も殴り飛ばされた。窓をぶち破って、部屋から吐き出された弟二人は道路に落下する。

「Oh! じみーぃ! じょにーぃ!」

 ジェシカ、驚愕。

 弟二人を殴り飛ばした物が毅の口元へと戻っていき、パクッと閉じられた。その光景にジェシカは歯を剥いて「ガッデム!」と吐き出して手のひらを正面に向けたそのとき、タヱの踵で顎を蹴り上げられた。打撃で浮き上がったジェシカの身体を目がけて、タヱは追い打ちの踵を真っ直ぐに蹴りやってどてっ腹を貫き、ジェシカを部屋から吐き出して車道の上に落下させた。しかし、その道路は彼ら三姉弟を叩きつけることをせずに、まるでスポンジのように柔らかくなって受け止めたのだ。窓に駆けよってきたタヱが舌打ちをして見下ろしたら、ジェシカは頭を横に振って起き上がって胸を張って自信たっぷりに部屋の四人に声を投げつけていく。

「ハッハーー! 残念ダッタネ、黒服がーる! コノ通リヲ前モッテ、ミーガ魔法ヲカケテオイタノヨ! 備エアレバ憂イナシ!!」

「ぐぬぬー、腹立つー」

「ヘーイ、モウヒト押シダッタネ黒服がーる。ソレニコノママ、ミーガ手ブラデ帰ルト思ッテ?」

 ジェシカが悪戯な笑みを見せて「女王陛下万歳!」と叫んだそのとき、タヱが「まさか! しまった!―――摩魚さん!!」と、振り向いた瞬間に、摩魚の足元から赤く輝く五茫星の魔法陣が畳に浮き出てきて、そして一気に女の頭まで上昇した直後に部屋から消え失せた。

「摩魚さん!」

「お姉ちゃん!」

 部屋から聞こえてくる女二人の悲鳴混じりの叫び声のあとに、外に立つジェシカの両腕の中に摩魚がお姫様抱っこの姿で現れた。そして、部屋に居る三人に勝ち誇った声を飛ばしていく。

「ハッハーー! ゆー達、ミス摩魚ノ命ヲ守タケレバ、ミー達ヲコノママ見送ッテネー!」

「流石ダゼ、じぇしか!」

「仕事モ、まじかる、ダヨネ。じぇしか……」

 弟二人から尊敬された。

「センキュー、センキュー! じみーぃ、じょにーぃ、褒メテモナニモ出セナイヨーー。ハハハハハーー!」

「ソリャきついゼ、じぇしか! ハハハハハーー!」

「ハハハハハーー!」

 身を仰け反って大笑いするボンド三姉弟。そして、満足げに去っていく中で、ジェシカが見上げて、みなもとタヱと毅にお別れを告げた。

「グンッナイ!」


「クソー。CIAめ」

「お姉ちゃん」

「たたっ、大変な事に、なったんだ、ナ……」




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