怪奇!蛙男!
1
八月の三日目。
海原摩魚は、妹の海原みなもと浜の町観光通で買い物をしていた。みなもは上下デニム生地で、襟が高いデザインのカッターシャツと少しゆったりしたパンツ。摩魚は、上は七分袖のゆったりシャツとジーパン姿だった。妹に銀行へと買い物費用の足しを少し卸しにゆくとことわって、商店街にあるATMに向かう。妹は近くの本屋で待っている。その間にも、摩魚の耳にはなにか得体の知れない生物の鳴き声のようなものが聞こえていた。そして、ATMを出る。
ゲグロ
また聞こえてきた。
それと同時に、鼻を突くような生臭さ。
なにかと背後に気配を感じる。
ゲグロ ゲグロ
後ろを振り返った。
なにかの影が身を隠す。
街灯に隠れたらしい。
歩き出してみた。
ゲグロ ゲグロ
再び振り返る。
また隠れた。
再び歩いてみる。
ゲグロ ゲグロ
みたび振り返る。
またまた隠れた。
暫く睨んでみる。
相手は息を潜めていた。
どの街灯に隠れた?
丹念に各街灯を見ていく。
反応が返ってこない。
そんな場合ではない。
買い物を済ませないと。
みたび歩き出した。
相手が動き出したらしい。
素速く振り返る。
ゲグロ ゲグロ
目の前に、人間サイズの巨大な両生類が。
摩魚は息を飲んだ。
ゲグロ ゲグロ
「はは初めまして、なんだナ」
丁寧にも挨拶をした。
喋れたとは。
帽子を取ってお辞儀。
ゲグロ ゲグロ
「かか! 蛙!!」
摩魚、絶叫。
皮膚を包む、この独特の光沢感はいつ見ても粘っこい。ぬめり。べとつき。正直に言って嫌悪感があった。だが、この不思議な愛嬌は何であろうか?大きくて丸い黒く輝く瞳は、見つめられているだけで吸い込まれそうである。しばらくの間、目を合わせていた摩魚がクラッと頭を揺らしたのちに倒れないように体勢を整えた。しかし、こんな真夏日にトレンチコート姿の蛙男。尋常とは思えない。
とりあえず挨拶と質問。
「初めまして。私は、海原摩魚といいます。あなたは誰ですか?」
「おおおれ、磯辺毅というんだな……。よよよろしく」
ゲグロ ゲグロ
毅が言葉を続ける。
「おおれが……、ここっ怖くないのか、ナ?」
ゲグロ ゲグロ
摩魚は頭を掻いた。
「怖いと言えば怖い」
「ほ、ほほーー」
「でもね。なんだか怖くない」
「ほ、ほほーー」
「しかし。間近で見ると具合が悪くなります」
「ほ、ほほーー」
「でもやっぱり、悔しいけど、可愛い顔をしているかな」
「ここっ細かいんだ、ナ」
「いちいち細かくて悪かったですね」
と、早口。
ムッときた。
今、浜の町観光通で摩魚と毅は他の者たちの視線を集めていた。
2
容赦ない周りの目線が気になる二人。
摩魚が軽い溜め息をついて前髪をかきあげて、話しかけた。
どうしてこう、男に絡まれるのか。
「磯辺さん」
「はは、はい」
「他の場所でお話しをうかがいます」
「はは話しを、ききっ聞いてくれるんだ、ナ?」
「突っぱねる訳にもいかないでしょう?」
「なな、なるほど、ナ」
毅が再び帽子を被る。
そして、摩魚は歩き出した瞬間、観光通りに敷いてある石畳にヒールをとられて体勢が崩れた。毅がとっさに手を肩に伸ばそうとしたが、間に合わずに袖口を掴んでしまって襟から裂けた。あわれ摩魚は肩を露出して、通りの石畳へとキスをしてしまった。
ゲグロ ゲグロ
焦る磯辺毅。
「だだっ大丈夫か、ナ!?」
不意に、美しい成人女性の白い肩が目に入る。
磯辺毅は思った。
美しい女のその白い身体を舐めてみたいと。
ゆっくりと広い口を開いていく。
摩魚は痛さに呻きながら身を起こして、横座りになる。
裂けた襟が落ちて、白い肌と虹色の鱗の露出が上がった。
このときの摩魚の艶かしさと色香は尋常ではなかった。
そんな状況を知らずに、毅へと申し訳ない顔を向けていく。
「あいたたた……。―――ごめんなさい、磯辺さん。行きま………………!」
摩魚、絶句。
毅の口から蠢いて出てきた大きく長い舌が、女の白い肌と虹色の鱗を大きく上下にねっとりと舐め回していった。そして、蛙男の唾液が女の肩を濡らしていく。このとき、摩魚の身体を通して味わったことのなかった微弱の静電気と痒みと、それから強制的に奥から引っ張り出されてきた快楽。これは、私は望んでいない。嫌、嫌だ、肩だけでなく胸元まで舌が這ってきた。気持ち悪いのに、気持ち悪いのに。
「ちょっ……。だ、ダメ……あ……」
舐められたときに出してしまった摩魚の声。
正直、泣きそうになった。
後悔の念が摩魚の頭をよぎる。
我に返った毅が慌てて舌を引っ込めて謝る。
「すすすっすみませんでした!」
この様子を、一瞬鋭い目付きで睨んだ。
頬が痙攣した。
唾液で濡らされた肩と胸元をタオルハンカチで拭き取ると、襟を上げて隠したのちに謝罪する蛙男を見たときには、先ほどまでの笑顔が完全に消えてしまっていた。そしてギャラリーに目配せして、ひと言をかける。声の感じも、低くなったようだ。
「さ、行きましょう」
「はははい……」
これから重要になる女へと無礼な行為をしでかした、と思った毅の表情は沈んでいた。摩魚の方はというと、目の前の蛙男を気にかけている。気にかけてはいるが、少しばかり眉間に皺を寄せていた。
これは、心配か。
または、嫌悪か。
なぜ私が心配をしなければならないのか?
なぜ、恥ずかしいことをされた私がした側を?
とりあえず場所を移動したかったので、声をかけていく。
「しょんぼりしないでください。今はそんなことよりも、聞きたいことが山ほどあるんです。行きましょう、磯辺さん」
「ああありがたいんだ、ナ……」
そんなとき、ふと、前方にただならぬ気配を感じた摩魚と毅がその方向へと目をやった。その先には、観光通の中央の十字路に大地に足を根ざして立つ妹の姿があった。拳を力強く握り締めて、ワナワナと震わせている。妹から発せられていくとてつもない怒りと殺気を感じ取った摩魚が、諌めるように慌てて声を投げた。
「みなも! ちょっと待った!」
「ふっふっふ。一部始終を見ていたよ、お姉ちゃん」
「見ていたのなら、事情は分かるよね。ーーーね?」
「その蛙男からアタシの大好きなお姉ちゃんが犯されそうになっているってのなら嫌でも理解できたぞ!」
そう早口で姉の言葉を振り切って地を蹴って駆けていき力強く跳ねて、宙から足を突き出した。刀の切っ先のように鋭い足刀が蛙男の顔面に炸裂。みなもは片膝を突いて、東映変身ヒーローばりの格好いい着地を決めた。
毅、天を仰いで転倒する。
そうして蛙男の腕を取り押さえて顔を石畳に付ける。
「お巡りさーーん! 破廉恥男を捕まえました!!」
「コイツか! この男なんだな!」
みなもの連絡を受けていた警官の二人が駆け寄ってきて、毅を派出所へと連行していった。
3
浜の町観光通派出所。
蛙男こと、磯辺毅は取り調べられ中。
ここの派出所は、大手百貨店に付属しているかたちで建っている。商店街では商店街なりに問題が起こるから、十字路付近に位置する派出所は何かと都合が良かった。毅の事情聴取に同行している人物は、海原摩魚と、その妹みなも。毅の前に座って聴取をしている警察官は、四三歳の隅田巡査。彼が隣りに座る若い青年警察官に、「一言一句メモっとけ」と指示を出して開始した。
「えーと、お名前は?」
「いい磯辺……毅、です」
「磯辺つよしさんね。つよしってどう書くの?」
「たたっ毅と書いて、ツヨシっっと、読み、ます」
「なるほど。で、住所は?」
「まさか、アトランティスの方ではないでありますか!」
若い青年警察官が興奮気味で横槍を入れてきたので、隅田巡査は少々ムッとくる。
「目鉢、いいからメモっとけ」
「はっ、すみません!」
目鉢巡査、敬礼。
隅田巡査は気を取り直す。
「で、あなたの住所は?」
「ひょっとして、竜宮城?」
続いて、後ろにいた若い女性警官から興味津々な割り込み。隅田巡査、再びムッとくる。
「本間、黙って見張ってろ」
「はっ、すみません!」
本間巡査、敬礼。
再び気を取り直した隅田巡査が、毅に聴取を続けてきた。
「……で、住所は?」
「いいっ陰洲鱒町、です」
「なんだって? 陰洲鱒町?」
隅田巡査は物珍しそうに反応をした。若い二人の警官は、興味津々に反応。
「陰洲鱒町でありますか!」
「陰洲鱒町なの!」
頭を抱える隅田巡査。
取調室の外で聞いていた摩魚が、指で高い音を鳴らした。
「ビンゴ!」
「えっ! なにが?」
みなもは戸惑った。
事情聴取も無事に終わり、摩魚を含めた三人は派出所を出てきた。商店街の天井の隙間から顔を覗かせている空は、すでに濃紺に染まっている。青暗い空を見上げていた摩魚が妹に顔を向けた。
「ねえねえ、みなも。今夜、磯辺さんを家に泊めてあげようか」
「お姉ちゃんなんば言い出すとね!? 駄目だってば!」
みなもが歯を剥いて反発してきた。
摩魚は妹の言葉を流すかのように答える。
「ええー? あの人、悪い人じゃなさそうだし。だいいち、私の部屋に入れることなかし」
「あのね、お姉ちゃん。いくら磯辺さんが悪くなか人でもね、男だよ! オ、ト、コ! 分かる? 雄! デカい蛙の雄!」
みなもが毅を目の前にして力強く指差して、更に怒鳴り散らした。
「もし、お姉ちゃんになんかあったらどがんすんね! 妊娠でんしたら、産卵して蛙ん子ば産むはめになっとばい! 危なかやろ!」
「さ、産卵てアンタ……」
摩魚は顔を引き吊らせつつも、いきり立つ妹を諌めようとした。
「またまたぁー、心配し過ぎだってば。みなも」
「お姉ちゃんもお姉ちゃんさ! 男ば知らんけん、そがん無防備無知な考えになると!」
「ぐ……!!」
摩魚、カチンとくる。
「みなもこそなんか! 男と一回二回セックスばしたくらいで! そんくらいで男の全てば知ったごた口きくなさ!」
「あたしは、一回や二回じゃかなかよ! もっとさ!ーーーなんね! お姉ちゃんが処女て本当やろうが! 勉強の虫になっけんいつまで経っても世間知らずで男知らずなままさ!」
「ううっ……、この……」
摩魚がギクッとくる。
みなも、優勢か。
そして、姉へ向けてもうひと言を吐き出そうかとしたときに、裸足でペタペタと歩み寄ってくる気配を感じて、海原姉妹が視線をその先にに向ける。
「私も磯辺さんに同行するってんなら、泊めてくれます?」
上から下まで黒尽くめな格好をした女から笑顔で、そう話しかけられた。その女は、大きな瞳が吊り上がっており、眉毛は無し。背丈は百六〇強か。色素の薄いボサボサ頭の長髪に、やけに鍔の広い黒いカウボーイハットを被っている。踝までもある丈の長い黒いワンピースに、これまた黒いマントを羽織っていた。黒尽くめの女が笑顔で見せた歯は、全てが鈍色で鋭く尖っていたのだ。
「はじめまして。私、潮干タヱって言います。そこに居る磯辺さんの仲間だよ。よろしくね、別嬪さんたち」
4
「いいんじゃなかと」
みなもがOKを即答した。
「よろしくね、タヱさん」
摩魚は満面に微笑んで、タヱへと手を差し出す。先ほどの、磯辺毅に対してとった行動とは大違いであった。まあ、公衆の前面で恥ずかしい目にあわされたことが大きいか。これにタヱが一旦は瞳を輝かせて嬉しさを顔に出したものの、即座に引っ込めて先ほどの鈍色に尖った歯を見せて薄笑いを浮かべた。
「気持ちはありがたいですが、手が“普通とは違う”んですよ。握手は難しい」
「そっか。でも、泊まっていただけるんでしょ?」
「もちろん、泊まらせてもらいます」
タヱの纏うマントは、両肩から腕全体を覆い隠す形をしていた。
家路を行く間。
黒衣の女を間に挟んで一緒に歩いていた、海原姉妹。
摩魚から話しかけてきた。
先ほどからは表情も言葉遣いも一変して明るくなった。
蛙男に対して消え去っていた笑顔が嘘のようである。
「タヱさん、名字を『しおひ』って言っていたよね」
「はい。黒潮の潮に、干潟の干で潮干と書きます」
「その名前、私が知らない名前じゃないよ。一年前にね、物凄く親しくなった女の子がいたんだ。その人の名前が潮干って言う名字だったのね」
「へえ。その人とは、どうなったんです?」
「消えちゃった」
「……え?」
「どこかへ行ってしまったっきり。早く帰ってきてほしいなあなんて思っているんだけどね。また、芸能界に戻ったのかなって考えたりもしたよ」
「それ……。摩魚さん、それ……」
大きな稲穂色の瞳が潤んできた潮干タヱ。
「私の、姉です」
「え? タヱさんの?」
「姉は、ミドリって言います」
「うそ……。え……? ミドリちゃん、こんなに可愛い妹さんがいたなんて……。やだ、もう」
「ええと。ありがとう……ございます」
タヱが頬を赤らめて礼を述べる。
そして、摩魚に言葉を返していく。
「姉は、家でことあるごとに、会話であなたの名前を嬉しそうに出していましたよ」
「本当?」
「はい。本当ですよ」
「嬉しい」
その笑顔は、まるで少女みたいで可愛らしかった。
タヱは回想していた。
一昨年の夏に東京から帰ってきて、陰洲鱒町の家で消えるまでに家族と一年間をすごしていた。姉の潮干ミドリは母親のリエとよく似て、とても美しい女性だった。黄金色の髪の毛は腰まであり、透き通る白い肌、リップを引いているかのような艶やかな唇、高い鼻梁、切れ長な目には輝く緑色の瞳。そして、百七〇センチに達する身長。白くて細い身体と長い四肢。自慢の姉だった。そんな中で、私に好きな人ができた、素敵な人ができた、私を受け入れてくれる愛しい人ができた、と話していた。それは会話のたびに、摩魚ちゃん摩魚ちゃん、摩魚ちゃんとね、摩魚ちゃんがね、摩魚ちゃんもね、摩魚ちゃんはね、などなど。まるで少女のように顔をキラキラと輝かせて家族に語っていた。
そして。
「私、摩魚ちゃんと一緒になりたい」
そして、摩魚とみなもの住む家『海原鮮魚店』に着いたタヱと毅は海原姉妹の両親から快く迎え入れられた。姉妹の父親が陰洲鱒町出身の二人を見るなりに「君たち、日本人離ればしとるね」とひと言。それから、一応、タヱと毅の二人を六畳の空き部屋で寛がせた。
場所は移って、摩魚の部屋。
「はい。みなも」
「どうしたと、これ?」
姉から手渡された紙袋。よく見てみたら『YOSHIBOU』といった紡績衣類メーカーの名がある。摩魚が少し照れながら、手を後ろに回して話していく。
「いつも頑張っているでしょ。私からのお礼と励ましね」
「これは、まさか……!」
「今年、一緒に泳ごうよ」
「芳原科学紡績工業の、水着ではありませんか!!」
紙袋の中から恐る恐る水着を取り出してゆき、目を剥いて現物を見るなりに更に感動の声を喉の底から出した。
「おおおおおぉぉっ! びびっ、ビキニ、ビキニ、ビキニ! きゃーーっ!」
妹、興奮状態。
微笑ましく見守る姉。
「似合うんじゃないかなと思ってさ」
「ああああ、ありがとう! お姉ちゃん!」
大きくて切れ長な瞳に、涙を一杯一杯に溜めて姉を見つめる。嬉しさの余りにアタフタとする妹を見ていた摩魚は、笑顔になって促した。
「早く箪笥にしまってこんね」
「ち、ちょっとだけ着てみる」
「あはは、良かよ」
そして、みなもは自身の部屋で鏡を前にして赤い顔で自分の水着姿を見ていた。いろいろとポーシングを試してみる。
「ちょ、ちょっと派手かなぁーー」
と、言いつつも顔が嬉しさで緩みっ放しである。
「けっこうスタイルいいじゃん。似合ってますよ」
「あはは、ありがとう…………って、タヱさん! いつの間に!」
「窓伝いにお邪魔しています」
「みなもー、入るよー」
摩魚が軽くノックして、妹の部屋に入ってきた。次に、畳に胡座をかいて座るタヱの姿を見る。少々は驚いたが、笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、タヱさん」
「えへへ、妹さんのお部屋にお邪魔してます」
と、足の親指と人差し指とでカウボーイハットの鍔を器用に摘んで頭から外して、お辞儀した。どうやら本当に、タヱは両腕が使えないらしい。
「帽子を取ってくつろいでいてね」
「ありがとうございます」
照れを隠して礼を言った。
摩魚は、タヱから妹へと目を移して感心する。
「うーん……、流石は曾お婆ちゃんの血筋。スタイルいいわー」
「お姉ちゃん、褒めすぎだってば」
みなも、姉の言葉に耳まで赤く染めた。嬉しさと恥ずかしさとに、引っ込めようにも無理なほどに弛みきった顔を伏せて隠すことに必至であった。そして、みなもが姉とタヱに向けて「あたし、着替えるからさ。部屋から出ててね、お願い」と頼んで身体の向きを変えた途端に視界の端に映った三つの影を見た。部屋の窓を開けて、中へと入ってきた三人組。どの顔ぶれも異国情緒だった。
皆それぞれの立ち位置に着くと自己紹介を勝手にはじめてきた。
「ボンド、ジェシカ=ボンド」
中央に立つ金髪長身の女。
続いては左に立つ男。
「ジミー=ボンド」
アフロ頭の黒人の混血。
最後は右に立つ男。
「ジョニー=ボンド」
色白痩身で、白い三つ揃いに白いシルクハットの全身を白で統一していた。そして、ポーズを決めて異国の三人が一斉に叫ぶ。
「我ラ、ボンド三姉弟!」
招いた覚えの無い客に、海原姉妹は難色を示した。しかし、三姉弟の足元を見ると皆靴を脱いでいる。一応、礼儀は心得ているらしい。だが、怪しい連中は怪しいものであるから、愛想笑いで摩魚は三姉弟に聞いた。
「あのー、どこのどちら様で?」
その言葉に反応をしたのか、中央のジェシカが両肩を竦めて両手を上げて「ハんッ?」と鼻で笑うと、両側に立つ弟に同じ仕草をした。その弟二人とも、姉と同じ反応を示す。