表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/56

ニーナ☆ジェシカ☆の現場検証☆


 1


 瀬川響子が磯野マキのお見舞いに行っていた同じ日。


 尾澤菜・ヤーデ・ニーナは、長崎警察署を訪れていた。

 それは、拘留中のジェシカ・ボンドと話すためである。

 魔法使いのジェシカは、明日中に弟二人を連れてアメリカ合衆国へ強制送還予定。

 取調室。

 机を挟んで、ニーナとジェシカ。

 立会人で、強行課の蛭池愛美刑事。

 二人して無言。

 仲良しなわけがなかった。

 ニーナ、あと一歩のところで摩魚と亜沙里を保護できず。

 ジェシカ、愛車と顔と身体をボコられた。

 お互いに因縁がある。

 だから仲良くなれるわけがない。

 しかし、このままだと埒があかない。

 口を開いたのは、ジェシカからだった。

 格子から射し込む太陽光が、ブロンドヘアを照らしていた。

「ヘーイ、ナチス。ミーはあんたらに話すことは、もうないよ。あんたも話すことがないなら、さっさと部屋に返してほしいわね」

「逆さ五芒星」

「What?」

「中川町の海淵龍海の家の畳にね、デカイ逆さ五芒星の円形魔方陣の焼け跡があったのよ。アレ、あんたのじゃないよね」

「え……?」

 一瞬、血の気を引かせた表情を見せたジェシカ。

 慌てるように口角を上げた。

「ナチス。なに言ってんの? 世の中そんな物騒な物があるはずないでしょう。仮に本当にあったとしても、大きな対価が必要よ」

「まあいいや。ーーー最初あたしはね、てっきり“あんた”が二重魔法をかけたものかと思っていてね、一枚上手を見せつけられたと少しショック受けていたのよ。で、今朝、任意同行でこちらの美女と現場を見てみたらさ、あったんだよ。逆さ五芒星が」

 こちらの美女、とのときに親指で蛭池愛美刑事をさした。

 ジェシカに小さく手を振る白い三つ揃いの美人刑事。

 愛美刑事とニーナへと二往復ほど顔を向けたのちに、目の前のツインテール魔女に向き直る。机に身を乗り出してきた。

「へい、ナチス。いったいなにが目的よ? ミーと話すだけなら“部屋”でも問題ないでしょ。なんで取調室ここまで呼んだの?」

「あんたさ、本当にCIA職員?」

「Yes! 間違いなく、ミーは中央情報局の現役職員よ」

「分かった。その、摩魚さんを誘拐したのはCIAとしてやったの? それとも、副業で依頼を受けたの?」

「黙秘するわ」

「あっそー。ーーーじゃあ、質問変えるわ。あんたがさっき言った、副業ってなにさ?」

「それ教える前にね、こちとらアメリカは、諜報のお仕事だけでは食っていけないのよ。あなたも知っているでしょ。都心部のハンバーガーを食べるためには10$出さないと食べることができないのよ。ファストフードに10$よ? 物価高騰がイカれているおかげでね、だからミーは“なんでも屋”をはじめてみたの」

「ハンバーガーに千五百円出すくらいなら、バターをフライして食べれば? あんたんとこの料理であるでしょ」

「へい、ナチス。ミーに死ねと? バターフライって危険な料理よ。それを食ってミーに死ねと?」

「ああ、そうだったわ。ソーリー、ブリカス」

 歯を見せてニヤケるニーナ。

 歯を剥いて悔しがるジェシカ。

「ぐぬぬ……」

「で、話しの続きは?」

「その副業なんだけどね。各々の特技を生かして人助け以外でもなんでも依頼を受けたらする、リベローって組合があるの。そこにミーが三年前に入ったんだよ。アメリカ合衆国では本業では生活が苦しい人は、法律で副業が認められているのね。だから、三年前に比べてミーの生活は“マシ”になったよ」

「へえー。そりゃ良かっじゃん。その副業を通して、あんたは摩魚さんの誘拐の依頼を受けたと?」

「Yes!」

 自信たっぷりに白い歯を見せて、輝かせた。

 そして、一変して彫りの深い目を鋭くしたジェシカは。

「あんたの国ではどうなの? 聞いたところ、副業はいまだに違法じゃん。そんな状態で、護衛人などと人助けという高尚なこと掲げているけれど、どのみち違法なんでしょ? まあ、どうせ、その仕事内容からお国からは見て見ぬふりされてんでしょうけど」

 瞬間、ジェシカの胸ぐらがニーナから掴み上げられた。

「へい、ナチス。暴力振るう気? あんた、ちと野蛮すぎるんじゃない?」

「うるさい、ブリカス。じぶんの魔法を悪くないことに使うことのなにがいけないんだよ」

「勘違いしないでほしいわね」

「なにが?」

「見て見ぬふりされている立場なら、いざとなったら“あなた”のご家族ごと切り捨てられるって言ってんのよ」

「え?」

 その言葉を受けて、壁に背を預けている愛美刑事を見る。

 美人刑事、艶やかな唇の中央に人差し指を立てたのち、ゆっくりとジェシカをさしていく。ニーナは再び目の前のブロンド美人に目線を合わせて、溜め息を着いた。

「あぶねー、あぶねー。感情的になるところだったわ」

 掴んでいた胸ぐらから手を離して、ジェシカを解放した。

「ブリカス」ぶっきらぼうに。

「なによ?」こちらも、ぶっきらぼうに。

「今から現場についてきてくれない? こちらの美女も同伴してくれるってさ」

 再びニーナは親指で愛美刑事をさした。

 その愛美刑事が、ジェシカに向けて小さく手を振った。

「ジェシカちゃん、お喋りしたくなかったらそうしても良いのよ。明日には、ちゃんと“あなた”たち姉弟をアメリカに返すからさ」

 美人は声まで美人である。

 ほわほわしだしたジェシカ。

「Yes! Yes!」

 キラキラと碧眼を輝かせた。

 腕を組んで、愛美刑事はニーナに笑顔を向けた。

「良かったじゃない。彼女、現場検証に協力してくれるってさ」

「ありがとうございます」

 と、ニーナは愛美刑事に頭を下げた。



 2


 ということで。

 ニーナはジェシカと現場検証にきていた。

 愛美刑事の同行を条件に入れてのこと。

 まだまだ昼間の太陽光は白く眩しくて、蛇轟秘密教団からの襲撃によって荒らされた現場の破片がそれらの光りを乱雑に反射して、状況の荒々しさを物語っていた。そして、現場に訪れた女三人は三人で、正直“ふさわしい”とは言い難い服装をしていた。

 まず、尾澤菜・ヤーデ・ニーナ。

 ジャーマングレーのティーシャツに赤黄黒の縦ストライプが裾というか縁を飾り、胸元には「I LOVE GERMANY」と黒色ゴシック体で主張していた。下はジーパンとジャーマングレーのスニーカー。

 次に、ジェシカ・ルビー・ボンド。

 長身のブロンドヘアの碧眼美女を基本に、インナーは白いカッターシャツにグレーのスリーピースで、下は膝丈スカート。素足に見えるが、いちおうストッキングを穿いていた。五センチの黒い本革のヒール。誕生石は、ルビー。

 最後は、蛭池愛美刑事。

 赤茶色の髪の毛が映える、長身の色白美女。インナーは赤紫のカッターシャツに、白色の三つ揃いでスカートは膝丈。そこから伸びる長い脚は素足で、白色の本革のローヒール。赤茶色の瞳も特徴的である。

 以上、そのように個性的な女三人が、畳に焼け跡を残している円形魔方陣を検証しにきていた。六畳間いっぱいに広がる黒い線の焦げあとが記していたその五芒星は、斜めに傾いていた。玄関から靴のまま三和土を上がって、とりあえず魔方陣跡の正面に三人は立った。

 ジェシカが開口一番。

「斜めだね。頭はどこ?」

「お? 違和感に気づいた?」

 なんだか嬉しげなニーナ。

 ブロンド美人の袖を引っ張って、破壊された襖との間、つまり六畳間の角まで移動して腕を伸ばして指していく。すると、違和感が消えたことに声をあげたジェシカ。

「あ!」

「でしょう? 魔方陣のこっちが顎、あっちの二つが角」

「ヘーイ、ヘーイ。バフォメットじゃん。マジかよ……」

「どうよ? マジであったろブリカス」

「正直、ここに入ったときから具合悪いんですけど」

「あたしも同じだよ。具合悪いよ」

 魔法使いの二人して顔を見合わせ、お互いに少し青ざめていた。そうしているうちに、二人の後ろに赤い光りが点滅したと思ったら、艶やかな赤黒い髪の毛を持つ濃紺の三つ揃いの長身美女が現れた。背後の気配を感じたニーナとジェシカは、後方に飛び退けて構えていく。しかも、新たに現場に入ってきた長身の女の顔を見たとたんに、ジェシカは安堵した笑みを浮かべた。

「Oh。誰かと思えば、Mrsミセス.日並」

 この名を聞いて、一変に眼差しを鋭くした愛美刑事。

「これはこれは片倉日並さん。ここには、いったいなんのご用で? まさか、現場の確認しにきたわけではないでしょうね?」

 この言葉を受けた片倉日並は、切れ長で細い目をさらに細めて、赤いリップを引いた唇を強く結んだ。直後、細くて長い目を弓なりに緩くして赤褐色の大きめな瞳をキラキラとさせ、口角を上げた。これと一緒に白い歯も顔を見せて、昼の日の光を当てて輝かせていく。長い両腕両脚ともに、適度に力を抜いて突っ立っていた。

「そうねえ。確認しにきたのよ。ーーーそこで仲良く立っているイギリス人魔法使いの仕事ぶりを見にきたの。その子に頼んだのは、この私。そして、もうひとり」

「あらあら。あっさりと自白してくれたんだ?ーーー間違いない? ジェシカちゃん?」

 と、愛美刑事が声だけを横に向けた。

「Yes! プリンセス摩魚の誘拐の依頼を、Mrs.日並から受けたわ」

 自信たっぷりに答えていくジェシカ。

 これに頬を痙攣させていった日並。

 そして口もとに笑みを浮かべていく愛美刑事。

「私に、あなたを逮捕する理由ができちゃった」

「口答ていどでは、銀色のブレスレットを貰うわけにはいかないわね」

 それから、再びジェシカを見た日並。

 先ほどまでの弓なりにさせていた眼差しから一変して抑揚のない線となり、赤褐色の瞳で目の前のジェシカを見下していく。口もとの笑みも消えて、歯を見せたまま真横にした。この変容に、ネアカなジェシカが恐怖を覚えていった。そんなジェシカの気持ちを知ってか知らずか、日並は言葉を吐きつけていく。

「ジェシカ。逮捕された間抜けな姿を晒しただけでは済まずに、今度はお隣のゲルマン娘と仲良く行動していたなんてね。依頼人を失望させるんじゃないよ。あなたはクビよ、クビ。解雇。でも、ちょうど良かったじゃない。地元に帰るんだから」

「Mrs.日並……。ちょっと、待って……」震えだした。

「今日までの分は払うから、弟たちと仲良く帰って、アメリカで修行しなおしてきなさい。もう、あんたに用はない。捕まった上に敵の手に堕ちるなんて、とんだ役立たずだわ。ーーー私の前から消えなさい。ブリテン」

「そんな……」

 たちまち碧眼に涙を浮かべていったジェシカ。

 日並に顔を向けずに、隣の女を心配しだしたニーナ。

「……ジェシカ、あんた……」

 拳に力を入れて、日並を睨み付けた。

「おい、片倉日並」

「なにかしら?」白い歯を輝かせた。

「この逆さ五芒星、あんたのか?」

「そんな物騒な物、私は知らないわね」

「とぼけるなよ。ついさっき、赤い光の点滅から現れただろ? その中で“そんな芸当”ができるヤツは、ブリカスくらいだった。それがコイツ以外で“あんた”が現れた。どー見ても“あんた”だろうが」

「言いがかりもしたら? あなたのためにもならないわよ」

 日並の言葉を受けながら、ニーナは隣のブロンド碧眼美女に声を投げていく。

「おい! ブリカス!」

「なによ! ナチス!」

「司法取引だ。弟たちと無事に帰りたいなら、あたしに協力しろ」

「なに言ってんの? ねえ、あんたなに言ってんの?」

 驚愕していくジェシカに被せるようにきた愛美刑事。

「この際乗ったら? 私も手伝うから」

「早く返事しろ、ブリカス! 目の前の美女は、とっくの前から戦闘態勢だったんだぞ」

 悠長なことは言っていられないときたニーナ。

 日並とニーナ側と板挟みだったジェシカが、隣のツインテール魔女に言葉を投げた。

「条件は?」

「フィッシュ・アンド・チップス。あたしの奢りだ!」

「乗った!」

 ジェシカ、拳を立てて碧眼をキラキラとさせた。

 そして、日並からの非情な決断が下されていく。

「どうやら、そちらとお話しがまとまったみたいね? じゃあ、今から証拠を消しちゃおうかな」

 このあと、女の真ん中分けされた赤黒い髪の毛から身体の中心に添って赤い光の線が突き出して、点滅させていったときに、その左右から銃器を持った深い赤色の装備に身をかためた男たちが現れてきて、日並を挟むように並んだ。ヘルメットからインナーシャツに防弾チョッキからボトムパンツに至るまで深い赤色の装備だった。持っている銃器は、アサルトライフル。これを見たニーナが、両拳を立てて腕から六芒星の青い円形魔方陣を出現させて構えた。

 日並は片方の口角を上げた。

「まずは、十五くらい」自前の兵士の人数か。

 十五の口径が、女三人を狙って銃撃していく。

 畳に落ちていく空の薬莢と、乱雑に散る火花。

 さらに青い円形魔方陣を広げて、ニーナは防御する。

 機会を伺うジェシカ。

 銃撃しながら前進していく兵士たちの横で、空間に白い袖の手が出てきて、胸元に二発頭に一発と撃ち込んですぐに引っ込んだ。一番端の仲間が即死したことにより、それまで統率されていた動きは一気に崩れた。五の兵士が左右と後方に銃口を向けて構える。あとの九の兵士はニーナとジェシカをとらえたまま銃撃の手は止めなかった。学会の兵士は後方から左右太腿に二発、後頭部に一発と撃たれて倒れた。端の兵士も空間から出てきた素足から脇腹を蹴飛ばされて吹き飛び、その隣の兵士は仲間を蹴った脚に向けて銃口を構えたとき、胸元に二発頭に一発を受けてその隣に当たって倒れた。これを黙って見ていた日並ではない。

「誰だ!」

「誰だ、誰だ、誰えぇーだー」

 そう歌いながら、後方から兵士の首を片腕で絞めて脇腹に二発食らわせて、その隣の兵士に腕を伸ばして頭に一発、腕から解放して前を向いたまま仰いで倒れた兵士の頭に一発撃って始末した。

「蛭池ぇ、ま、な、み。でーーっす」

 ハンドガンを片手に、ウィンクした蛭池愛美刑事。

 そして、ニーナとジェシカに真顔を向けた。

「お二方、仕事して」

「あっ、はい」

 魔女二人は仲良く返事して、反撃態勢に入った。

「あたしが壁を広げる。ブリカスは飛べ!」

 そう言葉を投げて、ニーナは両手の青白い六芒星の円形魔方陣を住居の内部いっぱいに拡大した。これに続けて、跳躍したジェシカが赤色の五芒星の円形魔方陣を複数放ち、拳を突き出した。銃撃する学会員兵士たちの目の前まできた複数の赤い五芒星の魔方陣から、拳が出てきて顔を殴り飛ばしていった。続けざまに発射された第二陣の複数の五芒星の魔方陣からは、今度は足が出てきて、下腹部やら喉やらを蹴り、ときには膝を破壊していった。以下、残りは負傷により戦闘不能となって、事実上十五の学会員兵士は全滅した。これを確認したニーナは、青白い六芒星の魔方陣を解いて力を緩めた。さすがにこれで撤退するだろうと現場検証にきていた女三人が思っていた目の前で、畳から突き出してきた太くて長いとげにより、瞬く間に学会員兵士たちの頭を貫いて絶命させていった。

「わあ!」

「なあ!」

 ジェシカとニーナが目を剥いて驚愕する。

 愛美刑事は、これに一瞬だけ目を見開き驚いたが、ニーナの横に並んで日並を睨みつけていった。

「皆殺しはないんじゃないの?」

「ふん。血が欲しかったのよ。ーーーとりあえずは十五にしてみたけれど、三人相手に情けないわね。しかしまあ、おかげで“こっちの”取り引きが成立したわ」

 嘲笑を浮かべて、日並が言葉を吐いていく。

 畳に転がる自前の兵士たちの遺体を見ても“屁”とも思わないらしい。このあと、畳に滴り落ちていた血が浮き上がっていき、日並を中心に風を周囲に吹かせて、兵士たちの血液がニーナとジェシカと愛美刑事をすり抜けていった。そして、それら赤い飛沫は家の外に出ていき、家屋周辺のアスファルト舗装の道路上に落ちて二重の円形を描いた。これを上空から見たら、巨大な円形魔方陣にも見える。そして、それらを終えたのちに、兵士たちの頭を貫いていた太くて長いとげは、再び畳の中に引っ込んでいった。

「近ごろの人たちは駄目ね。結局はこうして私が直接手を下さないといけなくなる」

 不満げに述べたあと、目の前の三人に赤褐色の瞳を向けていく。

「そういうことだから、もう少し私に付き合ってちょうだいね」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ