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ナイスなGUY


 1


 同日。

 雷蔵が長崎大学で片っ端から聞き込みを開始したころ。

 瀬川響子と磯辺毅の二人は、摩魚と陰洲鱒町との関わり合いを調べていた。


 二人の居る場所は、埋め立て地を利用して建てた少林こばやし遊園地。云ってしまえば、都心部から離れて、こんな辺鄙へんぴな場所によく客が入ってくるものだと響子は不思議がっていた。珍しく且つ危険を匂わせるアトラクションが幾つか設置されてあるのが、市外と県外からの客を呼んでいるのではないだろうか。

 ここの代表的な施設では先ず、ミラーハウスは部屋を半ばを過ぎた辺りから、鉄の爪を右手に装備した男が現れるというドッキリ仕掛けがある。次にお化け屋敷には最終ステージというのがあり、そこには鎖に手足を繋がれている『木人形』が両側にズラリと配置してあって、それが二列もあるのだ。まあ、最終ステージに至っては、参加自由。

 木人形の着ぐるみのバイト生たちが、子供連れの家族に風船を渡している。球の頭に、丸太をそれぞれ胴体に手足のサイズに合わせデザインしてあった。穴は三つあり、口の部分が多分覗き穴と思われる。木人形の表情はハッキリ言って、コケシがまだ豊かだ。しかし、子供たちに殴られ蹴られ人気があるようだった。

 生まれて初めて少林遊園地に入った響子。実はこの遊園地で、摩魚がアルバイトをしていたと海原夫妻は話していた。毅は数度ほど来たことのあり、その度に子供たちから絡まれたらしい。

「凄い人だね」

「あ相変わらず、にに人気なんだ……な」

 感嘆する響子と、微笑む毅。

 メモを取った紙を見て、響子が遊園地を見渡す。

「うーん……、広い。調査しがいのあるところよね。―――摩魚さんて、みなもにプレゼントを買ってあげる為に、ここでアルバイトしてたんだよね? 妹さんには内緒にしてて……」

「そ、そうらしいんだな」

 毅の相槌の後に、ひとつ呟いた。

「同じ妹の同志として、必ず摩魚さんを助け出してみせるからね……」




 2


「あちょっす! 毅さん、お久しぶりですね!」

 シュッと手を挙げて、毅に挨拶をしてきた男がいた。その男とは、百七五の身長に、六等身半。大蒜にんにくの形に似た鼻を持つ、笑顔も爽やかナイスなGUY。

 成田龍太郎なりた りゅうたろうの登場だ。

「今日は、身内の方とご一緒ですか?」

 夏の暑さを吹き飛ばしてしまいそうな笑顔で、龍太郎は毅に話しかけてくる。響子を見ての、ひと言だった。

「ちち血は、繋がって、ないんだな」

「そうでしたか。これは失礼しました」

 龍太郎、拳と掌を合わせて頭を下げる。今度は、毅の顔を見るなりに歯を輝かせてナイスな微笑みを向けた。

「彼女さんですか?」

「いや……、それも違うん、だな……」

「そうでしたか、これはまた失礼しました」

 再び拳に掌を合わせて頭を下げた。続いて、龍太郎が響子の顔を凝視したのちに、再び毅と向き合って。

「ひょっとして、お仕事中ですか?」

「う、うん。当たりなんだ……な」

 毅から貰った返事に、龍太郎は「あーー!」という顔をすると、再び響子と向き直り拳に掌を合わせて挨拶をした。

「どうも、初めまして。自分は成田龍太郎といいます、以後よろしくお願いします!」

「あ、え、瀬川響子です」―こいつ、ウゼえ……。――

 響子はお辞儀をしながらも、同時に龍太郎へと腹立たしさを覚える。


「なるほど、海原摩魚さんを奪還する為に今のところ身辺調査しているのですね」

「そそそうなんだ、な……」

 ついて来ていた龍太郎。

「海原さんは、長く働いていました。三年以上ですね。愛想が良い方なので、お子さん達に慕われたいましたね。バイトの始めはレストランのウエイトレスと入場手続きをしていまして、やがては、下のバイト生達を使うチーフまでに上がっていましたよ」

「へえーー。あなたって詳しいんですね」

 響子があなた意外ねと感心した顔をすると、龍太郎は自信あり気に眉をキリリと決めてひと言。

「ええ、そりゃもう自分はここの遊園地で常連ですので!」

「……! ちょっと待って。それってば、貴方独りで通い続けていたってこと?」

「はい!」

 迷いのない答え。

 そのとき、響子は延髄を金属バットで殴られたかの如き感覚を受けて、ぐらつきそうになったほどの衝撃を喰らった。

 そうして遊園地内を歩きながら、この際、龍太郎の知る限りの情報を引き出していただこうかと判断した。

「他に知っている事ってない?」

「海原さんは、だいたい此処の遊園地の従業員やバイト生達と仲良かったらしくてですね、その中でも特に親しかった方がいまして名前は確か……、潮干ミドリさんという陰洲鱒町から働きに来られていた人です。しかし、働いていた期間は短かったですね」

「え、陰洲鱒町?」

 思わぬ男から思わぬ名前が出てきた。毅は驚き気味に響子へ話す。

「せせっ、瀬川さん。ミドリさんは……タヱのおおお姉さんなんだな」

「えっ? タヱちゃんのお姉さん!?」

「はい……。げげっ芸能人をして、はは働いていたんだな……。だだだけど、あんまり周りから仕事が来なかったから、ここ困っていた、みたいなんだな」

「ちちちちょっと待って! なんで今頃になってその情報を出すの!」

 突っ込む響子を余所に、毅はこう云った。

「おお俺も、このような繋がりがああ有るなんて、思わなかったんだ、な……。驚いたんだな」

「そっかあー。確かに」

 苦笑いして響子が納得した。


 そして、園内を歩いていたその先に観覧車が回っており、その脚もとには何やら珍妙な一団を発見した響子たち三人。

「ねえ、あの、成田さん」

「なんでしょう?」

「ここの遊園地では魚の着ぐるみの格好をしたバイト生って居ました?」

「いえ、あのような身なりのバイト生は見たことありません」

 嘘の無い龍太郎の言葉。

 瞬間的に嫌な物が響子の中を駆け抜けていった。その感覚を、毅から出てきた次のひと言が確信に変える。

「あああれは、いい磯野さんの御家族……に違いないんだ、な。かかっ彼らは熱心な蛇轟教のしし信者なんだ……な」

「なら一層、目を合わせては駄目。早く場所を移動しよ……」

 小声で毅に促した。

 ――――が。

 龍太郎が二人を割って、ズイッと前に出てきた。

「闘いの予感ですな!」

 そして、三人は磯野一家と目を合わせる。




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