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戦闘はBeat It'

 僕が好きな映画『アンダーカバー・ブラザー』からパロディしています。

 1


 有馬哲司ありまてつじ、長崎県立大学歴史学科教授。この大学には、留学生も多い。しかし、アフロ頭をした留学生は今まで見たことはなく、有馬教授は不思議に思っていた。相変わらずの無精髭を生やした顎をザリザリと撫でなから、陽気に周りの学生たちに話しかけているアフロ頭の男を観察。

 ―うーーむ、あのアフロ頭の青年は何者か……? いまいち思い出せん。しかも耳障りなそれでいて、印象に残るあのガラガラ声は大塚芳忠おおつか よしただ氏を連想させる。一度聞いていたなら、覚えているはずなんだが……。―――まぁ、いいか。自分の仕事に戻ろ。――

 有馬教授、追求せず。

 するとアフロ頭の男は、有馬教授の後を追うように革靴の音を校内に響かせて歩いて行った。


 コンココ コンコン コン コン


 と、有馬教授の部屋の扉が一拍の間を置いた軽快なリズム感でノックをされた。扉の向こう側に立つ者に、「どなたかな?」とたずねる。すると、返って来た声は。

「カーーン」

「カン、フー?」

「イェス!」

 力強くそう答えた者が、扉を勢いよく蹴り破って姿を現せた。その者とは、中に小鳥を数羽ほど飼っていそうだと思える位に大きなアフロ頭に、黒人と白人の混血だと見て取れる彫りの深い顔立ちに、高い鼻柱。そして、長いモミアゲ。鮮やかなブルーに染められた、デニムの三つ揃い。だが下はスラックスではなくて、裾がラッパみたいに広がっている、パンタロンである。しかし、こういった身なりでは、隠密諜報活動をするCIAとは信じがたい。更には、白い革靴を履いていた。

 アフロ頭の男は、有馬教授に向けて鋭い目線を送って身構える。

kungカン fuフー!」

 と、宣言。

 しかし、当の有馬教授は。

「誰だね君は? 工業科の生徒ならば、あとで壊したその扉を新調しておいてくれたまえ」

 ちょっと御機嫌斜め。

 状況を読むことなく、アフロ頭はその言葉に対して人差し指を立てて「チッチッチッ」と舌を打った。

「残念ネ、ぷろふぇっさー有馬。ぼくハココノ生徒デハナイ」

「では、何者か?」

「ボンド、ジミー・ボンド」

「ボンド君、私になにか用事があるのか?」

「イェス! ミス摩魚ニツイテ、オタズネシタイネ」

「そういうことか。―――しかし私は教授である以上、あまり生徒の事をペラペラと喋る訳にはいかんのだが」

「ヘーイ、ぷろふぇっさー有馬。ソンナコトハ、ぼく達ニハなっしんぐダゼ! サァ、ミス摩魚ニツイテ、とーくヲシテモラオウカ! かもぉーーん!!」

 そんなときだった。

 有馬教授の部屋に、新たな人影が姿を見せた。

「よう、ミスター・ボンド。周辺人物たちから消していくって、ずいぶんとベターなやり方じゃねぇーか。おい?」

「Oh! ゆーハ、誰ダ?」

「榊雷蔵、護衛人だ。そして、海原みなもさんの姉、摩魚さんをお前らCIAから奪還するよう依頼を受けてきたのさ!」

「What ? アノせくすぃーがーるガ、ゆーニ依頼ダト?」

「ああ、そうだ。だがな、俺ひとりじゃねぇぜ」

「ハハハ! ゆーガひとりイヨウガ二人イヨウガ、ぼく達ボンド三姉弟ノ敵デハナイ! ト、イウワケデ、先手必勝ダゼ! 護衛人ぼーい!!」

 ジミーの踵が雷蔵の胸板へとめがけて蹴り上げられた。片脚を軸に、ジミーは鍛え上げた己の筋肉を全て捻り上げて、右足の踵に全体像を乗せて振り子の如く真上に振り上げる。タイミング、スピード、パワー、全ては申し分なく蹴り出された踵であった。しかしそれは、決まればの話しである。

 だが、スカした。

 ジミーの踵がスカされた。

 雷蔵は、顎と足を引いただけ。

 ―むう……、あのアフロ野郎の踵をガードしていたら、俺の腕がやられていたな、確実に。――

 その考えを巡らせていた雷蔵が、ジミーに向けて半身の構えを取る。ジミーはアフロを揺らしながら力強く踏み出して、踵を横一線に打ち出した。それは、太い槍の如く飛んできて、雷蔵の腹を貫かんと迫ってくる。しかし、雷蔵は意図的に僅かにタイミングを外して床を蹴って踏み入れた。ジミーの踵が部屋の空を斬って音を鳴らし、対して雷蔵の拳は獲物を殴りつける音を部屋中に響かせる。

 仰向けに倒れ込んだのは、ジミー。床に背中を叩きつけられたと同時に、アフロがスローモーションに揺れ動く。床に寝ているジミーを見ていた雷蔵の眼差しは、真剣そのものであった。

 ―今のは、俺の賭が勝った……。だが、次からは分からん。さて、どう来る? アフロ野郎?――




 2


 仰向けに倒れていたジミーが、勢いよく飛び起きて雷蔵と向き合った。

「ヘーイ。護衛人ぼーい、グッドパンチダッタゼ。シカシ、ぼくノ敵デハナイネー!」

 ジミー、ウィンクを決めて浅黒い顔から白い歯を眩く煌めかせながら爽やかな笑顔を見せる。そして、「ハチャアァーーッ!」と奇声を上げてジャブを繰り出してきた。雷蔵が反射的に掌を上げて、ジミーの黒い拳から顔面を庇う。「アタッ! ワチャッ!」と、続けざまにジミーの拳が二発放たれた。雷蔵はその拳を払いのけて踏み込み、手のひらを至近距離で鞭のように打ち払う。避ける事もできなかったジミーは、彫りの深い眼に雷蔵の指先を喰らってしまった。

 一瞬、光が遮断される。

「Oh! シット!」

 己の眼球に駆け巡るプラズマの如き激痛に、ジミーは両手で顔を覆った。そして、雷蔵が一旦ジミーから飛び退けて間合いを作ったその直ぐに、床を蹴って踵を横一線に打ち出して、極至近距離の飛び蹴りをアフロ野郎の胸板へと叩き込んだ。全身のバネを使って打ち出された踵は、雷蔵の体重が数倍になってジミーの身体を貫通する。有馬教授の部屋から吐き出されて、ジミーは廊下の壁に背中全面を強打した。アフロが衝撃と共に揺れ動く。そして、壁からずり落ちていき、膝を落としてジミーは廊下に口付けをしてしまう。

 数秒間、雷蔵は廊下に伏せるジミーを睨みつけていた後に構えを解いて、アフロ男を捕獲しようとして歩き出したその直後だった。ジミーが息を吹き返して、腕立て伏せの格好を取りながら起き上がってきたのだ。即座に雷蔵は再び腰を落として構える。すると、息を切らしながらジミーが雷蔵へと手のひらをかざして「ちょっと待って」のサインをした。

「ヘ、ヘーイ、護衛人ぼーい……。今日ハ、りはーさるダゼ。ぼくハコノママオトナシク“ゴウ・ホーム”シテヤルカラ……、見送ッテクレヨ……」

「分かった。二度と俺たちの前に姿を見せるなよ」

「セ……センキュー」

 CIA特殊工作員ジミー・ボンド敗退!

 そして、退散!




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