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深い青緑

 ラヴクラフト。ブライアン=ユズナに、スチュアート=ゴードン。そして、怪獣を愛する者たちに捧ぐ。


 少女は、パジャマ姿で海の中を泳いでいた。それはどこまでも広がる、深い深い青緑の世界。しかもこれは、夢の中だということを少女はすぐに実感できた。少女が自他共に認める“かなづち”だったからである。泳げない私が泳いでいる―――こんなに分かりやすい夢って、見たのは初めてじゃない気がするが、初めてのような気もする。それにしても、よく呼吸が続くものだと思いながら、少女は暗く深い青緑の空間を掻き分けていき進んで行った。私はいったいどこへと辿り着くのか。その結末が分からないまま少女は勘を頼りに、光りがひとつも差し込まないこの闇を泳いでいく。少女の身体にまとわりつく水の感触が、まるで布団のように柔らかくて暖かく包み込んでいた。どちらかと言えば、地上よりも“この世界”がより心地良くて落ち着つける。

 もう、どれほどこの深い闇の中を突き進んで来たのだろうか。

 と、そこに広がる物が次々と少女の視界に入り込んできた。

 それら全てが、生まれて初めて目にする物ばかり。

 そこに広がる世界とは、平行といった物がいっさい存在しない、常人の不安感を誘う建物であった。歪なバランスで構成された、その建物は、巨大。この地球の海によくもまあ、このような“規格外に大規模な建造物”が収まっているなと突っ込みつつも、それをひと目見た瞬間に少女は理解した。“ここ”がどういった場所なのかも。その名前が頭に流れてきた。


 ル・リヱー。


 ここはもともと、私が本来還るべき世界なのだということ。

 地に足を着けたときに、ほんの一瞬であるが、平衡感覚を失って躰の軸を崩されたような気がしたのだが、それも気のせいだったようで直ちに持ち直して歩みを進めた。すると、少女の耳に幾人かが唱えているかのような声が聞こえてきたのだ。それは――――


 ヰア ヰア クトゥルフ・フタグン フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リヱー・ウガ=ナグル・フタグン


 その唄が鳴り止んだと同時に、少女の両脇に新たに二人の少女が現れて微笑みかけてきた。ひとりは知っている。同級生の、亜沙里。そして、もうひとりの黄金色の髪の毛の女の子は誰?緑色の瞳が印象的だ。今の私は知らないが、後から知り合うことになるのは確かだ。唱えている声が繰り返して続いていくのをしり目に、亜沙里と黄金色の髪の少女に挟まれて案内されていった先には、巨大な石造りの床に立つ四人の女性たちから向かえ入れられた。稲穂色の髪に黄緑色の瞳の女性、大巻癖毛の黒髪に赤い瞳の女性、黄金色の猫っ毛の髪に緑色の瞳の女性、シャギーの黒髪に濃い稲穂色の瞳の女性。それぞれが皆、美しい女性たちだった。そして招かれた瞬間、少女はたちまち美しい黒髪の黒い瞳の女性へと成長していた。両脇の二人も同じように成人して美しくなっていた。少女だった黒髪の女性が真ん中に立ち並んで、合わせて七人の女性たちの瞳から虹色の光を発したその直後、さらに海底深くから金色の眼を輝かせながら、虹色の鱗を持った巨大な龍のような怪物が現れてきた。



 大海獸ダゴン 第一部:暗青




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