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9.エルボルタは旅立つ、どこへ?

良識を持っていたユーリシアスの行動のお陰で、今回は、エルボルタの王城では死者を出すことはなかった。


そう、今回はである・・・


だが、これからエルボルタの国は、死へ向かうことになるだろう。


その原因は、精霊に愛されている娘であるアンジェリカに対して、エルボルタの国が、王太子フランツを中心に冤罪をでっち上げる計画をした上で、罪人として地下牢に押し込むという卑劣な行為をしたことで、精霊たちからの怒りをかうことになったからである。


まだ、多くの精霊たちは、精霊の国にて行われている年始の行事に出ている為に、大陸全土、どこにも精霊の姿は今はない。


だからこそ、エルボルタの国は、異変に気付くのも幾分遅くなるであろう。


気付いた時には、様々な災害が国を襲っているはずだ。


精霊が滞在する限り、この世界には精霊の力が大なり小なりと施されている為、大地には植物が実り、また、水も自然に得ることができているのだ。


その環境の上で、人間それぞれに精霊より加護が与えられるということは、人間そのものに魔法の力を与えるということになる。その力を得る者が多い国程、国そのものが大きく発展していくのである。


今、エルボルタの王城では、「精霊との契約」がなされなかったことで騒ぎになっていることであろう。


王太子フランツの計画が見事に破綻してしまったのだから・・・


あぁ、何と愚かで残念なことだろうか、エルボルタは、これから、ただ沈んでいく未来しかない。


そんな悲惨な未来しかないエルボルタの王城から少し離れた高台の場所で、貴族の令嬢一人と精霊二人が立ち止まる。


「ところで、ユーリシアスにお聞きしたいのですが?」


ふと、アンジェリカが王城を目の前にしながら、対面にいるユーリシアスに問い掛けた。


その言葉に、少しユーリシアスは身構えてしまう。


「な、何でしょうか?」


常に、精霊界でも上流階級にいるユーリシアスは、これまで何事に於いても冷静に対処をしたりと、精霊界の重鎮としても一目置かれているのだが、今日の出来事からはその余裕もなくなってきている。


それは何故かというと、この黒髪のアンジェリカとは会話がなかなか成立しないことがしばしばあったからである。


ちょっとアンジェリカからの言葉が怖く感じていることは、決して悟られてはならないとユーリシアスは思うのだった。


「あのですね?ユーリシアスは、わたくしが魔法を使えるようになっていることは気にもならないのかと・・・」


アンジェリカがサファイアの瞳をパチパチと数回瞬きしてから、ユーリシアスの顔を上目遣いで伺ってみせる。そんな姿を目にしたユーリシアスは、、『何だか色々とあったが、やはり私が育てただけあり、アンジェリカは可愛いな!』と、少し前の蜂蜜色の髪をしたアンジェリカの様相を思い出しながら、煌めくサファイアの瞳をもつアンジェリカに見とれてしまう。そして、あろうことかアンジェリカからの質問を聞き流してしまったのだった。


「ユーリシアス?聞いていますか?」


「あっ?ううん?」


こちらが尋ねているというのに、ユーリシアスは記憶を懐かしい姿のアンジェリカへと飛ばし、生返事を繰り返すばかりなので、アンジェリカは、すっとサファイアの瞳を細めだした。


そして、手を胸元辺りまで上げだす。


今まで、夢の中に飛んでいたはずのユーリシアスだが、そのアンジェリカの一連の動作については、何故かすぐに目に入った!そして、ここで漸く、我に返るのだった。


「わぁっ!待て!アンジェリカ、何をするつもりですか!」


ユーリシアスの言葉では、アンジェリカの行動を止めることは叶わなかった。


だが、危機一髪、ユーリシアス自身への光線の飛来は免れたのだった。


ずびゅーーーんと音と共に光の玉が一直線に飛んでいく。


そして、爆音が地響きと共に轟いた。


(ひィ!)


ユーリシアスは光の玉が消えた方を、恐る恐ると振り返る。


あそこには、確か、王太子フランツたちが住んでいるお城がありましたよね?


黒く煙が立ち上がるあの場所には、お城存在していたはずだ・・・


ようやく煙が少し薄れた先には、半壊した城が現れた。


(良かった!形として、お城だと辛うじてわかりますね!)


「いや!良くないでしょう!アンジェリカ!また、あなたは何てことを!」


後ろにある城を指差して、ユーリシアスが、この日、何度目かの説教を行いだした。


「でも、ユーリシアスが聞いてくれないので、実演が効果的かと思いまして」


ほっそりした頬に人差し指を押し当てて、悩んでいる素振りをするアンジェリカは、確かに黒さはあるが、美しくもありまた可愛くもある。だが、ここでまた見とれてしまうと、命の保障がない!


「いえ、実演は結構ですよ!話も聞いていますから!」


「そうなんですか!」


ユーリシアスの言葉にアンジェリカの目が丸くなる。どうやら、アンジェリカにさえも、抜け殻のユーリシアスだったと見抜かれていたようだ・・・


「で、質問でしたよね?、えっと・・確か・・・」


暫し、二人に沈黙が巻き起る。


(えっと?うわっ!ヤバいかもしれない!)


ユーリシアスの美しく精鍛な顔に汗が浮かびだす・・・


そんな時に、小さな光がゆらゆらと揺らいで、焦るユーリシアスの元にやって来たのだった。


「ユーリシアスさま、ユーリシアスさま、アンジェリカが魔法を使えることはご存知ですよね?」


光の形をした下級精霊が、こっそりとアンジェリカの質問を教えてくれた。


「?!」(下級精霊、おまえは何て頭も良くていい奴だ!)


下級精霊に向けて一つ頷きを返したユーリシアスは、アンジェリカに再び向き合うことが出来たのだった。


「アンジェリカが魔法を使えることについてですよね?」


漸く、話し出したユーリシアスのその言葉に、アンジェリカが静かに頷いてみせる。


どうやら、質問はあっていたようだと、ユーリシアスは少し安堵したのだった。そして、質問の答えをきちんと話せねばと思い直して、ふーっと深く息をつく。


そう、これから、精霊の加護も持たないアンジェリカが、何故、魔法を使えるかという重くて長い話をする為に、ユーリシアスは話の筋道を頭の中で思案しだす。


アンジェリカにとって、生い立ちにまで、いや、その先から話せねばならないだろうことに、ユーリシアスは一人言葉を選び悩みながら、ぽつり、ぽつりと語りだしていく。


「アンジェリカが、何故、加護もなく魔法を使えるかは、それは・・・」


あまりショックを与えないようにしなければ、そんな事を考えて躊躇うユーリシアスに


「わたくしが、精霊王の娘だからですわね?」


何の戸惑いもなくアンジェリカが、さらっと口にしたのだった。


「えっ?知っていたのですか?」


ユーリシアスが驚いたのは無理もない。


これはずっと隠していた事柄だったからだ。


「知っていたというよりも、ユーリシアスが出会った当時から話してくださっていた『精霊王と人間の少女の恋物語』が、心の奥底でずっと引っ掛かっていましたの。でも、わたくしが精霊王の娘だと気づいたのは、この姿のわたくしになってからですわね」


そう言って、自身の黒い髪を指に絡めて遊び出すアンジェリカ。


一方、己に質問する必要はあったのかと、アンジェリカの言葉に不貞腐れるユーリシアスがいた。


「でも、わたくし、色々と精霊としては外れていますよね?」


確かにである。


基本、精霊の魔法は人間を助ける部類のものであるのに、何でだろうか?、アンジェリカの使う魔法はそれを大きく超えている。


まあ、本人の力の加減もあるのかもしれないが、でも、何か腑に落ちないこの感じ!


「わたくしの魔法、どちらかというと、邪な魔法ばかりですよね?」


そう、この娘アンジェリカ、精霊王の娘であるのに、癒しとはほど遠い魔法を使い熟している。


でも、決して、癒し以外が、邪な魔法ではないので、皆さん理解して欲しい!


「えっと、魔法は、炎系が扱えるのですか?」


ユーリシアスが何気に問い掛けてみると、アンジェリカは小首をかしげながら、自分の指を折り数え出す。


「いえ、それ以外も使えそうですわ」


そう言って、アンジェリカは指を王城の方に差し向ける。


「おい!」


ユーリシアスが止める間もなく、アンジェリカの魔法は王城に向かっていく。


すると、王城周辺一体に怪しげな雲が現れだしたかと思うと、遠目でもはっきりとわかる雨が王城周辺のみに降り注ぐ。しかも、かなりの雨量である。


そして、次に、アンジェリカが指先を用いてパチンと鳴らすと、天に浮かぶ怪しげな雲からピカリと稲光が城へ向けて走ったのだった。


「お、落ちた・・」


ズ、ドドドおーーんと再び王城に地鳴りが響いた。


「アンジェリカ、わかりましたから、もう、王城への実演はいいですから!」


この日、たった一日にして、王太子フランツのいる王城は既に何度も天災が起きてしまったぞ!


遠目にでも、もう城とは思えない瓦礫の山に近い形状のナニかが見える・・・


そんな光景に、顔色を青くしたユーリシアスが慌ててアンジェリカを止めだした。


一方、自分が扱える魔法について、ユーリシアスには、特に懇切丁寧に見せて教えようと張り切るあまり、若干、魔法を使うことが楽しくなってしまっているアンジェリカがそこにいた。


「えーっ!まだ、使える魔法はありますのよ?」


ちょっとユーリシアスに止められて、ほっそりした頬をぷくっと膨らませ、残念なそうな顔を向けるアンジェリカ。その可愛い仕草を見てしまったユーリシアスは掛ける言葉も柔らかくしてしまう。だが、この後すぐに、バカなことを言ってしまったと大きく後悔するのだった。


「城に向けるのは、絶対に駄目ですよ」


その言葉に、そうか!と納得したアンジェリカは、ユーリシアスへにこりと微笑み返す。


そして、ユーリシアスへ向けて、自分の能力について懇切丁寧に教える為に、魔法を発動させたのだった。


そんなアンジェリカも、この時ばかりは、直接、ユーリシアスに見せるという大事な場面だったことから、扱う力も最小限にした風(微風のつもり)の魔法を放ったのである。


アンジェリカから放たれた風の魔法は、空を切る速さで、スッとユーリシアスの横を通る。


そして、バサリと風の音とは非なる音を、ユーリシアスの耳に運んできた。


風がユーリシアスの頬辺りを掠めたような気がしたかと思ったら、急に、頬に涼しさを感じたのだった。


「えっ?」


何だか、左の頬ら辺りが涼しくなっているような?、しかも、片側の髪に違和感があるような?


珍しくユーリシアスが小首を可愛く傾ける・・・すると、その傾けた先、目が捉えた惨状に、思わず悲鳴が上がった!


「うぎゃーーーー!わ、私の美しい黄金の髪が散乱しています!!」


ユーリシアスが言う通り、地面には、ユーリシアスの髪であろう黄金の髪が散らばっていたのだった。


「まあ!ユーリシアス、素敵な髪型になりましたわね!」


アンジェリカの対面には、片側の髪が耳から下がすっぱりと消えた美青年の精霊が、涙を流して立っていたのである。


「アンジェリカ!もう、もう!実演は禁止ですよ!」


この日、精霊王の娘によって、エルボルタの国が死へ導かれ旅立ったのは言うまでもなかった。





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