7.新しい扉が開かれる?
この回より、少しコメディ要素を取り込んだものとして書いています。
より楽しんで頂ければ嬉しいです。
あれから地下牢を訪れたユーリシアスは、牢の惨状を目にし言葉を失った。
小さな精霊の痕跡が残る牢内は、魔法により牢がこじ開けられた跡があり、傍らには、気絶する騎士が転がっている。
(ここにアンジェリカが捕らわれていたのかもしれない。だが、一体、誰がこのような魔法を・・・)
牢内で放たれた魔法を見てからは、ユーリシアスの疑念が増していく。
しかし、こんな空になった牢で時間を割く訳にもいかず、ユーリシアスは地下牢を後にして、再びアンジェリカの姿を追うことにした。
どれだけ、城内を見て回ったか、ユーリシアスにも少しの焦りが見え出した。
そんな時だった虹色に輝くあの指輪が、アンジェリカの行方を追って彷徨うユーリシアスの脳に何かの信号を送るかのように浮かんだのは・・
「!?」
指輪の映像が見えたと同時に、ユーリシアスは、転移の魔法を発動した。
指輪に導かれてやってきたユーリシアスが、最初に目にしたのは、黒髪の少女だった。
咄嗟に、愛し子であるアンジェリカの名を上げたが、その先にいた娘の容姿は、自分の知るアンジェリカとは随分異なっている。
黒髪の少女を目にしたユーリシアスは、辿り着いた現状に少し困惑をしてしまう。だが、そんな彼は、その場にて、更なる驚きをすることになる。
なんと!黒髪の少女が自分の名を呼び返したのだった。
「まあ!、ユーリシアスもこちらに戻っていらしたのですね!」
思わず、固まるユーリシアス。
(えっと?どなたでしょうか?)
言葉として、口からは出なかったが、問答は心の中で行われている。
(えぇ?誰だ?)
自分が知るアンジェリカは、蜂蜜色の髪をしたサファイアの瞳をもつ麗しい少女である。
こんな黒髪の娘は知らない・・・
名を呼ばれたにも拘らず、ユーリシアスは、黒髪の少女を取り敢えず、視線の隅へ追いやり、他の情報収集に取り掛かる事にしたのだった。
いや、決して、ややこしい問題を後回しにしたかった訳ではない。一刻も早く、愛し子のアンジェリカを見つける為の行動であると誓うユーリシアスである。
そんないい訳?をしながら、部屋をぐるりと見渡すと・・・
確か、精霊の国から急ぎエルボルタの城に戻って、割とすぐに訪れたことがあったと記憶する王太子フランツの自室に、どうやら今再び舞い戻って来たようだ。
あの時、ここを出る時には、城を襲う大きな揺れが起り、室内の家具や装飾品は転倒や落下をし、酷い有様だった記憶も微かにあるが・・・
でも、あの奥に見える壁に大きな黒く焼け焦げ破壊された跡なんかは、どう見ても揺れにより起きた産物には見えない。
他にも、地下牢や城内にある各部屋でも良く見掛けた光景・・そう、扉を魔法?によって攻撃を受けて、ぶち開けられた大穴がある。
そう、フランツの自室にもそれは出来ていたのであった。
ユーリシアスが精霊の国に帰国していたほんの短い時間で、このエルボルタでは、このように、扉には大きな穴を開けるという、インテリアの流行が訪れたのだろうか・・・
個人的に、このインテリアには称賛はできないな・・・と、ユーリシアスは思ってしまった。
そんな光景を目にしたユーリシアスは、色々と戸惑ってしまっている。
そして、フランツの自室に来てから、ずっと気になりながらも、視界に入れたくなかった人物たちの呟きやうめき声が、この時、はっきりと耳に届いてきてしまった。その為、とうとう嫌々ながらも、その方角にしっかりと目を向ける必要が出来てしまう。
見たくはなかった方角の先・・そこには、目が死んでいる王太子のフランツが鎮座している。
(あぁ、もう、これはダメだ・・・)
フランツは、目の焦点が合わず天井を見上げながら、何かをブツブツと呟いているではないか・・・
いや、まだ、このフランツの姿は可愛いものかも知れない。
フランツから少し離れた位置に横たわるドレス姿の人形?じゃない、人間?(ではないと思いたい!)は顔の部分が焼けただれて、見るも無残な状態でいる。
すーーーっと、一息ついたユーリシアスは、考えたくはないが考えてしまう。
(これやったの、YOUですか?)
そして、視線を、黒髪の少女に移すと何かが通じたのか、少女はニコリと微笑みを向ける。
「そうですわねぇ?」
と返されたのだった。
「いや、そうですわねぇ?じゃないでしょう!これ、あなたがやったのですか?!王子、廃人みたいになっていますよ!で、あそこに横たわる人形?あれは、アバズレミーナですよね?もはや、ミーナの武器だった自慢の顔は原形すらないじゃないですか!」
黒髪の少女からあっさり返された言葉に、とうとうユーリシアスはこの惨状に真っ向から向き合う事を決めたのだった。
捲し立てるように、ユーリシアスの言葉が次々に少女に向かうが、少女は、小首をこてんと掲げているだけである。
「あなたがしたことは、これ、もう犯罪ですよ!どうするんですか?これでも、あの王子は国にとったら貴重な存在ですよ?どこの魔法使いだか知らないが、暴れるならもっと上手く暴れなさい!(いや、それもどうなんだろうか?)」
誰かもわからない少女ではあるが、この場に引き合わせた縁(どうやら、ユーリシアスを知っているみたいだし)だと思い、ユーリシアスはいつしか、少女にお説教をしだしていた。
ガミガミとユーリシアスがお説教をたれているのを、少女はきょとんとしながら、一応は黙って聞いている。
(反省していないな?この小娘!)
こんな惨事を起こしていながらも、反省の色も見せないふてぶてしい小娘に、ユーリシアスはイライラが募りだす。
(こんな惨事を引き起こしたのが、アンジェリカなら、もう涙を目にいっぱいに溜めて、『ユーリシアスはさま、ごめんなさい』と謝罪しまくりだぞ!まあ、うちのアンジェリカは、こんな惨事を起こす事は永遠にないでしょうがね!)
と、心でそんなことを思ったユーリシアスだったが・・・
「えっ!?そうだ!アンジェリカ!」
そこで、はたっと、気付いたユーリシアスは全身を固まらせてしまう。
自分は、今、何をしているのだと!そう、一刻も早く、涙に濡れたアンジェリカを探さなければならないというのにだ!こんな、知りもしない小娘に説教をしている場合ではなかった。
己の無駄な行動に反省までしだしていたユーリシアスに、何故か返事が、その時返されたのだ!
「はい、どうなされましたか?ユーリシアス?」
答えたのは、ユーリシアスの目の前にいる魔女・・もとい、黒髪の少女だ。
きょとんとした顔は変わらず、じーっとユーリシアスを見つめている。
「アンジェリカ?」
「はい、ここに」
やっぱりね。返事は目の前から返されましたよ・・・
「えっと・・アンジェリカ?」
「はい、わたくしはアンジェリカです」
その返しに、ユーリシアスが膝を突いてしまった。
(嘘ですよね?アンジェリカじゃないよね?)
「ちょっと、髪色が黒くなってしまって。わかりづらいですわね?」
黒い髪を一房手に取り、アンジェリカは首を掲げる。
(いやいや、待て!髪の色の問題か?)
ユーリシアスは、アンジェリカの妙に切り替えの良さやら何やらに驚く・・
「アンジェリカ、どうしたの?えっ?何があったの?どうして、そんな子になったのーーーーーーーーー」
当の本人よりも、ユーリシアスがアンジェリカの変貌が受け入れられないようで、最後は雄叫びをあげていた。
「さあ?、わたくしにもよくわかりませんが、基本、中身は変わっていませんことよ!」
そう言って、美しい笑みを向けたアンジェリカであるが、ユーリシアスは思う。
(まるっと、別人ですよ、アンジェリカ!!)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
いいね、☆印、ブックマーク、お気に入り登録などで、応援していただけると大変嬉しく思い、また、活動への励みになります。
どうか、よろしくお願いいたします。