23.黒い令嬢は待っている
新しい旅の仲間?を迎えたアンジェリカ御一行は、次なる目的地となるゲルダロ国へと歩みを進めていたのである。
宿屋を使いながらの旅も、アシェフィルド国の国境を超えて、早3日ほど過ぎていた。
「しかし、おかしいですわね?」
そう言いながら、アンジェリカは小首を傾けたのである。
その姿を見たダゼが、同じく首を傾げてみたのであった。
そんな二人を見たユーリシアスが、少し小さなため息を吐き出してから、アンジェリカに返事を返したのである。
「何がおかしいのですか?」
澄ました顔を向けながら、本日の向かう場となる教会への歩みを止めることなく進むユーリシアスに、今度は、アンジェリカの方が深いため息を吐き出したのである。
そして、その姿を見たユーリシアスは、美しい顔の眉間に筋が刻まれたのであった。
「はァーー、もう、ユーリシアスったらこの状況を見て気づきませんの?」
ユーリシアスの発した言葉に呆れを込めたアンジェリカは、わざとらしく首を左右に振ってみせたのである。
「はァ、それでもあなたは上級精霊ですの?呆れますわ」
再びため息をつかれるアンジェリカの姿に、さすがにユーリシアスもムスッと顔を顰めて見せる。
「いや、何について呆れられているのか、ほんと、わかりませんよ」
ムスッとしながらも心外であると抗議するユーリシアスに、アンジェリカの目はジッと見つめている。
(ええ?なに?その目は何なんですか!)
アンジェリカの目に、戸惑うユーリシアスの姿を見ながら、ここでダゼが口を開いたのであった。
「アンジェリカ、仕方ないゼ、こいつは、ホラよ?、(仮)上級精霊だかんな」
そう言ったダゼの口角が上がっている。
「お、おまえーー、本当に腹が立ちますね!誰が(仮)上級精霊ですか!わたしは、正真正銘の上級精霊ですよ!」
ダゼの揶揄いの言葉に怒り心頭のユーリシアス、この展開はもはやお決まりとなりつつあるのだが、そんな二人の様子を目を細めて見ているアンジェリカに、カチェがふわふわと耳元まで飛んできたのであった。
「ねえねえ、アンジェリカ?その、おかしいって話はなに?」
カチェの耳打ちによって、アンジェリカの目元はいつものものとなり、そして、今度は口元に人差し指を当てて見せたのであった。
「そう、そうでしたわね?ところで、カチェは気づきませんこと?」
「気づく?」
アンジェリカの問い掛けに、小さな光は一瞬、発光を弱めたのである。
「そうです。気づきませんか?」
そんな小さな光に向かって、アンジェリカの麗しい瞳がうるうるとして、カチェを見つめている。
「あぅ、・・き、気づいていた、よ」
小さな光が、アンジェリカのうるうるな瞳に耐えられなくなり、そう答えた時、先程まで、揶揄いあっていた二人の精霊が一斉に、アンジェリカとカチェの方へ振り向いたのであった。
((それは、嘘だろ(ゼ)))
二人の精霊は、小さな光が出した言葉に疑いの目を向けて、おまけに、鼻で笑っている。
「まあ!やっぱり、カチェは気づいていたんですね?」
さすがですわ!キャーー!なんて言いながら、小さな光に向けて手をポンポンと柔らかく触るアンジェリカ。
その姿を見た精霊二人が、目をスーッと細めて見ている。
((いや、カチェ、おまえ、嘘は良くない(ゼ)))
「あっ、うん、気づいてたよ」
嘘に嘘を重ねると、トンデモナイことになるんじゃないかと、大小二人の精霊が光りの玉を眺めている。
((さあ、言え!わかっているのなら言ってみろ!))
自分達がわかっていないから、当然、最下級の精霊が知るはずはないと、高を括る人型精霊たち。
だがしかし、ここで奇跡は起きてしまったのである。
「お、おもてなしがない」
小さな声ではあったが、そのカチェの言葉はしかとアンジェリカの耳にも届いたと同時に、アンジェリカから割れんばかりの声が上がったのであった。
「キャーーーーっ!さすがですわ!カチェはやはり素晴らしいです!」
大きな声を上げてアンジェリカはわざとらしくカチェに称賛の言葉をかけている。
「どこかの(仮)精霊とは違いますね!カチェは本物の精霊ですね!」
さっきまで、名前が(仮)だったはずが、いつしか、上級が(仮)扱いになり、今は、精霊ですら(仮)とされたユーリシアス。
「いや、それはどいうことですか?そんなことは、わたしにもわかっていましたよ!」
精霊と見做されないとまで言われたら、さすがにユーリシアスも黙っていられない。
「あら?精霊から格下げになったことがわかっていたのですか?」
「なっ!」
あまりにも酷いアンジェリンの言葉に対して、言葉を失うユーリシアス。
「ほえー、あんた、精霊ではなくなったのかぁ?」
言葉が出ずに狼狽えているユーリシアスに対して、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべるダゼ。
そんな姿は目に付いたようで、ユーリシアスがキ゚ッと睨みつけたのである。
「おまえ、聞いていなかったのか!アンジェリカは、おまえにも(仮)を付けているんだぞ!」
そう言われて、ダゼはアンジェリカの言葉を思い浮かべて、ここに来て頭を抱えたのである。
「嘘だろ?俺もか?」
「まあまあ、精霊ではなくなっても心配しなくてもよろしくてよ。旅は道連れというでしょ?変わらず、付いて来てもよろしくてよ!」
あれだ、言葉は優しい風には聞こえるが、内容には物凄く違和感を感じるのはなぜなのか?
「まあ、アンジェリカの戯言は、この際、聞き流しておくとして・・」
そう言うユーリシアスの顔を、ダゼは驚愕の表情で見返している。
「あんた、き、聞き流せるのか?」
その態度に、ユーリシアスはコホンと一つ咳払いをしてからニコリと微笑みまで向けたのである。
「アンジェリカに何を言われようと、わたしの上級精霊とした身はかわりませんからね!」
当然ではあるが、何故かダゼには、そんなユーリシアスが眩しく感じたのであった。
その二人のやり取りを、当のアンジェリカはつまらなそうに眺めていたのである。
「あのですね!あなたたちのことよりも、大事なのはですね!」
「わかっていますよ」
痺れを切らしたアンジェリカが、ユーリシアスたちに向かって吠えると、ユーリシアスの方も「はいはい!」と言いながら、アンジェリカの疑問に向き直ることにしたのであった。
「確かに、ゲルダロの国境を超えたというのに、王城からの使者とはまだ顔合わせはないですね?」
国境を超えて、かれこれ三日も経つ。
国境の関所では、自分たちの身元も証し、また、アシェフィルドからの通行許可書までも見せてもいる。おまけに?道中では聖女活動もきちんと行っての旅。
もうそろそろ、国の中枢にはアンジェリカのことは届いても良いのは確かではある。
アンジェリカたちの方も、今日には国の主要地域に入るところなのだから。
「王都にでも入れば、声がかかるのかもしれないですね?」
そうもうすぐ王都である。
人通りも増えてきており、精霊たちの方もあちらこちらと見掛ける。
「王都!」
王都の言葉に、アンジェリカの気分はいくらか上昇したようで、先程までの雰囲気も少し和らいだ様だ。
それを見た、ユーリシアスの方もほっと気持ちが落ち着いたのである。
あれから、ウキウキモードとなったアンジェリカは、ユニコーンの背に乗り、ぐんぐんと速度を上げ、予想を遥かに超えたスピードだったこともあり、あっという間に王都に到着したのであった。
ゲルダロ国の王城が聳える中心地は、とても賑やかで活気もあった。
目当ての教会は、この王都にはないのだが、逆に王都に建設された教会は壮大な建物でアンジェリカについては、大興奮の状態になっていた。
「す、凄いですね!」
間近で見上げる教会は、本当にスケールも大きくて、アンジェリカは圧倒されたのか、小さなお口が開いたままでもあった。
「すんごいね」
カチェも大きく発光を繰り返して、驚きを現わしているのだった。
「これは、凄いです!これならば、さぞや、おもてなしへの期待も高まるというものですわ!」
目がキラキラしているアンジェリカの狙いは、教会の規模からした自分への接待への期待であった。
「なっ、情けない」
自分の育てた少女が物欲まみれに成り下がった姿にユーリシアスは額を押さえてしまう。
そんなユーリシアスの気など知ろうともせずに、アンジェリカの気持ちは爆上がりである。
だがしかし・・・
いつ王城やあの王都に建つ教会から使者がやって来てもいいように、アンジェリカたちは王都に数あるお洒落なカフェなどには入らず、店先で飲食が可能なところを選んで、待ち人来るやと、だんご?なる名のお菓子を口に入れながら過ごしていたのではあるが・・・
「もぐもぐ・・・」
山のように積まれていただんごたちがアンジェリカの口へと消えていくだけで、何も起こらないという・・・
「もう、おだんごがなくなりますよ!」
そりゃあ、食べればなくなるでしょうよ!とは言えない精霊たち。
皿にのるだんごが消える度に、アンジェリカの言葉もなくなり、またまた不穏な雰囲気が立ち込める。
「おかしいですね?」
さすがにおかしいと、ユーリシアスも思う。
王都に入ってからも、誰に声を掛けられることもない。
(どういうことだ?)
自分たちのいる店の後ろには、ゲルダロの王城が見えている。
「もう!こうなれば」
急に立ち上がったアンジェリカが店の後ろをを振り向きながら言い放ったのである。
「おもてなしをさせるしかないですわ!」
指先を王城に向けてたアンジェリカは「待っていなさい!」と言って、急いでユニコーンを呼びつけたのだった。
その様子に圧倒されてしまったが、長椅子には、あんなに沢山あっただんごが皿だけになっているのが見えたのだった。
(まあだ、食べる気なんですね!)
ユーリシアスの呆れた姿は、先行くアンジェリカには届く事はなかったのであった。
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