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2.目覚めし魔女、さよなら聖女

「さあ!、ここに入れ!」


屈強な騎士の大きな声がアンジェリカに向けて発せられたと同時に、捕らえられたアンジェリカは、城の地下にある牢へと放り込まれたのだった。


ガチャンと牢の鉄の扉が閉まる、そして、アンジェリカの目の前で大きな錠が取り付けられた。


その一連の動作を見てアンジェリカは、これからの自分の未来を思うと再び絶望をする。


(あぁ、わたくしは、このまま罪人として裁かれてしまうのね・・)


牢に錠を取り付けた騎士たちは、牢の中で蹲るアンジェリカを睨みつける。


「おとなしく聖女としての役割だけしていればいいものを!国を乗っ取るような真似をするから、この様な目にあうのだ!」


ふん!っと、鼻を鳴らした騎士の一人が、ガシャンと牢の鉄柵を掴みながらアンジェリカに向けて、嫌味な言葉を放った。


「まあ、お前の役割はもう済んだ。あとは、フランツ様が精霊と契約し、この国を発展してくれるだろうよ。今度、お前と会う時は、この剣で楽にしてやるときだな」


そう言って、一人の騎士が腰に差していた剣を鞘から引き抜き、剣先をアンジェリカに差し向けて見せる。

そして、最後には、あははは・・と、地下に降りて来た数人の騎士たちが、一斉に、アンジェリカを嘲笑い、その声が地下牢内をこだまする。


「もしかしたら、次に来た時は死んでるかもしれんぞ!何でも、もうこの女は、聖女ではないのだからな!」


次々に、アンジェリカへの暴言を吐いては、騎士たちが声を上げて笑い合う。


アンジェリカは、その姿を見ることが辛くなり、頭を下げて耳は手で塞いで、体を小刻みに震わしている。


暫く、そんな状況が続いていると、地下牢から上方に続く階段の方から大きな声が聞こえて来たのだった。


「おーい!、直ぐに、見張り以外は、会場に戻れ!」


聞こえてきた言葉に、アンジェリカを牢へ押し込んだ騎士たちが目を合わせた。


そして、一人の騎士を残して、他は、アンジェリカのいる牢を離れて城の上方へと上がって行った。


先程までのことが嘘のように、急に牢の中は静かになった。


残った一人の騎士も、アンジェリカの傍から離れて二重目となる分厚い牢の扉を閉めた。


騎士が目の前から消えても、アンジェリカは顔を上げれずに、目を伏せ耳を塞いでいる。


そして、閉じたはずの瞼からは、ぽろぽろと涙が零れている。


(どうして、どうして、この様なことになったの・・・)


アンジェリカは、体を震わせながら、今の状況になった経緯を思い返す・・だが、自分が、牢に放り込まれるようなことは、一向に、やはり思い浮かばない。


一体、なぜ、ここに居るのだろうか?


今日は、年に一度の『精霊が生まれし、祝福する日』だ。


精霊信仰が薄くなったこのエルボルタの国でも、この全大陸に合わせて、今日は、国をあげて祝福をする日。


上位貴族を中心に名だたる貴族たちは、王城に集まり、謁見の間にて、国王陛下と共に「精霊へ感謝」を伝えるという儀式へ参列をする。


そのような儀式には、本来ならば、アンジェリカのような子爵家の娘という立場では、儀式に参列する立場にはないのではあるが、先程から、幾度もアンジェリカとは違う俗称とした「聖女」の呼び名から、国王陛下からの参列の許可を賜ったのだった。


しかし、当のアンジェリカは、この「聖女」との呼称には気持ちが伴わず、今日まで過ごしていた。


アンジェリカは、小さな領地をもつ子爵家の長女として生を受けた。


両親は、下位同志の政略結婚であり、二人には、愛というものはなく、ただ、義務だけの関係であった。


そんな二人の元に、生まれたアンジェリカ、恐ろしいことに、両親にない髪色と瞳を持って生まれてきたののである。


麗しいはずの娘、だが、娘の容姿が両親に似ていないことで、義務だけの繋がりであった子爵夫婦には、大きな溝が出来てしまった。


当主の子爵は、夫人の不貞を疑い、口論の日々が続く。


夫である子爵に、暴言を浴びせられる夫人は、自分が産み落とした娘であるはずなのに、アンジェリカへの愛も完全に失せていった。


そんな子爵夫婦の関係は、完全に破綻してしまっていたことにより、アンジェリカは使用人によって育てられていった。


両親からの愛は与えられはしないが、麗しい少女であるアンジェリカは、色々なものに愛されて成長していく。


その一つが、エルボルタの国では、年々、精霊の姿が見られなくなってきているのに、アンジェリカの傍には、何故か、精霊が姿を頻繁に現していた。


他の人には見えない小さな精霊、アンジェリカの傍には、様々な精霊が現れる。


小さな頃は、精霊のこともよくわからず、アンジェリカは「おともだちがいるの」と言って見せるが、ひとり遊んでいる姿を、周りの者に見せていた。


そんな風に、様々な精霊と出会ってきたアンジェリカに、ある日、これまで見た事のない大きな姿の精霊が現れた。


その精霊は、アンジェリカと出会った時に、膝を折り、胸に手を当てて頭を下げた。


「初めまして、アンジェリカ。随分、あなたを探しましたよ。今日からは、私があなたをお守り、お育て致します」


そう言って、アンジェリカの左手の中指に、虹色に輝く石が飾る指輪が嵌められた。


「きれい!」


そうっと、アンジェリカは、左手の中指にある虹色の石を撫でる。


「お約束ですよ。アンジェリカ、この指輪は、私とをアンジェリカを繋ぐもの。どうか、外すことのないようにしてくださいね」


美しい青年の姿をした精霊が、にこやかな笑みを浮かべて、アンジェリカの手を握る。


そんな青年の美しい笑みに見惚れたアンジェリカは、静かに頷いた。


それが、アンジェリカと光の精霊との出会いであった。


光の精霊、ユーリシアスは黄金の髪色をもつ美くしい青年の姿で、アンジェリカの前に姿を現し、アンジェリカと共に時を過ごしていった。


これまでの精霊たちもアンジェリカと過ごしてはいたが、どの精霊も、それほど長くは傍にいることはなかったのだが、光の精霊であるユーリシアスは、何年もアンジェリカの成長を見届けていったのだった。


そんな何年も共に過ごす中で、ユーリシアスはアンジェリカに、精霊についての知識を教えていく。


その知識の中で、光の精霊が使える魔法についても教え、ユーリシアスは、「正しいことに使うのならば、私は、あなたに光の魔法を使えるように許可を授けます」と、アンジェリカへ、ユーリシアスが使える一部の魔法の使用を許可をしたのだった。


「正しいこと?」


アンジェリカは大きなサファイアに似た瞳を瞬かせて、こてんと、首を掲げた。


「そう。アンジェリカが助けたいという心からの願いの元ならば、私はあなたに魔法を許可しますよ」


ユーリシアスが述べた言葉の理解を全面的には出来はしなかったが、アンジェリカはユーリシアスが何かを許してくれたことに喜びを感じた。


「ありがとう。ユーリシアスさま」


アンジェリカは満面の笑みをユーリシアスに向けた。


その日から、アンジェリカはユーリシアスの導きの元、光の精霊が使える癒しの魔法を少しづつ周りの者たちへ施していったのだった。


そして、その力が、不仲であった子爵の両親の目にも留まり、それからは、両親の言われるままに、魔法を使う日々になっていった。


教会で癒しの魔法を施すことが増えたことから、人々は、アンジェリカを「聖女」だと呼び出した。


アンジェリカが「聖女」と呼ばれ出してからは、アンジェリカの噂は、国中をあっという間に駆け抜ける。


そんなある日、「聖女」アンジェリカの前に、白馬に跨った美しい青年が現れたのだった。


そう、それが、先程、アンジェリカを陥れた張本人である王太子フランツであったのだ。


アンジェリカは、そんな過去の記憶を思い起こしたことから、ようやく、地に向いた顔を上げたのだった。


「フ、フランツさま・・」


再び、サファイアの瞳から涙が零れる。


「うっ・・、フランツさま、どうして?」


暗く静まる牢の中では、アンジェリカの小さな泣き声がただ響いている。


悲しみの中に沈む、そんなアンジェリカの潤む目には、出会った頃のフランツの姿が見えるらしく、ただ、ひたすら何度もフランツに縋り泣くのであった。


そんな暗闇の牢に、ようやく、アンジェリカの異変に気付き、辿り着いた小さなひとつの光が姿を見せた。


ぼわりと浮かぶ姿は、今日は姿を見ることのないの精霊。


しかし、アンジェリカの視界には、その光は映りはしない。


『アンジェリカ!』


小さな光が、そう声を掛けるが、今のアンジェリカには何故か届かない。


『アンジェリカ!アンジェリカ!』


何度も呼ぶが、精霊の声は、アンジェリカには届かない。


でも、小さな精霊が叫び呼ぶ声は、アンジェリカの小さな泣き声と共に、今日のこの時に大きく開門をしている精霊の国には届いてしまったのだった。


小さな精霊の叫び呼ぶ声とアンジェリカのしくしくと泣く声が行きついた先には、怒りに満ちた精霊王の姿があった。


『おのれー、愛し子であるアンジェリカによくもー!』


精霊王の凄まじい怒りは、精霊の国から、アンジェリカの住まう世界に轟いた。


地下牢の暗い闇の中にいたアンジェリカにも、その怒りの声が届く。


さっきまで、遠い昔のフランツの面影を追い、悲しみにくれていたアンジェリカは、ふっと、徐に顔を上げた。


それと同時に、あれだけ悲しくて、辛くて泣いていた涙もすっと止まり、アンジェリカは、遠くから聞こえた声に耳を澄ます。


「お、おとうさま?」


恐ろしく強烈な怒りをはらんだ声がアンジェリカはの耳にも届く、そして、それと同じく身体の中を「何か」が入り、駆け巡る。


(な、なに・・・?)


自分自身では、抑えられない「何か」が体の中を蠢いているように、感じる・・


(こ、こわい・・)


自分の中の何かが変わりそうで、アンジェリカは目を瞑り、身体を自分の手で羽交い絞めるように抱きしめる。


そんな中、大きな揺れがアンジェリカを襲った。


アンジェリカは体の異変に耐えながら、また、揺れからも身を守る為に必死に身体を庇う。


どれくらいそうしていたのか、よくわからないが、全てが落ち着いたと感じたアンジェリカはゆっくりと目を開けて立ち上がった。


そして、ぼわりと光る精霊を見つけて、アンジェリカはニコリと微笑んだ。


「あらっ?来ていたのね」


精霊に話しかけながら、アンジェリカは鉄格子に掌をかざした。


ぼわっと小さな赤い火が掌から出たかと思ったら、アンジェリカの目の前にあった鉄格子が赤い火が掛かったところだけが消えていた。


アンジェリカは、自分が放った魔法により無くなった鉄格子からするりと体を通して、鉄柵の外へ出た。


そして、牢の脱獄を防ぐ為にある、二つ目の重い鉄の扉を、先程と同じ要領で穴を開けたのだった。


二つ目の重い扉の向こうにいた騎士は、大きな揺れから難を逃れて一息ついた時、急に、ぼわっという音と共に赤く光るものを目にした!

何が起こったのかと理解をする間もなく、今度は、騎士の目の前には、漆黒の長い髪をした美しい少女が現れたのだった。


「ヒィーーーー!、おっ、おまえは誰だ!」


驚きつつも、騎士は黒髪の少女へ投げかけた。


その言葉に、少女は、くすっと笑う。


「お忘れ?聖女だったアンジェリカよ」



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