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16.隣国の王様と対面する黒い令嬢

ここは、王城の最奥に位置する謁見の間である。


磨き上げられた石がフロアーを敷き詰め、玉座に続く道には、赤い絨毯が敷かれている。


その玉座は重厚な造りで、この国の王の存在の高さを示している様であった。


そんな玉座の前に案内されたユーリシアスは、大変緊張をしていた。


いや、普段なら、人間の王との謁見で緊張するなど、ユーリシアスにとってはないことであるのだが・・・・如何せん、同行者が問題多発であるので、味わったことのない緊張を感じているのだった。


そんな心中、隣に同じく佇む黒髪の少女を見やる。


すると、彼女は大人しく、ただ、玉座を見据えて佇んでいる。


その姿も、ユーリシアスには、更なる緊張をもたらしていることは、黒い少女、アンジェリカは気づいていない。


辺りも静寂に包まれ、息をのむ音も響きそうな環境に、ユーリシアスの心の音も早まるのであった。


そんな中、漸く、この国の王であるシュバルツ3世が姿を現す。


白髪で痩身の容姿であるが、しっかりとした歩調で玉座に腰を下ろすシュバルツ3世を確認したユーリシアスは、頭を下げて一礼をする。


そんなユーリシアスの姿に、シュバルツ3世は無言で頷き返したのだった。


とうとう、アシェフィルドの国王との対面の時が訪れた。


ユーリシアスは、誰にも聞こえないように心の中でため息をついた。


「で、その者がエルボルタの国で生まれし聖女であるか?」


国王と共に入室してきた臣下により、ユーリシアスとアンジェリカの現状が説明され、その上で、シュバルツ3世から、改めて、アンジェリカへと言葉が掛けられたのであった。


「国王陛下、お初にお目にかかります。わたくし、エルボルタの国で聖女として活動をしており、また、名をアンジェリカと申します」


そう言って、アンジェリカは美しい所作で礼を行ったのである。その姿には、謁見の間に居合わせた者が目を瞠った。


何より、その場で一番驚いていたのは、何を隠そうユーリシアスであった。


その驚きの視線に気づいたアンジェリカは振り返り、じろりとユーリシアスを睨みつけたことにより、ユーリシアスは慌てて顔を背けたのである。


「そうか、そなたが大陸全土にまで伝わる聖女、アンジェリカで間違いないのだな」


アンジェリカの返答に対して、今度は、国王シュバルツ3世の言葉に堅さが取れたように感じる。


それには、謁見の間に居合わせた者たちも同じように受け取ったようで、室内に張り詰めていた妙な緊張感が和らいだのであった。


「はい、間違いございません」


再び、アンジェリカも国王の質問に返事を返した時だった。


臣下の者であろう国王側に佇む一人の男が、国王シュバルツ3世へ異議を唱えるように声をあげたのである。


「陛下!発言の許可を求めます!」


男は高らかに声を上げて、シュバルツ3世にこの場での発言の許可を求め、そして、臣下の群衆の中から、前へ一歩進めたのだった。


「なんじゃ、グラ―デンか、発言を許す」


グラ―デンと呼ばれた男は、国王陛下とさほど年齢も変わらぬ容貌であり、何より、国王陛下に臆することもなく、また、その場に居た者たちよりも威厳ある雰囲気を纏っていたのであった。


その為か、周りの者もグラ―デンの行動に対して、誰一人として行動を制するなどの声を出す者もいなかったのである。


その状況に、ユーリシアスはすーっと目を細めて、これから発言するグラ―デンに注視していた。


「ありがとう存じます、陛下」


グラ―デンは、シュバルツ3世に一礼をし、自身への発言の許可の快諾に気持ちを込める。


そして、陛下へと向けていた体を、アンジェリカに向けたグラ―デンは、怪しく微笑んだ後に口を開いたのだった。


「我が名はグラ―デンと申す。爵位は公爵位だが、国王の弟にもあたる者だ。で、令嬢に聞きたい事があるのだが、よろしいだろうか?」


そう言って、丁寧な口調でグラ―デンはアンジェリカに問い掛けだした。


(なるほだな、王弟と来たか・・・)


アンジェリカの核心を得る為に動き出した人物の素性に、また、ユーリシアスは口角を上げて見せたのだった。


「では、質問であるが、あなたは、本当にエルボルタの国におられた聖女さまなのだろうか?我々が聞き及んでいたのは、蜂蜜色の髪を持ち、サファイアの瞳をもつ麗しい少女だったと記憶にあるのだが?」


口調は丁寧ではあるが、グラ―デンから齎される質問には、嫌味たらしい言葉が並べられ、アンジェリカを追い詰めようとしているのであった。


「だが、あなたは、どうだろうか?あなたの容姿は、聞き及ぶ聖女さまとは異なっておりますなぁ?」


グラ―デンは、アンジェリカの傍まで歩を進め、挙句には、アンジェリカの小さな顔を覗き込むようにしながら、「さてはて?これはどういったことだか?」と、アンジェリカに向けて言い放った。


その光景を、ユーリシアスは拳をギュッと握りしめて、グラ―デンの悪意ある態度に対して怒りを耐えている。


一方、アンジェリカは老人に顔を近づけられてはいるが、瞬きすらもせずに、じーーーっと見つめ返していたのだった。


そんな可愛げのないアンジェリカの態度に、グラ―デンは片眉と口角を上げてみせた。


そして、アンジェリカの傍を少し離れて、再び、攻撃を打ち込んできたのである。


「そうそう、エルボルタの国といえば、王城が崩壊し、また、国王を含めて、多くの怪我人がつい最近出た話は、聖女さまはご存知ですかな?」


嘆かわしい惨劇を思い浮かべてなのか、グラ―デンは悲壮な顔をし出している。


「確か、彼の国の王太子とは、婚約も間近だったとも聞いておったのだが、聖女さまは王太子殿の安否はご存知であろうか?」


そう言ったグラ―デンはニヤリとアンジェリカに微笑むのであった。


このグラ―デンが作った一連の話の流れから、謁見の間では一気に空気が変わり、周りの者もヒソヒソと声を上げていった。


「うっ、うぐぐ・・・・・」


グラ―デンの発する内容には、ほぼほぼ間違いはないのだが、この男の詰め入り方の厭らしさに、ユーリシアスは体をわななかせる程、怒りが込み上げてきていた。


そんなユーリシアスの状況を直ぐに察知したアンジェリカが、ユーリシアスに向けてニコリと微笑んでみせたのであった。


一瞬向けられたその微笑みに、ユーリシアスは意図が読めずに眉根を寄せたのである。


「発言、よろしいでしょうか?」


一連のグラ―デンの追い詰める攻撃が途絶えたところで、アンジェリカはすっと手を挙げてから、そう告げたのであった。


その言葉に、国王が一言「許可する」と快諾を示したのを聞き入れたアンジェリカは、次の瞬間、ボォワァーーーーっと謁見の間全体に広がる程の魔力を現したのである。


「グラ―デン様でしたかしら?ご質問にお答えいたしますわ!」


黒く長い髪が魔力の放出により、大きく靡くその姿を見て、質問をしていた老人グラ―デンは目を大きく見開き、額には汗が浮かびだしていた。


「わたくしは、証信証明の聖女ですわ。この容姿になったのは、申し訳ないのですが、わたくしにもわからなくて。まあ、原因といえば、フランツ何ですがね?」


アンジェリカは魔力放出を止めることなく、質問の答えをしていく。


室内は、魔力によって出来た風圧がアンジェリカの質問の返しの度に増しており、凄い有様となっていた。


勿論、ユーリシアスにもこの風圧の影響は及びかけていたが、そこは、上級精霊であるユーリシアスは自らの身を守る為の魔法を施していたのであった。


それは、小さな精霊であるカチェも同じくである。


「あとは・・・あとは、何でしたかしらねえ?あぁ!そうそう!エルボルタの王城の崩壊でした?」


そう言ってポンっと、手をついたアンジェリカが、ユーリシアスの方を向いたのである。


「崩壊させたのは、彼ですわ!」


今度は、掌を上向けて、こちらですのよ!と案内するが如くの動きで、ユーリシアスの方に皆の視線を向ける仕草をしたのであった。


『えっ!わたし?』


思わぬ振りで、自分に多くの目が集まりユーリシアスが戸惑う。


「ねっ?ユーリシアス!」


アンジェリカのダメ出しの言葉で、辺りにいる者が驚愕の顔を晒している。


そりゃあそうでしょう。精霊が王城を破壊したなんて聞いたら驚くだろうなと、ユーリシアスは、周りの状況を見て項垂れてしまった。


「そういう事で、王城の崩壊についてはおわかり頂けたかしら?あとは、フランツですわね?安否でしたか?」


ここに来て、アンジェリカが「うーーん、うーーーん」と考えて唸りだしている。


「あぁ、ごめんなさい。フランツがどうなったのかはわからないわね?やっぱり、まだ、生きているのかしら?」


アンジェリカが告げた言葉に、暫し、謁見の間にいる王国側の者、皆が固まったのである。


『やっぱり、まだ、生きているのかしら?』


風圧よりも恐ろしい言葉が零れたような気がした。


誰もが、背に冷たいものが流れたように感じた。


それを打ち破るように、グラ―デンが引き攣った顔を浮かべながら、アンジェリカの問いに応えたのであった。


「い、生きておるぞ。お、王太子殿は、瀕死ではあったが、わが国の騎士が持ち合わせた癒しの薬、精霊の雫を与えたのでな」


そう告げたグラ―デンに対して、アンジェリカが驚いた顔を見せた。


「まぁ!グラ―デン様!フランツのことご存知でしたのね!ですのに、わたくしに問うだなんて!」


失礼過ぎます!と憤慨したアンジェリカが、お得意のポーズを繰り出そうとしたのである。


「わあ!ダメだ!やめなさい!」


そう叫んだと同時に、ユーリシアスの魔法がアンジェリカが放った魔法を遮ったのであった。


「あら?」


赤い閃光が放たれたと思ったが、それを消す様に魔法が阻んだ。


その動作を見て、アンジェリカも冷静さを取り戻したようで。


「まあ、ユーリシアス・・・」


コテンと小首を掲げてアンジェリカが口を開く。


「あなた、わたくしの魔法を、魔法で止められるのですね?」


その疑問の言葉に、今度は、ユーリシアスが混乱したのであった。


「な、なにを今更!、わたしは、上級精霊ですよ。これぐらい出来ますよ!」


ほんとうに!何を言い出すのか?と、ユーリシアスがぶつくさと呟いていると・・・


「イヤだわ。ならば、フランツへ魔法を放った時も止めてくれればよかったのにぃ」


可愛らしい顔をぷくっと膨らませたアンジェリカがそんなことを言ったものだから・・・


急に謁見の間が騒がしくなりだした。


「えぇ?上級精霊さまの指示?」


「上級精霊さまがエルボルタを滅ぼしたのか?」


「王太子の死の原因は、上級精霊さまの力だったのか!」


そんな恐ろしい会話がヒソヒソと交わされだしたのである、しかも、何故かユーリシアスの耳にも届いてしまい、ユーリシアスは蒼褪め、頭を抱えてしまいそうになった。


どうしたことか、またまた、ユーリシアスの立場が悪くなってしまっている。


そんな状況の中、アンジェリカがこの場を収めようと優しい声を上げたのであった。


「皆さま、落ち着いて下さいませ」


だが、アンジェリカの声はざわめきに消えてしまったのである。しかし、アンジェリカはここは負けじと声を再び出したのであった。


「あら?皆さま、よろしいのですか?ユーリシアスを怒らせると、ここもエルボルタのようになりますわよ?」


その言葉に、皆が口を閉ざし、息をのんだのである。


「ねっ?ユーリシアス、怒らないで差し上げてね?」


ニコリと微笑むアンジェリカに、ユーリシアスは目を見開き固まってしまった。


「で、質問は、もうよろしくて?わたくし、喉が渇いて、お菓子も食べたくなりましたわぁ」


そう言って、アンジェリカは、侍従らしき者を呼び寄せて、謁見の間を退室したのであった。


残された者は、その姿を黙って見つめていた。


勿論、国王シュバルツ3世も顔を強張らせたまま、自分に何も告げずに退室するアンジェリカをただ黙って見つめていたのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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