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14.追手がやってきましたわ

何やら体躯の良い男達が馬に跨り、こちらへと掛けてくる。


あの鎧は!


彼らが身に着けている鎧は、今居る国アシェフィルドの騎士が着用しているものであった。


では、追手の正体は、この国の者と言う事か!?


ユーリシアスは、今の状況を理解すると、自らの背中に冷たいものが流れた。


「うん?あれは、確か、国境付近にいた騎士ですわね?」


一方、額に手を添えて、遠くを見つめるアンジェリカには全く緊張感が見られない。


「まあ、お迎えにいらしたのかしら?」


えっと、じょ、状況・・・


ユーリシアスは、言葉に詰まる。


アンジェリカが全く理解していないからである。


「なんですの?」


一応、ユーリシアスの妙な視線は感じたのか、アンジェリカがユーリシアスの顔を見てから問い掛けた。


「アンジェリカ、わかっていますか?そのビラからして、あなたは今追われているんですよ」


やれやれと言わんばかりに首を横に振るユーリシアス。


「おまけに、あの鎧を纏う騎士。あれは十中八九、アンジェリカが狙いでしょう」


土煙を上げながら向かってくる一団をユーリシアスは顎で示してみせる。


「えっ?嫌ですわ・・」


自分が狙われていると明確に指摘されたアンジェリカは、ここに来て狼狽えだした。


そんな姿を見せられたユーリシアスは、アンジェリカにゆっくりと歩みよって・・・


『大丈夫ですよ、アンジェリカはわたしが守ります』と声を掛けて、怖がるアンジェリカを抱きしめようとした時だった。


バンっと、ユーリシアスの体はアンジェリカの手から発せられた気圧で押された。


「い、痛い」


見事に、尻を地面に着いたユーリシアスが声を上げる。


「もう!どうして狙われるんですの!」


地面に転がるユーリシアスは無情にも放置である。


「アンジェリカ!」


「逃げても無駄のようですね?」


仕方ないとばかりに、アンジェリカの腕が土煙を上げて向かってくる者たちへ向いた。


「だ、ダメですよ!」


未だに立ち上がれないユーリシアスが声を張り上げて、アンジェリカの行動を止めようとした。


(あっ、今回は無理かも)


ユーリシアスは諦めて、目を伏せた。


ごめんなさい、こんな娘を育てて・・


最後の償いとばかりに、どこの誰かに向けて謝罪をした。一応・・・


だが、目を閉じていたとしても感じるであろう、衝撃などが伺えないではないか?


(うん?ど、どうした?)


うっすらと目を開けていく、が、目を閉じる前と変わりない光景が広がっている。


「あれ?」


(た、助かったようですね?)


内心ほっとしたユーリシアスの耳に、さっきまで嫌な空気を纏わせていたはずのアンジェリカのはしゃぐような声が聞こえて来た。


「やだ、可愛いですわね?」


(あん?可愛いい?)


声の方に視線を向けると、アンジェリカの傍に馬?いや、あれは・・・


「ユニコーン!」


馬の頭に一つの角が生えた生き物がアンジェリカに頬を寄せてじゃれているではないか?


「で、追手は?」


「まだ、こちらに向かってこられているところです」


小さな精霊たちの集団の中から、ユーリシアスの問いに返す言葉が上がる。


その言葉に、先程見えていた馬の集団の方を見やると、確かに、一団がこちらに迫っては来てはいる状況のままだった。


「集団は無事か・・・」


変化の無い姿を確認して、本当の安堵をユーリシアスは覚えた。


そして、地に着いた尻を上げて、ユーリシアスはアンジェリカと珍客へと顔を向けたのだった。


「珍しいですね?お前が、こんな場所に現れるなんて?」


目の前で、じゃれ合いを披露しているアンジェリカとユニコーンに、ユーリシアスはそんなことを口にした。


「えっ?珍しいのですか?でも、絵本では、ユニコーンはよく姿を現していますけど?」


ユニコーンの顔の辺りをなでなでしながら、アンジェリカは聞き返した。


「あれは、まあ、あなたの母であるシェリーヌが可愛がっていたことで、そう描かれているんでしょうね?本来なら人目を嫌い、神聖な領域からは出てこないんですがね?」


「そうなんですか?では、この子は、お母様のペットでしたのね?」


ユーリシアスからの話を聞いてから、無邪気な顔でアンジェリカはそう言った。


それに対して、ユーリシアスは目を見開く。


「あなた、絵本を読んでいましたよね?あれを見て、ユニコーンをペットと・・」


信じられないモノを見た顔をしたユーリシアスに、アンジェリカは首を傾げる。


「ええ、読みましたわよ」


だが、アンジェリカは誇らしげな顔をして見せて、ユーリシアスの驚きには気付かないでいる。


「普通は、そこはお友だちと呼ぶのではありませんか?」


今度はアンジェリカが、ユーリシアスの言葉に驚いた!


「ええーっ!お友だちですか!」


ユニコーンを撫でる手を止めて、アンジェリカはユニコーンを見やる。すると、ユニコーンは大きな目をくりくりとさせて、『おともだち』のアプローチを仕掛けている。だが、アンジェリカの方は眉間を寄せてしまっていた。


「わたくし、人以外はちょっとお友だちは無理ですぅ」


アンジェリカの放った言葉に、周りにいた精霊たちが目を瞠った。


カチェに至っては、自らの光源が弱まっているではないか!


「ちょっと!、えっ?アンジェリカ?嘘ですよね?」


ユーリシアスに至っては幼い頃に出会ったあの頃のアンジェリカが壊れていく。


『精霊さんはおともだちです!』


そう言いながら、麗しい娘は目を輝かして、毎日、小さな精霊と戯れていた記憶がガラガラと音を立て消えていく・・・


「一つ伺いますが、あなたにとって精霊とはいったい・・・」


不安はあるが、聞かずにはいられない。ユーリシアスが意を決して問うた結果。


「えっ?精霊ですか?うーーむ?」


やけに深く考え込むアンジェリカに、ユーリシアスは額から汗が浮かぶ。


「あっ!そうですね!」


ポンっと何かが閃いたようで、手を打ったアンジェリカに、皆が息をのんだ。


「下僕でしょうか?」


・・・・・・


(言葉が浮かばない、いや、出てこない、うん?一緒か?)


「下、僕・・・」


小さな声が聞こえた、それは、完全に光を失ったカチェであった。


(そりゃぁ、そうなりますよね?)


憐れな目でユーリシアスがカチェを見る。


「そうです!ユーリシアスなんかは、下僕の筆頭ですわ!」


・・・・・


再び、思考がとまる・・・


下僕に筆頭とか、ランクがあるのか?いや、あるのだろう。


「わたしが下僕?このわたしが、上級精霊である、わたしが・・・」


筆頭下僕は、体をわななかせて怒りを示している。


しかし、アンジェリカには通じない。だって、


「皆さん、お忘れではなくて?わたくしは精霊王の娘なんですのよ!」


「うぐっ!」


(そうだった・・・この黒い少女は、あの精霊王の娘であった)


いくら上級精霊であろうと、ユーリシアスも精霊王には敵わない。その娘も以下同文・・・


だが!『下僕』扱いはなくはないでしょうが!


やはり、納得のいかないユーリシアスが、これからアンジェリカに文句を言い返そうとした時だった。


「はァ、漸く、お会い出来ましたな。上級精霊さま」


掛けられた言葉に、ユーリシアスが振り返ると、そこには『追手』と呼んでいた鎧を纏い、馬上に跨る騎士の一団がいたのだった。


「お探し致しましたぞ。上級精霊さま。うん?はて?精霊に聞いていた容姿と少し感じが違われますが?」


騎士の中で先頭に立ち、鎧の装飾が凝っている一人の男が、疑問符を浮かべながらユーリシアスを見やる。


どうやら道中で聞いていたユーリシアスの姿に違いがあるようだ。


それもそのはず、ユーリシアスの姿は旅の途中で髪型に変化が生じているからである。


騎士の言葉に、若干、気恥ずかしさを浮かべながらも、ユーリシアスは堂々とした足取りで騎士の前に踏み出した。


しかし、心の中では『あぁー、ユニコーンなんかに気をとられていた為に、追手に捉まってしまたではありませんか・・』とぐしゃりと萎れてしまっていた。


「わたしがそちらが申している上級精霊のユーリシアスだ」


気力を振るい、ユーリシアスが宣言をする、と。


その言葉に、今まで馬上にいた騎士が馬から下りてきた。


「そうですか?あなたが上級精霊さまですか。では、聖女さまもこちらに」


騎士がそう言いながら、ユーリシアスの背の奥へ視線を向ける。


(うっ!ヤバいですね・・)


ユーリシアスもちらりと視線をアンジェリカに向けると、アンジェリカが淑女の礼を行ってみせた。


「初めまして」


黒い少女が美しい所作を見せる。


だが、騎士は困惑気味だ。


「あの?そちらは?」


今度は、ユーリシアスへと視線を戻してきた騎士が問い掛ける。


それに対して、ユーリシアスも腹を括った。


「聖女であらせますよ」


しぃーーーーーんという言葉が聞こえる。


(やはり、な)


思ってはいた反応ではあるが、ユーリシアスの心の音は早まるばかりで、次たる言葉が出ない。


そんな時だった。


さっきも見た光景が起きたのだった。


騎士を狙うかのように、ひらひらと紙が舞って来たのは!


「あら?それ、わたくしの姿絵の・・・」


アンジェリカが恥ずかしそうにそう口にした時、騎士の手には紙が握られていた。


そして、それと同時に情けないユーリシアスの声が零れ落ちた。


「絶望的、ですね・・・」



最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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