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12.精霊たちの会話

朝食を終えて、昨夜、宿泊した宿を出たアンジェリカは、サファイアの瞳を輝かせる。


隣国アシェフィルドの地を踏んで、最初の朝。


何だか特別な感じがすると、心も踊る。


アンジェリカがそんな感情に浸っている傍らで、光の精霊ユーリシアスは眉間に皺を刻む。


それは、この国に入国してからも気にはなっていたのだが、朝を迎えても、やはり状況が変わらないからだ。


(おかしいですね・・・「聖女」が入国しているというのに、国の動きが見られない・・・)


そう、アンジェリカたちは「聖女」という立場をもって、特別な計らいをもって、入国時の長蛇の列を待たずにやって来たのだ。


ならば、国の重鎮へ報告などがなされて、早々に、アンジェリカを見舞うなり行われるはずなのに、昨夜も今朝もその気配すらなかった。


どの国に於いても、この大陸では、「聖女」の立場は尊く、敬意を払うものとなっている。なのに、アンジェリカの元に、従者や騎士の一人も訪れてはこなかった。


(まあ、こちらとしてもアシェフィルドに目的があっての入国ではないので、下手に構われるのも困りはしますがね・・・ )


そんなことを思いながら、ユーリシアスは黒髪の少女の背を見つめる。


彼女の傍には、小さな光がふわふわと浮いており、二人は何か話しているのか、時折、アンジェリカの笑い声までが聞こえる。


この数日に起きた事が嘘のように、穏やかな時間である。


(このまま、平穏に行けばいいのですがね・・・)


今度は、すっと空を見上げた。


キラキラとした朝の陽光に神経を向け、ユーリシアスは全身にその輝かしい光を浴びる。


これはユーリシアスにとっての日課である。


彼は、光の精霊として生まれたゆえに、この陽光こそが彼の源となる。


寝不足気味の気怠さも母なる陽から齎されるエネルギーにより、幾分かは回復した。


そんなユーリシアスの行動も気にとめずに、アンジェリカが声を掛けるのだった。


「ユーリシアス!何しているのですか?遅いですよ!」


(ったく!あの娘は!ゆっくりと身体のメンテも出来ないですね・・・)


旅が始まってからの日々、ユーリシアスは心労に加え、疲労も蓄積されつつあったのだ。


「待ってください!」


そんな彼は、慌てて先行くアンジェリカたちを追い駆けるのであった。


宿を出て数時間、道中は変わりなくカチェと仲良く会話したりしながら、アンジェリカは旅を楽しんでいた。


アンジェリカが旅を楽んでいる一つは、国境付近で昨夜過ごした時は、あまり姿を見せなかった精霊たちが王都に近づくに連れて、建物の影、街路樹はじめとした植物に隠れるような形ではあるが、多くの精霊を見掛けるようになったからであった。


そんな精霊たちの容貌は、カチェのような光の姿のものから、母体となる植物などに似た姿のもの、小さな人間に近いものなど多種多様な精霊が、このアシェフィルドに存在していた。


アンジェリカは、それはそれは目に見えて心弾ませており、大はしゃぎで町中を進んでいる。


今まで、ユーリシアスに聞いた精霊たちが姿を現すものだから、嬉しくて仕方なかった。


これまで育ったエルボルタ国では、精霊はほんのわずかしか存在しなかったこともあり、初めて見掛ける精霊についてはカチェやユーリシアスに、その精霊の由来などを尋ねては、目を輝かせていた。


また、ユーリシアスも、そんなアンジェリカの微笑ましい様子を見つめながら、旅は本当に楽しく進んで行ったのだった。


だが、一方、アシェフィルドに住みつく精霊たちは、アンジェリカたちを目にしては皆が驚きで目を瞠っていた。


その原因は、上級精霊であるユーリシアスが、突如、自分たちが住まう国に現れたからであった。


自然の草木が茂る一画に、小さな精霊たちがユーリシアスの姿を目にしたことにより寄り合っていく・・・


『ねぇ?あのお方って・・・』


『ユーリシアス様ですよね?』


『聖女様とご一緒と聞いていたが?』


『聖女様は、確か、エルボルタに住まわれていたはずじゃ・・・』


『では、お傍に居られる方が、聖女様かしら?』


精霊たちの小さな会話がユーリシアスの耳にも聞こえてくる。


その会話に入って説明すべきかと思っていたユーリシアスの目の前を、小さな精霊が猛スピードで駆け抜けていった。


『ねっ、ねぇー、聞いてよ!大変なことが起きたよ!』


そんな小さな精霊がユーリシアスの姿も目に入らずに、先程まで、ユーリシアスの存在について話をしていた精霊の集団へと駆け込んいったのだった。


『ど、どうしたの?』


その慌てた姿に、集まりの中にいた可愛らしい少女の姿の精霊が声を掛ける。


それを聞いて、駆け込んで来た緑の葉を幾重に纏う姿の小さな少年のような精霊がようやく飛ぶ勢いを緩めたのだった。


『あっ、あの、あのさ!』


『これ、少し落ち着くのじゃ!』


老人の姿をした小さな精霊が、緑の葉の精霊を諭す。


『あっ、ごめんなさい。びっくりしたもんで』


緑の葉の精霊が呼吸を落ち着けてから、周りの精霊たちを見つめる。


だが、そこでも、緑の葉の精霊は、まだ、ユーリシアスの存在には気付かないままで、そのまま話を続けたのだった。


『ぼく、聞いちゃったんだよ!』


緑の葉の精霊の言葉に、他の小さな精霊たちが押し黙る。


ユーリシアスもまた、「何事か?」と、この緑の葉の精霊の話に聞き入っていた。


『な、何を聞いたの?』


誰かが先を促す意味で問い返した。


『そ、それが上級精霊さまのこと!』


緑の葉の精霊が尚も焦るように口にした言葉に対して、集まっていた精霊たちは先程の緊迫した雰囲気を消すかのように皆が笑い出しいた。


その様子に驚いたのは、緑の葉の精霊だった。


『えっ?どうしたの?』


キョロキョロと集まっていた精霊たちを見渡しながらも、一人不快な感覚に陥る。


『クスクス・・・だってねぇ?』


『アハハ・・・あぁ、何かと思ったが、びっくりしたぞ!』


『うふふ・・えぇ、上級精霊さまならねぇ?』


困惑した緑の葉の精霊を他所に、精霊たちは笑いながらもボソボソと口にしている。


そんな光景に、当のユーリシアスも微笑んでしまった。


『どうして、皆、笑っているんだよ!大変な騒動になっているんだよ!』


自分を笑う精霊たちのことが気になりながらも、緑の葉の精霊は自分が先程聞いて来た一大ニュースを再び話し出そうとする。


そんな姿を尚もおかしく見ている精霊たち。


この状況に、ユーリシアスも自分がこの場を治める為に、また、このアシェフィルド国に来たる意味も説明した方がいいかな?と思い直して、小さな精霊たちの輪へ歩み寄ろうと決意した時だった。


『隣のエルボルタの国が、上級精霊の魔法によって攻撃されて、王城も吹き飛ばされて、王城の中にいた者は瀕死の状態なんだよ!』


緑の葉の精霊の発した言葉に、時が一瞬止まったように感じた・・・


そして、ユーリシアスも身体が固まった。


時が動いたと感じたのは、小さな精霊たちの数個の目線がユーリシアスに向いたからだ。


(えっ?いや、まて・・・)


間違いを正したくて、声を上げるべきところなのに、ユーリシアスの声は出ない。


そんなユーリシアスにもまだ気付かない緑の葉の精霊は、まだ言葉を続ける。


『今、エルボルタの国では、王城だったかな?アシェフィルドの騎士たちによって人命救助が行なわれているんだって。で、王太子?が助け出されたって聞いた!』


ユーリシアスは言葉が発せないまま、背中に冷たい汗が流れだしていた。


「あら?フランツたら、悪運の持ち主ですこと!」


ずっと、この場に生息する精霊をカチェと見て回っていたアンジェリカが、いつの間にか精霊たちの会話を聞いていたらしく、緑の葉の精霊の話から、とうとう声を出していたのだった。


そのアンジェリカの声によって、ここではじめてユーリシアスの姿を視界に入れた緑の葉の精霊は、声を大きく上げて驚いたのだった。


『ぎゃああああああー』


耳をつんざくような叫び声に、アンジェリカはただ眉間に皺を寄せたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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