1.プロローグ
お久しぶりの投稿となります。
ゆるゆるの設定で書いております。
皆様に、楽しんで頂ければ嬉しいです。
「アンジェリカ!貴様が、聖女の力を利用し、このエルボルタの国を乗っとろうと画策していたことは既に露呈しているぞ!」
王城にある謁見の間にて、多くの貴族が見守る中、また、この国の国王が居合わせる場にて、一人の青年の怒号が響く。
声の主は、この国エルボルタ国の王太子であるフランツである。
美しく整えた艶のあるブラウンの髪に、エメラルドグリーンの瞳が彼の魅力を引き立たせている。
そんな美しい彼の顔には、いつもは見せない歪んだ口元に、鋭い目があった。
「いえ、わたくしは、そのようなことは・・・」
フランツの恐ろしい眼差しの先には、名を呼ばれた子爵家の生まれにある令嬢アンジェリカはが、床に蹲る形で体を震わせながら、王太子から浴びせられた言葉に必死に向き合っている。
「嘘をつけ!貴様は、聖女の立場をもって臣民を掌握した上で、王家までも陥れようとしていたのはわかっているんだぞ!」
しかし、フランツの怒りは収まらないらしく、アンジェリカへの追及の手は強くなるばかりであった。
「わたくしは、癒しの力を必要とされています方に、癒しの力を与えただけでございます」
蜂蜜色の長い髪をした麗しい少女アンジェリカは、彼女の大きなサファイアのような瞳に涙を浮かべ、フランツから己に掛けられた疑惑をはらすべく訴える・・・が、しかし、アンジェリカの訴えを搔き消すように、フランツの傍で侍っていたピンクブロンドの愛らしい少女が、アンジェリカを睨みながらフランツに続いて糾弾する。
「まあ!、アンジェリカ様は、この期に及んでもしらを切るのね。わたしは、あんたが、聖女の力の源となる契約精霊に、国を乗っ取る為の計画を話しているのを聞いたのよ!」
アンジェリカは、ピンクブロンドの少女の口から齎された言葉に、思わず眉を顰めてしまった。
「ミ、ミーナ様。な、何を・・・」
先程まで、恐怖に打ち震えていたアンジェリカの様子が変わったことに、ピンクブロンドの少女ミーナは、ニタリと口角をあげて、フランツの豪奢な服の袖を大きく引いた。
「ホラッ!フランツ、今の顔、見たでしょ?アンジェリカは、やっぱり国の乗っ取りを計画をしていたのよ!」
そう言いながら、ミーナは、引いた袖口に手を添え、そして、フランツの腕に手を掛けてから、声高々にアンジェリカがこれから犯そうとしていた罪を言い放った。
「わたしが言った通りでしょ?アンジェリカは、無能なくせに、たまたま契約出来た光の精霊の力を使って聖女になり、その力で、エルボルタの女王になろうとしたのよ!」
そのミーナの言葉に、フランツの目は更に吊り上がる。
「ミーナ様!癒しの力を持つ光の精霊は、邪な心がある者とは契約は出来ませんことは、周知の事実でございますわ!」
しかし、アンジェリカも、自分に向けられた冤罪に、幼い頃に契約を交わした精霊までもが巻き込まれたことに対しては見過ごすことが出来ず、ミーナに向けて真実を告げる。
「では、アンジェリカ、そなたの発言した周知の事実とやらを、この場にて証明してみてはどうだ?」
これまで、一連の動向をただ黙して見ていた国王が、この時を待っていたかのように、静かに言葉を紡ぎ出した。
「ああ、陛下、それはとても良い提案でございますな!アンジェリカ嬢、この場で、そなたが契約した精霊を呼び、我らの前で、今この時、癒しの力を披露してくれないか?」
国王の言葉に続くように、この国の宰相がにこやかな顔をしてアンジェリカに顔を向ける。
その眼差しを筆頭に大勢の目が、アンジェリカに向けられた。
「どうされたのだ?アンジェリカ嬢?」
ヒソヒソと声があちらこちらから聞こえてくる。
アンジェリカは、悔しい思いが胸に宿り出す。
顔を下に伏せ、ギュウッと目を瞑り、左の中指にある指輪をそっと確かめるように撫でた。
目の奥には、いつも傍にいる光り輝く精霊の姿が浮かんでくる。
(そう・・・なぜ、今日、この様なことが行われたのかがわかったわ)
アンジェリカは再び顔を上げて、大きな瞳を見開いて謁見の間を見渡していく。
(たいして信仰心も持たないこの国だからこその、この行為なわけね・・)
謁見の間に集まる面々は、どの顔にも醜い笑みが浮かべられている。
「アンジェリカ、貴様は、自分の言葉に責任が持てぬのか?」
アンジェリカの視線がフランツと交わされた時、自信に満ち溢れたフランツがクツクツと笑いながら、厭らしい声色で声を掛ける。
その態度に、アンジェリカは奥歯を噛みしめて、自分に課せられた謂れのない罪は履がらえらないと悟った。
「どうなんだ!アンジェリカ!」
そんなアンジェリカの態度に痺れを切らせたフランツが、再び、声を荒げだした。
(もう、無理だわ・・・)
荒ぶるフランツの声に押されて、アンジェリカは震える声で返事をした。
「わたくしには、精霊を呼び寄せることはできません・・」
アンジェリカの言葉に、集まった貴族は、わぞとらしく驚きの顔を見せだしていく。
「今なんと言ったんだ?アンジェリカ?」
そんな観衆の中、フランツは薄ら笑いを浮かべて、アンジェリカが悔しさの中告げた言葉を更に聞き返す。
「精霊が呼べない?と」
床に蹲るアンジェリカの傍に、一歩、一歩と距離を詰めていきながら、フランツの顔は、満面の笑みへと変わっていく。
「そうか、アンジェリカは、精霊との契約が切られたのだな?恐ろしい計画を企てるから、精霊から見放されるのだ」
コツン、コツンと床を鳴らし、アンジェリカの傍に来たフランツは、ゆったりとした動作で、アンジェリカへ手を差し伸べた。
「えっ?」
手を差し出すフランツの行動に、アンジェリカは一瞬、心が揺らぐ。
(た、助けてくださるの・・・)
淡い期待が、アンジェリカに差し出されたフランツの手により齎せる。
だが、フランツが発した言葉に、再び、地の底へ落とされるのだった。
「契約の指輪を差し出せ!貴様には、不要な品だ!」
そう言葉が聞こえたかと思うと同時に、フランツの手はアンジェリカの左手を力を込めて掴んだ。
「痛い!」
アンジェリカは苦痛の顔を見せながら、フランツの乱暴な扱いに抵抗をするが、そんな二人の元に、フランツの側近の騎士もが駆け付ける。
側近の騎士がフランツ以上の力で、アンジェリカの抵抗を抑え込みだした為、貴族令嬢であるアンジェリカが敵うわけもなく、アンジェリカの指から指輪が強引に引き抜かれていった。
「やっと、手にしたぞ!悪女アンジェリカから精霊の指輪を取り返したぞ!」
フランツは、先程まで、アンジェリカの指に嵌められていた虹色に光り輝く小さな指輪を手にし、天高く掲げた。
「精霊が生まれし祝福するこの良き日。エルボルタの国が、光の精霊との契約を交わすのだ!」
謁見の間に響くほどの声をあげてから、フランツが玉座に座る父王へ深く頭を下げる。
そんな光景を、アンジェリカは、ただ冷めた目で見つめている。
そう、今日は、精霊がこの世界に姿を初めて現したと言われている日だ。
そして、この世界は、精霊の加護により発展してきた。
しかし、信仰心が薄い国では、時が経つにつれて、精霊からの加護が与えられない状況に陥り、精霊との契約が出来る者は格段に減っていった為に、加護を授けられた者は貴重な存在となっていた。
それは、アンジェリカが暮らす国エルボルタでも同等であった。
だからこそ、精霊と契約を交わし、ましてや、希少とされる癒しの力を発する光の精霊の加護をもつアンジェリカは、本来ならば、国を挙げて大切にせねばならぬ存在であるはずなのに、アンジェリカは地へと落とされたのだった。
国を挙げての緻密な計画を練られたアンジェリカは、謂れなき罪を着せられて、罪人へと落とされた。
アンジェリカは、騎士に引っ立てられて、謁見の間から連れ出されていく。
その際に、先程まで指輪があった左手の指を撫でる。
(もう、会えないのかもしれないわね・・)
精霊たちとは、もう会えないのかもしれない。
不安な思いが胸に大きく広がるアンジェリカは、一筋のしずくを頬を濡らす。
そう、今日のこの日、彼ら精霊は人間界から離れ、精霊の国へ戻る日であったのだった。
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