ツッキーはギルドで買い物をする
前回の投稿が3月…間隔が空いてしまいました。
レオンが案内してくれた売店は狭いが商品がみっしりと雑多に詰め込まれていて、時間があればじっくりと商品を見るのが楽しそうな場所だった。そう思いながら棚を見上げていると、レオンは商品整理をしている職員に声をかけた。
「ワタルさん。今いいですか?」
「レオン? どうしたの?」
手を止め、こちらを見た青年はレオンと一緒にいる俺に気づいて首を傾けた。
「実は有望な新人へアドバイスをお願いしたいんです」
「新人…? ああ、もしかして未登録なのにホーンベア持ってきたって噂の!」
「噂になってるのか…」
冒険者はモンスターと戦うのだからそう言うこと出来るのはごろごろいそうだが、始めはそうでもないらしい。後は俺の年齢が冒険者を始めるにしては遅いということも目立った原因のようだ。
「たいていそのぐらいの年齢だと訳アリなんですよね。まあ、ギルド自体がそう言う方の受け皿なので他のところでは割と多いですが、こういうダンジョン攻略のために出来たというはっきりとした目的のある場所だと珍しいです」
「そういうものなのか」
「そもそもこういう拠点が作られるということは、目的が不便なところにあるということですから。ここは出来てからそこそこ時間も経っている上、食事目当ての観光客もいるのでゼロではないですが」
「それじゃあ噂にもなるか」
「あくまでまだギルド内の話ですけど。広まるのは次にギルドに出入りする冒険者、そしてその他の村人って感じです」
「なるほど」
レオンの説明にワタルが補足してくれるのを聞きつつ、意外と噂の広がりが遅いんだなと思いながら相槌を打つ。
「その噂の新人がここに来たってことは、基本的なものを揃えたいってところでいいのか?」
「そうそう。特に月影様は冒険者のこともよくわからない方だから」
「となると変にあれこれ揃えない方がよくないか? 何を重視するかも未定なんだろ?」
「そこも含めて相談に乗ってほしいんだ」
「了解。それじゃあ色々聞かせてもらいましょうか」
「よろしくお願いします。名乗り遅れていましたが、昨日冒険者登録しました月影聖人です」
「売店担当のワタルです。そちらの三人は久しぶりですね」
ワタルは互いに名乗りあった後に、何度も売店を利用して顔見知りだった三人とも軽く挨拶を交わした。
「それじゃあ、買いたいものについてですが、まずは君たちから聞いた方がいいかな?」
「おう、その方がたしかに早いぜ。ツッキーは冒険者のこと何も知らないから、今俺たちがいろいろ教えてんだ」
「だから僕たちのようにギルドでの講習を受けてもらおうと思っているんです」
エドとアルがそう説明している傍らで、ヴァンはこっそりとレオンに質問していた。
「ねえ、ツッキーの事情って開示しても問題ない?」
「さすがにギルド職員には何名か知っているものは必要です。ワタルさんは裏は取れているので、必要に応じてどうぞ。ただ、他の方に関しては――」
「昨日のギルマスからの説明のように濁しておけってことだね。りょーかい」
ヴァンは確認が取れると、エドとアルの説明を黙って聞いていた。
「――なるほど、ほぼ着の身着のまま。冒険者として活動する以外にも色々なものが足りていないと」
ワタルは頷きながらバッグを持ってきた。
「野営についてまだ考えなくていいようですから、空間魔法のかかっていないバッグを持ってきました」
そう言って見せられた革で作られたショルダーバッグは丈夫そうだ。
「あとは普段の生活でも使う物でしょうね。こちら空間魔法のかかった財布です。百キロほど物を入れることが出来ます。こちらの口から入るサイズのものなら硬貨以外でも入れることが出来ますので、小物を入れる方も多いです。ただこちらはお手頃価格の物ですので、収納物の確認する際は硬貨以外はゴミと分類されます」
「確認?」
「あ、ツッキーは知らないか。こういう収納の空間魔法がかかった物は中に何が入ってるかを確認できる魔法を大抵つけるんだよ」
エドの説明に便利な財布だなと丈夫な革製の巾着袋を見る。
「他には軟膏タイプの傷薬や包帯などの応急処置ができるものがセットになったポーチ。毒消しなどの低級ポーション類のセットが入った保護の空間魔法がかかったポーチ。ずぼらな方にもおすすめの、これを使うだけで全身清潔になれる浄化魔法のこもった石がついた指輪は今から持っておいてもいいのではないでしょうか」
「浄化魔法?」
「ざっくり言うと、悪いものをきれいにするっていう魔法だね。あの指輪は風呂とかに入れない環境での行動中にも清潔を保って病気とかを予防することを前提に作られた物だけど、ものぐさな人は普通に日常で使ってるよ」
魔法の事なのでヴァンがいきいきと説明してくれた。なるほど、泊まり込みの時とかに持ってたら便利なやつか。
「手にはあまりつけたくないんだが、指輪以外にあるのか?」
「いやツッキー。必要な時だけつければいいんだよ?」
「そうは言うが、できればつけたくないんだ。耳は俺の力を制御するイヤーカフスがあるから、ネックレスあたりでないだろうか」
「こだわりがある方はいますから、もちろん他の形状もありますよ」
そう言ってワタルさんが少し離れた棚に取りに行く。
「手につけるのはやなのか?」
エドが首をかしげて聞いてきたので、昔のことを思い出しながら答えた。
「俺はもともと家の家事と弟の育児をほぼ全部やっていたから、うっかり傷つけそうな金属とかはつけない方がよかったからな。今もその癖が抜けないんだ」
今回話題になった指輪そのものが清潔にするものだから、衛生面では心配ないと思うがやはり凶器にもなりうるものは極力手につけたくはない。
いやでも今のような武器がない状態では、手を保護する意味でも何かつけた方がいいのだろうか。
そんなことに悩みながら、戻ってきたワタルさんと話し、中古品なども見せてもらいながら買い物を終えた。
「バッグとか買ったら二十万以上か。結構な金額が消えたな」
「まあ、魔法付与されたものがあったからなぁ。靴もそうだけど、駆け出し初級冒険者はそこまでのものは普通買えないよ」
「そうなのか?」
買い物が終わってギルド内の食堂で物を整理しながら雑談していると、ヴァンにそんな風に言われてしまった。
「あの人もツッキーに余裕があるから色々出したんだろうね。まあ、今後のこと考えたら悪くないと思うけど」
「ポーション類は僕たちもそろえられてませんね。武器などの方を優先しました」
「まあ、受ける仕事によっても必要なものも変わるだろうしな。ここの人たちは俺をダンジョンへ行かせたがってるみたいだから、そういうのを出してきたんだろ」
応急手当て用のセットやポーションなど、戦う仕事が含まれることを踏まえたものだと思う。あと清潔になる道具はここに来た時俺が返り血でめちゃくちゃ汚れてたからだろうな…。
「そういえば、武器はそれでよかったのか? 手には付けたくはないって言ってたけど」
「ああ。まあ仮だからな。よほど固くなければ使うつもりはないし」
エドに指摘されたものは武器として購入したナックルダスターだ。刃物などはついていないシンプルなものの上、中古品なので安かった。いざというとき用なので使うかはわからないが、念の為だ。
「さすがに素手で岩を砕いたりするよりは、こういうもの使った方が楽だからな」
「なくても岩砕けるんですね…」
「拳でも足でも行けるぞ? まあ、最近は年なんでちょっときつい時もあるけどな」
若いころは…いや黒歴史が出てくるからやめよう。
「ツッキー強すぎだろ…」
「いやー…俺の周りはいろいろ強いやつが多かったからな。俺自身はそこまでではないぞ?」
「ツッキーの周りがおかしいだけだよ。多分」
まあ、周囲の人間+αがものすごく強いのは俺も知っている。頑張れば一国制圧できるとか冗談でも言わないでほしい。そしてそんな奴らが所在不明とか、今改めて思うが状況やばいんだよなぁ。
「ツッキーさん怖い顔してますよ?」
「ああ、悪い。探してるやつらのことを考えてた」
「心配ですか?」
「…いろんな意味で心配だな」
「なんだそりゃ」
「簡単に死なないやつらが大半だが、そういうやつらは何かやらかしてそうで心配だ。まあ、人が大勢不自然に消えたとかがないのなら、多分今は平気なんだろう」
三人はうまく俺の言ったことを処理しきれていないようだ。
うん、まあ。
色んなものを爆発物にできるやつとか、やばい場所に転移できるのとか、そういうやつの能力を強化できるのとか色々いるなんて、俺も実際会わないと信じられなかったな…。
お買い物が長くなってしまい少々雑ですがこれにてようやく一日目は終了です。
すごくかかってしまった…。