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ツッキー(独身)は筋金入りの主夫である

 冒険者になった翌日、俺は紹介された宿屋の一室で目を覚ました。

 あの後少しぼんやりしていた俺を心配して、三人がすぐにギルド近くの初級冒険者向けの宿屋『ウサギ亭』に俺を連れて行ってくれた。手続きもしてくれ、すぐに部屋を確保することができたのでだいぶ助かった。


「今何時だ…」


 いつもなら家事もあるので最低五時には起きているが、借りた部屋には時計がないので今何時なのかわからない。


「腕時計もスマホも日時部分が文字化けしてるから役に立たねぇ…この村はどうやって時間を把握してるんだ?」


 ベッドから起き上がり、窓を開ける。

 あの巨木のせいで『ウサギ亭』のあたりは影になっていて、俺には全く時間はわからなかった。



「うえ、ツッキー早くね?」


 あの後身支度を整え食堂に向かい、まだ準備段階だったので手伝える作業を手伝っていたらエドたちがやってきた。


「おはよう。そういう三人も早いな。まだ宿泊客もあまり食べに来てないのに」

「おはようございます。普通に厨房で働いてるんですね。金銭に余裕はあるのに、今から節約ですか?」


 アルはそう聞いてきたが、別に節約については考えてなかった。

 ちなみに『ウサギ亭』は初級冒険者の支援をしているので、宿に貢献することで料金が安くなるといった制度がある。そのため、食堂の下準備の段階では数名冒険者の子供がいたが、今はもう賄いを食べていなくなっている。


「いや、家では子供のころからほとんどの家事をやってたから習慣みたいなもんだ。動いてた方が落ち着く」

「はよ~。エドも挨拶しなよ」

「はよ…ツッキーも子供の時から働いてたのか?」

「働いてたというか…母が弟を産んだ後死んでな。残った父と姉がほとんど家事ができない人種で、なし崩し的にまともに家事ができる俺が担当することになっただけだ。あの二人の作った料理で弟を殺すわけにもいかなかったしな…」


 そう、我が家は俺と弟しか家事ができない。父と姉はかろうじて及第点出せるのが掃除ぐらいなのだ。弟の育児の方も危なっかしかったので、弟を育てていたのはほぼ俺だった。


「どんだけひどいんだよ…ツッキーの父ちゃんと姉ちゃんの料理」

「基本見た目がひどい。見た目がまともな場合は味が殺人的にヤバイ」

「うわあ…」

「後半のはトラップか何か?」


 思い出すだけで吐き気がしそうなので記憶を封印しておく。ちなみに見た目がひどいときも味はお察しだ。


「まあ、そういう感じで子供のころから家事はしてたんだ。こっちの道具にも慣れたかったし、調味料も把握したかったからちょうどよかった」


 意外とガスや電気代わりに魔石を使った便利な道具はあったので、薪を使った竈などはあまり使われていなかった。魔石式竈や魔石式氷室は本当に便利だ。そして調味料もさしすせそはもちろん、香辛料の類も豊富で気兼ねなく使えるという好条件だった。ただ、顆粒出汁などの便利なものはないので、そこは準備が必要だ。食材も知っているものもかなりあるので、自炊には困らなそうである。


「うーん、ポジティブ…というかツッキーって料理うまいんだね」

「普通だと思うが。食べてないのになんだその感想?」

「いや、うまいと思うけど。でないとこの時間に厨房に入れてもらえないだろうし」


 野菜の皮むきの後、確かに小鉢のアイデアはないかと聞かれ、さらにスープの番を任された。


「当たり前だ。皮むきの際の手際から見てて料理できるのはわかってたからな」


 後ろから声をかけてきたのは宿屋の料理人のタクミだった。結構ごつい男で、宿屋を経営している夫婦の一人息子という話を聞いた。ちなみにこの宿屋の従業員は皆中級冒険者でもあるらしい。


「おまけにこいつ賄い用に野菜の皮できんぴらっつう料理も作ってたし、昼用の仕込みも手伝ってもらったおかげでもう大体終わった」

「有能だ…!」

「きんぴらは家庭料理レベルだろ。たいしたことない」


 他の手伝いの冒険者たちがかなり厚めにむいていたのでもったいなく思い、つい作ってしまったが意外と従業員たちの口に合ったらしい。


「野菜出汁を教えてくれたし、正直冒険者じゃなくここで働いてもらいたい」


 野菜くずで作る出汁は家で弟とともに作っていたので、きんぴらに使わなかったものなどを使って作ってみた。こっちではそう言うのがなかったようで、味見したタクミにはえらく気に入られてしまった。

 三人が期待の眼差しでこちらを見ている。いや、タクミも見てるから四人か。


「じゃあ、ここで朝飯食べていこうぜ!」

「そうだね。たまにはここにしようか」

「つーことで三人分のモーニングよろしく」

「まいど」


 タクミがサクサク会計を済ませた。

 その会計の際に硬貨を使わなかったのを不思議に思いながら三人分の具だくさんスープをよそい、タクミがでかい手で握ったおにぎりを一つずつ。そして小鉢を用意する。人参と卵でしりしりを作ったが、口に合うだろうか。

 近くの席に着いた三人がさっそく食べ始めるとすぐに感想を言ってくれた。


「この人参のうまいな!」

「卵と人参なんですね」

「スープもおいしいよ」


 おにぎりと一緒に食べながら褒めてくれるので思わず笑顔になる。

 人探しがなかったらこういうところで働くのは楽しいと思うのだが、いかんせんそう言うわけにもいかないんだよなぁ。

 三人の反応を見ていたらタクミがおにぎりを作りながら声をかけてきた。


「ツッキーはこの後買い物だったな。そろそろ上がっていいぞ」

「いいのか? これからが忙しくなりそうだが」

「もともと予定には組み込んでなかったからいなくても大丈夫だ。あと、これはお前の朝食。今日の賄いだ」


 そう言って三人のと似たようなセットを渡された。違うのは小鉢が俺の作ったきんぴらという点だろうか。


「ありがとう」


 受け取って三人に合流する。


「そういやぁ、ツッキーってあの人にもツッキーって呼ばれてんだな」

「そういえばそうですね」

「それはお前らが宿帳にツッキーって書いたからだろうが」

「洗脳したみたいになっちゃったか。ごめんね?」


 ヴァンは口では謝っているが、笑っているので悪いとは思っていないのだろう。


「ところで、お前らさっき会計したとき硬貨を出さずに石をタクミの出した似た石にあててたけど、あれは?」


 とっとと話を変えようと先ほど見た光景について聞くと、エドが話し出した。


「そうそう。あれをツッキーにも作ってもらおうと思ってさ。今日はまず商業ギルドに行こうぜ」

「あれは財布代わりになる石なんです。冒険者ギルドではあれ作ってくれないからお金預けないように誘導させてもらいました」

「じゃらじゃら金持ち歩くのは面倒だからね。シェルストーンなら便利だよ」


 話を聞くと、銅貨を何百枚も支払いに使うのはどちらの立場でも面倒なので、その面倒を解消する方法が商業ギルドが発行しているシェルストーンらしい。商業ギルドに口座を作り、その中に入れた分がシェルストーンでの支払いに使えるということだ。つまり石の形をしたデビットカードか。


「一応銀貨を半分にした半銀貨っていうのもあるけど、あれはグレーだからな」

「硬貨は三種類しかないもんなぁ。そういう手段は生まれるか」


 先に食べ終わった三人を待たせないようにさっさと食べ終え、食器を戻す。

 さて、服とか必要なものは今日中に揃えられるかな。

ツッキーは結構幼少期から苦労しています。

ちなみにツッキーの家は剣道の道場で道場ももちろん敷地内にあります。

つまり、とても家事が大変。父親と姉は剣道は強いのですが家事をこなすツッキーに頭が上がらなかったりします。

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